021話 武器のシン調
またしても0時過ぎに!!
書いてたら筆が止まんない…時間を忘れる…
サラと呼ばれる女の子とクリスと三人で宿へと向かう。
深蒼の肩までのボサボサした髪、おどおどして泣きそうな目、俺の胸くらい…百五十くらいか?の身長、お世辞にも綺麗とはいえないヨレヨレのローブ、杖だけはそれなりのものを持っているように見える。
こんな子に護衛なんて出来るのか?
「「「………」」」
三人の間に気まずい沈黙が流れる。
「えーと…サラさんだっけ?君も騎士団の団員なの?」
「は、はい!」
こいつさっきから『は、はい!』しか言ってねぇな。
「ずいぶん若く見えるけど、あそこのメンバーにいたってことは結構な実力者?」
「い、いえ…私は、その、今回の、騎士団派遣の、唯一の、魔術師で、その…」
「え?唯一?ってまさか第五中隊だかって、あの人数だけじゃないしょ?それでも一人なの?」
「は、はい、ギルドの方が、用意してくれた、宿に、あと三十人、くらいで、今回は、その、第五中隊なので、魔術師は、私、だけなので…」
サラの言い分だと第五中隊ってのは魔術師がサラ以外いないらしい。
騎士団って言うくらいだから騎士が多いだろうなとは思ってたが、まさか魔術師一人って。
人の事は言えないが、相当偏った編成じゃないか。
「じゃあ貴重な魔術師なんだ、やっぱりかなり強いんじゃない?」
「いえ、その、他の騎士の方も、魔法は、それなりに、使えるので…」
まぁ俺もクリスも魔法が使えるからな。
騎士が使えないってことはあるまい。
にしても随分とビクビクしてるな。
これじゃどっちが護衛かわからん。
その後はホントに当り障りのない話、道中は大変だったかとか、明日からクエストだろうから頑張ってとか、そんなことを話した。
ちなみにクリスが話しかけんなオーラが凄かったので、いないものとして扱わせてもらった。
そうこうしているうちに宿の前に着いた。
「あ、じゃ俺達はここまでなんで。」
「は、はい!」
「あー、護衛ありがとう。」
「!は、はい!と、当然のことです!」
サラは元気に返事をし、来た道を走って戻っていった。
うーん、小動物系だな。
「…むしろ、あの子のほうが夜道危ないと思うんだけど。」
クリスがもっともらしいことを言った。
俺も同意見だ。
とにかく明日からはクエストも自分たちのペースで出来るみたいだし、少し休んでから情報を集めがてらクエストをやっていこう。
次の日は一日休みにして、お互いに自由行動となった。
俺も流石に武器を買い換えたいと思ってたし、クリスも女の子としての必要なものがあるとかで、この街に来て初めての別行動となった。
何が必要なのかはわかんないけど。
「こんにちはー」
「お!今この街で一番話題の冒険者の兄ちゃんじゃねぇか!」
「こそばゆい、やめてくれ…」
店に入ると、武器屋の店主は豪快に笑いながら話しかけてきた。
「まぁそう言うな、おめーさんのおかげでギルドも依頼主もだいぶ助かったんだからよ。」
「そう言ってもらえると嬉しいが、一ヶ月ろくな休みもないままだと流石にきつい。」
軽口を叩きながら今日来た要件を伝える。
そして、俺の『武具メンテナンス』でなんとか騙し騙し使っていた剣をカウンターに出す。
村でクリスにもらってから、ずっと使い続けている剣だ。
正直、今でも折れないでいる事自体奇跡かもしれない。
「こいつはまた…凄い剣だな…」
「え?伝説の剣?」
「逆だ。よくこんなもん使い続けてたな。物持ちがいいにも限度があるぞ。」
確かに、メンテナンスは欠かしてなかったが所々に見える細かい傷やヒビ、ぎりぎりまで研いで芯が見えそうになっている。
ここまで行くと切れ味云々じゃなくて、如何に折れないように剣を振るうかが重要になってくる。
「手入れは十分できてるってのが伝わってくるが…この剣はもうお役御免だな。」
「やっぱりか…残念だ。なら買い換えるから店の中で何かおすすめのはない?」
「うーん、あの壁に立てかけてあるのは前の時にあんまり気乗りしなかったろ?そんな品揃えは変わってないし…ちょいと値が張るもんならなくはねぇが、いくらまで出せるよ?」
