102話 勇者候補
長々空いてしまいすみません!
時間は作るもの…時間を作らねば…
アレクが勇者候補じゃなくなった?
いきなり何言ってんだこいつ?
「ってわけで『転移』が使えないからその移動方法は無理。でも確かにいつまでもここに置いておくわけにはいかないよね、早めに近くの村とかに連れて行こうと思うんだけど…」
「ちょっ…ちょっと待て!何サラッと流そうとしてるんだよ!」
アレクが意図的かは分からないが話題を変えようとしているのを感じ取り、話を一旦中断させる。
「勇者候補じゃなくなった?どういうことだよ。まずそこを説明してくれ!」
「え~説明が必要なのかい?…あ、そっか。君は勇者候補じゃないから知らないんだっけか。」
アレクは俺の質問に対して、完全に忘れていたといった表情をした。
先程のアレクの複雑な表情は、知ってて敢えて聞くのかよ、という非難の顔だったのか。
「君のあまりの規格外っぷりにどうしても忘れがちになるけど、君はただ巻き込まれただけだもんね。いや、説明が足りなかった。」
「何度も言ってるだろうが…」
アレクは、ごめんごめんと悪気なく謝罪してくる。
「まぁいい機会だし、細かく勇者候補って言うのがどういうものなのかを説明しようじゃないか。コレは僕が聞いたこと、調べたこと、経験したこと、それらから総合的に判明したものも含まれているから、他の勇者候補よりも詳しいかもね。」
そう言って、アレクは勇者候補とはそもそもどのようなものか、という事を語りだした。
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この世界最古の『勇者』と呼ばれる存在が確認されたのは、今からおよそ五千年前
もっとも、この確認というのは『書物が残っていた』『遺跡に記載があった』というものであって、実際はそれより過去にも、勇者がいたかもしれない
そしてその勇者も、例の如く世界を危機から救ってその生命を全うしたらしい
危機とやらがなんだったのか、具体的に記された記述はないそうだ
その後の世界は平和そのもの
所々で諍いや争いはあるにせよ、世界崩壊に繋がるほどのものではない
そうして数百年後
同じように世界が危機に瀕した
さらに同じように、勇者が出現し世界を危機から救った
また、不思議な事にその時の危機とやらも、記述は見つかっていない
そんなことが数百年単位で繰り返され…
勇者、という存在は名を変え場所を変え、歴史上数人が出現していた
そしてそれと同時に、正体の分からない危機とやらも出現していた
歴史上、その危機とやらがはっきりと記述されていることはなかった
火山の大噴火、古代遺跡の復活、隕石の落下、魔王の誕生、暴君の世界征服
ここ二千年ほど、残された書物にそういった記述があるが、具体的なモノは一切ない
全てが不明
一説では、『未来に不安を残さないため、勇者が具体的な時記述をしないようにし、人々の忌々しい記憶を封印した』という暴論すらある
だが、それを否定する証拠も、証明する証拠もない
ここまでになると、危機自体、単なるお伽噺ではないか
そういった声も上がるはずだ
だが誰ひとりとして、それを口にすることはない
なぜなのか
世界共通の、絶対的な証拠があるからだ
たった一つだけある証拠
かつての世界の危機を証明する証拠
それは
国と国、大陸と大陸を繋ぐ『門』
その門の先は大陸のはず
だが
先のない門
そういった門が存在するのだ
しかも複数
それが意味するもの
それは大陸の消滅
かつてあったはずの大陸が消えている
そう考えるのが普通だ
故に誰しもが『何かは分からないが世界は危機に瀕した』ということを理解している、信じている
そして世界が危機に瀕した時現れる、選ばれし者たち、それが勇者候補なのだ
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「だけどそれおかしくないか?」
「あぁ、そうだね。いくつかおかしな点がある。」
取り敢えず、一息に概要だけ説明し終えたアレクがため息を付きながら同意する。
「ちょ、ちょっと待って!シンは知らないかもしれないけど、エルフとか何百年も生きる種族もいるのよ!?なんでそんな記録が曖昧なのよ!」
クリスがやたらと焦ったふうにアレクを問い詰める。あ、やっぱりエルフ的な長寿の種族もいるんだな。
「そう興奮しないでよ。今言った話ですら、僕が百年かけていろんな文献や土地の話、それこそ長寿の種族に話を聞いて総括した上での話なんだから。」
どこから持ってきたのか、アレクはお茶のようなものを手にし、一口味わって「あ~…」と年寄りみたいな声を出した。
…可愛いのにババ臭い。ていうか俺にもくれよ。
「…………」
難しい話だからどうせ寝てるだろか、と思いウィルを見ると、予想に反してとても真剣な目つきで耳を立てながら…いや、真剣というよりも、なんだろうな…何か若干苦い表情をしているような…
「取り敢えず、今の話は触りの部分。勇者候補がどんなものかって説明する前に、知っておいてほしかった部分だね。こっからはちょっと想像と予想と僕がこっちに転生した際に聞いた話、それらをまとめたものになるから、結構無茶苦茶な話になるかもね。」
俺達三は三者三様に頷き、話の続きを促した。
「結構。じゃあいきなり衝撃的なこと言うけど驚かないでね?」
偉そうにアレクが頷き、話を再開させた。
「前に言ったよね?世界を救う方法を教えられた者が勇者候補。そして教えられた方法で、世界を救った者が後に勇者と呼ばれる、って。これは嘘じゃない、正しい。でも、これだけじゃまだ足りないんだ。」
「足りないって言うと?」
半分正解で半分嘘、とかではなく足りない、と。
これ以外に条件があるのか。なんだ、知名度?
「それはね……」
「他の勇者候補を殺すこと」
その事実はアレクの口から語られたものではなく
「……やっぱり君は…いや、君の種族は知っているんだね、ウィル。」
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