101話 目覚め
説明回
基本的にアレクが説明しながら、時折クリスとウィルが補足しながら説明してくれた。
ちなみにウィルのは補足ではなく、「ぼくが頑張った!」とかの感想でしかなかったと言っておこう。
時間として、俺が気を失ってから既に二日ほど経っているらしい。
俺が気を失った直後、三人は手持ちの薬草とかをありったけ使ったがまるで回復する様子のない俺に、恐らくあの姿になったことの反動でこうなったのだろ、そしてこれは薬草とかでは回復できないだろう、という目算を付けたそうだ。
朝日に照らされながら、取り敢えず俺をこの部屋に担ぎ入れ村人の救助に向かったそうだ。
そして予想通り、村人たちはいなくなった人数よりも大幅に数を減らしていた。それでも女性と子供が多く残っていたのは幸いだとクリスは言っていた。
クリスを見た村人は泣きながら「夫はどこ!?」「父さんが連れてかれた!」という悲痛な叫びをクリスに訴えた。
当のクリスも結末を予想はしていたが、唇を噛み締め「今探してるから、もう少しここで待ってて。」と答えるのが精一杯だったという。
事実、アレクは「村人は実験材料にされたはず。もしくは研究室で生き残ってても、目も当てられない様な状態だろう。」との見解を示し、村人を救出した後に調べた研究室も凄惨な状況だったという。
壁一面の模様かと見紛うような夥しい血飛沫の跡
培養液に漬けられた人間の身体の一部
明らかに死んでいるはずが生命反応を示す標本のような脳髄
逆に全く生命反応がないのに受け答えをする魂のない人間…のような人形(この人形は後に自壊したという)
そんなモノがそれなりに広い研究室に無数に、無造作に置いてある
まさに地獄と言って差し支えないものだった。とはアレクの言だ。
三人の中でも意見が割れたようだが、結局は全てを破壊する、という結論に至ったそうだ。
こんな状態で生きているとは言えない、人間を、死者を弄ぶことは出来ないという。
だがアレクの『魔人融合』を使えば元に戻すことができる可能性もあるのでは?とは思ったが、話の腰を折るのも憚れるので、取り敢えずは全て聞くことにした。
結果、その場で破壊できるものは破壊し、荼毘に付すことができる人達は、その場でいっぺんに焼き払ったそうだ。
研究設備自体はアレクがいた頃とそれほど大きな変化はなく、使い方によっては人の役に立てることも可能とのことでそのままにしたとのこと。
その後、残念な結果になったと村人に報告に行った。
泣き崩れる人達の肩を抱き一緒に泣くクリスは、大粒の涙を流しつつ謝罪の言葉を呟いていたそうだ。
村人のケアと事情説明は村民でもあるクリスが適任だったため、そのまま現在に至るまで村人と一緒に話とかをしているそうだ。
バロックのことに関してはアレクが担当することになった。
研究結果もかなり残っていたようで、あのオルドとかいうやつはかなり几帳面だったらしく何があったのか相当詳しく調べれたそうだ。
研究日誌もレポートも詳細に残っており、どのようにしてバロックがああなったのか、そしてここで何をしていたのか、それを見つけ出すことも可能だという。
まだ全てを調べきれてはいないようだが、調査は順調に進んでいるとのこと。
俺が起きた時に読んでた汚らしい本は研究日誌か何かだったのか。
ちなみに屋敷兼研究所に出現していた人工魔物については、気付いたら一匹もいなくなっていたとのこと。
厳密には全て無機物に戻っているらしい。
アレクの考えによると「『空間固定』内で戦ってたから長時間外側に何も影響がなく、異常が治まったと認識されたんだと思う。」とのことだ。
ここで気になるウィルの役目は何かというと
今はまだいいが、この辺はかなり魔物が近寄る地域らしく本来アレクが設置してあった結界もバロックによって壊されていたせいもあり、この研究所は無防備状態。
その警戒にあたっているそうだ。
クリスの『気配察知』もそれなりに広範囲を探せるが、ウィルの嗅覚のほうが実は有効範囲が広い。
『気配察知』は範囲内に入らなければ一切感知できないが、臭いは風にのっても届くし怪しい、という曖昧な感知もできるからだ。
なので今のウィルは歩哨と言うか警備兵みたいな役割を担っているとのことだ。
そして次に問題となるのはサラだ。
ここまで放置した理由として、俺がかけた魔法はかなり強力だったらしく、ちょっとやそっとじゃ十年単位で解けない氷だと判断したため最後に回したんだとか。
正直コレは一切の解決方法は見つからず、それを直近の今後のこととして話したい、ということだった。
「なるほどな。」
痛みを堪えつつ、三人の話を集約する。
まず村人に関して…近くの街に連れてくかローグス村…はもうないから、麓のブルムの街くらいまで送ってあげる方がいいのではないだろうか。
正直こんなところにはいたくないだろうし。
「アレク、お前のスキルで村の人達を安全な所、せめて近くの街かどこかに連れてくこと出来ないか?ここは安全とは言えないし、そもそもいたくはないだろうし。」
特に何か責めたつもりは一切ないし、自分自身おかしなことを言ったとも思ってない。
だが俺の言葉を聞いた三人は、複雑な表情を浮かべていた。
「?どうした?俺変なこと言った?」
「あぁ…いや、君は何も間違ったことを言ってないよ。寧ろそのとおりだと思う。」
「……先に言っとくべきだったわね。」
「うん……」
「え?何を?」
意味深な事を言われる。
なんだ、めちゃくちゃ気になる。
アレクが大きく深呼吸し、吐き出すように話し出す。
動作そのものは、深刻な告白や言いにくいことを言う際の動作だが、アレクの声色はそんなものを一切感じさせない、いつもの、本当にいつもの調子で、さも大した事じゃないかのように言葉を吐き出した。
「実は僕、勇者候補じゃなくなっちゃったんだよねぇ。」
いつもの三日月の口元と、どこか皮肉と寂しさ込めた瞳で、はっきりとそう言った。
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