「ふ………聞いて驚くな、今の俺は小金持ちだ。金貨………十枚までならクリスから許可をもらっている!!」
俺は十分に勿体つけて、わざわざアイテムボックスから金貨が入った麻袋を取り出し、これみよがしに店主に見せつけた。
「なん…だと…金貨十枚…あのシビアな姉ちゃんが…十枚…だと!?正気か!?兄ちゃん!!」
店主もしっかり乗ってくれる。
だが口には気をつけたほうがいい、どこかでクリスが聞いているかもしれない。
「あぁ……俺は十分正気だよ…だから、この金貨十枚でいいのを…いや、ベターではなくベストの剣を見せてくれ……!!」
「………そこまで言われちゃぁ、こっちも半端なもんは見せれねぇな…ちょっと待ってな…」
そう言って店主は奥へと引っ込んだ。
ふ…いいのを期待してるぜ…
少しすると、三つの木箱を抱えて持ってきた。
「正直に言う、金貨十枚はうちでは限界の高さだ。この辺だとそんな高級なものより、安くて丈夫なものが売れるんでな。
さらに、ガイレン山脈の大遠征で来たようなよそもん共に売る気もねぇから、店頭にある最高額は金貨五枚だ。」
そう言って店主は壁にかかっている豪華な剣を顎で指した。
「あれは兄ちゃんには合わねぇ、それは間違いない。」
「ちなみにあれはどんな剣なんだ?」
「風の精霊の加護が込められている。軽い上に斬撃で真空波を出せる。その分デリケートでな、切れ味に特化しているから単純に硬いやつなんかには歯がたたない。
俺の情報だと、兄ちゃんは『飛翔剣』を使えるんだろ?だったら斬撃での真空波はいらねぇし、切れ味だけ良くても物足りねぇだろ。」
「よく顧客のことを調べてるな。」
『飛翔剣』は何度か使っているし、そんな秘密にしてもいない。
どこかからか伝わってもおかしくはない。
「そこでこの三つだ。」
店主はひとつ目の木箱を開ける。
長年置いて置かれたんだろう、開ける際に埃が舞った。
「柄の部分は丈夫な黒鉄を使用し、刀身は赤竜・レッドドラゴンの牙を加工した骨剣。骨剣なんで扱いが難しく、値段も張るんで長年蔵に眠ってた一品だ。」
店主が進めてきたので軽く持ってみる。
確かに鞘から抜いた時、金属が擦れる音はせず、刀身の大きさの割にずっと軽い。
金属質ではないが、恐ろしい切れ味なのは見ただけでわかる。
軽く振るうのですら躊躇われた。
「すごいな…力強さが他のとは全く違う。」
「だろ?赤竜の牙ってだけでかなりの力だからな。」
ぶっちゃけこれでもいい気がしてきたが、せっかくだから他の剣も見てみよう。
「次はこいつだ。刀身の刃の部分が碧水晶で作られていて、切られたことに後から気がつく、と言われるほどの鋭い切れ味を誇る。この鞘と柄でなければその斬れ味すら抑えられない。不用意に刃の部分に触ると、指くらいなら一瞬で切り落としちまうぞ。」
鞘から抜くときに最新の注意を払って刀身を抜き出した。
これは異常だろう。
さっきの赤竜の牙の剣もすごい切れ味だと思ったが、こっちはタイプが違う。
例えがうまくできないが、さっきの剣の切れ味はどちらかと言えばものすごく切れ味のいい斧、こっちは極限まで切れ味にこだわった日本刀といったところか。
「碧水晶を使ってるんでそうそう刃こぼれもしねぇし、黒鉄の剣より頑丈だぞ。」
そいつはすげぇ。
あれより頑丈なのか、全力で振るっても問題なさそうだな。
「最後はこいつだ。ちょっと今までのとの趣向が違うが…」
そう言って店主は戸惑いがちに箱を開けた。
「これは…」
「そう、剣玉だ。」
なんぞそれ。
箱のなかには、刀身の中央に無色の玉がはめ込まれた特になんの変哲もない剣が鎮座していた。
「…もしかして知らないか?」
「知らん!」
「…まぁいい。剣玉が埋め込まれた剣は、所有者登録をすればその人物と一緒に成長する剣だ。剣玉が埋め込まれている剣の元の素材が良ければいいほど、所有者が強ければ強いほど、強くなれば強くなるほど、剣そのものが強くなる。
つまり、無色のこの状態だと素材の力しか無い上に、ヘタするとそのへんのナマクラにも劣る剣だ。」
「だけど成長すれば…」
「そう、まさに伝説の剣ってくらいまでいけなくもないんじゃねぇか?」
なんとも心が踊る武器だ!
