100話 失ったモノ、得たモノ
あんま進みません
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バロックが霧状になり見えなくなるまで俺たちは空をみあげていた。
あいつの目的は
あいつの正体は
あいつがやろうとしていることは
何一つわかっていない
ただ、漠然と将来に想像さえ出来ぬほどの不安を残しただけのような
そんなモノが俺たちの胸に残っただけだった
「…………取り敢えず、一旦は終わった……のかしら。」
最初に口を開いたのはクリスだった。
「失ったものは多くて、得られたのは少ない。終わったというよりも、負けたってことだろうね。」
アレクの意見は辛辣ではあったが、それは誰しもが抱いているものだった。
「とにかくもう無理。僕はここから一歩も動けないよ。」
そう言ってその場に倒れ込むアレク。
幾分か回復しているとは言え、冷静な目で見ると全員が満身創痍。顔色も良くはなっているが、明らかに悪いのは間違いない。
そしてそれはアレくだけではなく、みんながそうだった。
「ごめん、あたしも緊張感がなくなったら…」
「ぼ、ぼくはさっきからずっともう無理……」
各々が地面に倒れ込もうとする。
「気持ちはわかるが、早く村の人達を助けないと。それにサラも…」
村の人達は無事なのか?
それに氷漬けにしてしまったサラもなんとかしないと。
まずは氷を…ほとんど絶対零度状態を解除して、それからあの致命傷をなんとかしないと…
「………そうね、ごめんなさい。休んでる暇はないわね。」
俺の言葉を聞いて、クリスの表情が真剣なものに変わる。
いや、真剣な表情というのは少し違うか。
悲壮感、使命感、そして……絶望感。
バロックが実験の結果、あの身体を手に入れたんだとしたら、実験材料として連れて行かれた村人は……
それにサラも、操られていたとは言え実際にその身体を貫いたのはクリス。そのサラがかなり危険な状態というのも認識しているんだろう。
クリスの心情は、俺達の中で一番ぐちゃぐちゃだろう。
それでも俺の一言で萎みかけた心を奮い立たせる。ほんとクリスには勝てない。
「いや、俺こそごめん。そんなつもりで言ったんじゃ…」
「わかってる。色々言いたいことも謝りたいこともある。けど、それは落ち着いてから………シン?」
クリスと会話しているつもりだったが、急に視界が暗くなり浮遊感が身体を支配する。
あれ?今立って普通に話してたよな?なのに立っている感覚がない。ていうか目の前が真っ暗だ。
声が出ない。どっちが地面だ?
みんなの俺を呼ぶ声が酷く遠くに聞こえる。
ちょっと待って、なんでそんな焦ったような………
俺の意識はそこで途絶えた。
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次に目を覚ました時、俺は見知らぬベッドで横たわっていた。
この世界に来てから、こんな上等なベッドで起きたことなんてない。しかも布団は羽毛布団……ずっと申し訳程度の布切れといって差し支えない布団しか使ってこなかったぞ。
しかも室内の豪華さ、ドン・ベヘットの部屋ほどではないが、中世のそれなりのお屋敷の中みたいな内装。
こんな所で寝てるって…一体何が…
「おや?起きたかい?」
ベッドのすぐ横には、アレクが座っていた。
こんな側にいたのに全く気付かないなんて、かなり寝ぼけていたらしい。
「アレクか。ここは………あぁ、お前の屋敷、いや、研究所か。」
「そ。唯一ある客間さ。客間と言いつつ、ここを使ったのは君が初めてだけどね。僕が留守の間も一切使った形跡がないし、そもそも僕は客なんて呼ばないし。」
ならば何故造った。
とは聞かないのが花か。
俺だって仮に元の世界で一軒家を建てるってなった場合、和室は絶対に作りたい。別に使う予定はこれっぽっちもなし、きっと物置になるだろうけど。
アレクもそんな感覚で造ったのかもしれない。
「……あれから、どうなった?」
俺が意識を失ってから今に至るまで。
聞かなきゃいけないことは山ほどある。
「積もる話もあるだろうし、まずはみんなを呼ぼうじゃないか。」
「いや、俺が」
出向く、と言おうとして身体を起こそうとすると、全身に激痛が走った。
「!!」
「あぁ無理しない方が良いよ。今の君ははっきり言って重症患者。わかりやすく言うと、全身が極度の筋肉痛な上に所々の骨が骨折、もしくは複雑骨折してる。全治数ヶ月ってレベルだね。」
「な……ん…!」
一度痛みを認識すると、常時激痛に襲われる。
痛みに顔が歪み上手く話すことができない。
「それも説明するからさ。大人しく待ってなよ。」
アレクはそれだけ言うと手に持っていた汚い本を椅子に乗せ、クリスたちを呼びに部屋を出ていった。
「く……そ………」
痛みに耐えるために歯を食いしばり脂汗を流す。
それでも全身の至る所が骨折しているせいか、歯を食いしばるだけでも激痛が走る。
痛みの悪循環に陥り、思わず呻いてしまう。
これがあのスキルの代償か。
「シン、目が覚めた……って、物凄い痛そうね。」
それほど時間がかからず、クリスが部屋に入ってきた。
「ししょー!!」
ウィルが元気よく入り口から飛んで来ようとする。
な!バカやめろ!飛びつこうとするな!
そう言いたいが痛みでそれどころじゃない。
表情だけでもやめろ、と感情表現したいが、それすら痛みに耐える苦悶の表情から変えることが出来ない。
「やめな。多分冗談じゃなくて、今あんたが飛びついたらまたシンが気絶するよ。」
ウィルが飛びかかろうとする直前、クリスが持ち前の野性的勘でウィルの首根っこを捕まえる。
よかった…今飛びかかられたら痛みに耐える自信がない、間違いなく気を失う。
「全員来たわよ…………一人足りないけど。」
クリスの言葉の最後の方は、唇を噛み締め悔しさと申し訳無さが入り混じった、事情が知らない者が聞いたら怒気が含まれていると勘違いしそうなほど、重々しい声色になっていた。
「さて。それじゃぁ君に今までの事を色々説明してから、今後の事を話そうか。」
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