「でもなんでこれが大量に売ってないんだ?」
「剣玉ってのがそもそも希少なんだ。どこで手に入るかもわかんねぇし、たまに市場に流れることがあってな。
こいつも俺の親父の親父の代…じーさんの代だな、からずっとあって、どこで手に入れたんかも俺は知らねぇんだよ。」
所有者とともに成長する剣…俺にうってつけなんじゃないか?
「それにな、登録者が最低でもAランク冒険者くらいじゃねぇと…前の二つの剣のほうがマシなんだよ。」
「つまり今の俺だと、微妙ってわけか。」
「あぁ、強くなるのはわかってるんだが、今現在の強さで強い武器がほしいってんなら、剣玉はおすすめしない。」
「……いや、気に入った。この剣玉にするよ。」
「そうか?他の二つでも悪くねぇと思うが…お前さんがそう言うなら。」
そうして俺は剣玉を買うことにした。
成長する武器…なんてロマン武器なんだ!!
こういうのを待ってたんだよ!!
俺は内心ワクワクしながら、店主から細かい話を聞くのだった。
********************
同時期・ガイレン山脈中腹の高原にて
「あーまだかよ…もう飽きてきた…」
「リーダー、もう少し待ってくださいよ、きっともうすぐですよ。」
とある中年の冒険者がつまらなそうに愚痴を言い、部下と思しき青年が慰めていた。
「予定では、だいたいあと一ヶ月くらいだろ?万が一を考えて早めに来たってもなぁ。」
「まぁ街が襲われるよりか、迎え撃つほうがいいわけで…」
「別にいいじゃねぇか、あんな寂れた街。俺達がはるばる来なけりゃ、魔物の群れですぐにぶっ潰れるだろ。」
「いや、ブルムの街出身の冒険者もいるんだから抑えてくださいよ…」
青年の冒険者は慌てて小声で話す。
それを見て若干口が過ぎたと思ったのか、中年の冒険者も口をつぐんだ。
魔物の予測進路上に位置し、戦いやすいこの高原に着き野営地を設営してから既に三日。
周りでちょこちょこそれなりに強い魔物も出てはいるが、大きな問題もなく魔の大陸から進行してくる魔物を待っている。
純粋な冒険者の数だけを言えば、千は下らない。
パーティー単位でも二百近くいる。
魔の大陸の魔物が強いのは知っているが、このクエストの参加資格はCランク以上、しかも前線はBランク必須というかなりの強さなのだ。
シルベルト王国中の上位ランク冒険者が来たんじゃないかってくらいだ。
「ま、俺達も死なねぇ程度に魔物を狩って、一攫千金といきますか。」
魔の大陸から来る魔物は、ほぼすべてが強力でありその分、素材がとても高値で売れる。
今回は国からの依頼であり、依頼報酬もあり素材も回収できる。
なかなかに美味しいクエストなのだ。
そんなことを考えてると、にわかに近くのパーティーが騒がしくなった。
何事かと覗いてみると、一人の冒険者が盛大に戻していた。
「まったく!だから言ったろ!森には入るなって!」
「あ?そいつ森に入ったのか?」
「あ、あぁ…麓の森と同じ感覚で入って"当てられた"んだよ。」
「バカが…山脈内の森に入るんて、命がいくつ合っても足りねぇよ。自殺志願者かっての。」
冒険者の中での"常識"すら知らない素人が混じっていることに、中年の冒険者は苛立ちを隠せなかった。
自分のパーティーに戻ろうとすると、またしても隅の方にいるパーティーが騒がしくなった。
「なんだよ、またどっかのバカが森に入ったか?それとも高山病………」
そう言いそうになった、その時。
騒ぎ声が聞こえていた方から、人間の悲鳴と、身も毛もよだつような"魔物の"咆哮が聞こえてきた。
これが、ガイレン山脈の冒険者大遠征部隊と、魔の大陸よりガイレン山脈を渡ってきた魔物の、最初の邂逅であった。
お読みいただき、ありがとうございます!
ブクマ・感想等本当にありがうございます!これからも楽しんでいただけるよう頑張ります!
私も忘れかけてた大遠征部隊




