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まずは四人でゆっくりと

「クロア、そのソース取ってくれ」

「うん!」

「フェイ君、まだまだお肉もありますよ」

「ん、ありがとう」


すぐさま僕達は神々の住まう世界へと向かう、と思いきや、くつろいでいた。

アネクが他の皆に指示を出して、準備をするように言ったので皆が忙しそうにしている中、僕達はペアルールの草原に一軒家を急造し、そこで過ごしていた。


「でも、いいのかな僕達何もしてなくて」


何の動物か分からない美味な肉を頬張りながら僕は呟く。


「我らは準備はいらん。むしろ他の奴らがある程度我らに付いてこれる為に準備してるのだからな。……それに、最近しばらく四人で集まれてなかっただろ。おらっ」

「わっ」


アネクはぐいっと僕の手を引っ張って、無理やり膝の上に僕を乗せた。悔しいが、僕はアネクより身長が2、30センチ小さい。抱えられれば完全にぬいぐるみ状態だ。


「くく、ちいせぇなぁフェイ」

「君が大き過ぎるんだよ……」


前を見ると、同じような感じでクロアがマイさんに抱かれていた。うーん、マイさんほどじゃないにしても、アネクもなかなかグラマラスな身体をしている。こんなにくっつかれると、背中に色々と感じてしまう。


「そ、それより……あの仮説は、本当なの?」

「仮説に対して本当なの? ってどんな質問だよ。まあ、確信はあるぜ」


それは、アネクがあの時言っていた、『四高神』が僕達と同等、同性質の存在という仮説だ。


「にわかには信じ難いんだけど……だわわわわわ」


僕が苦言を呈すると、アネクは僕の髪をもはもはといじくりまわして笑った。うう、本当にぬいぐるみみたいな扱いをされてしまっている。

無論アネクの言うことも理解はできるのだが……いまいち、納得出来ない。


「何よりフェイ、お前は自分のことは分かってるのか?」

「え?」

「例えば、青白いお前の最大幸福についてだ」


言われてハッと気付いた。ドロソフィアから皆を助けようとした時に、発動したあの、あれは結局、なんだったんだ。

あの青白い何か。あれのおかげで、助けることができたわけだけど……。


「あれが、僕の、最大幸福?」

「そうだ。気づかなかったのか?」


そんな馬鹿な。僕の最大幸福は『 原罪と神罰(フードゥブードゥ)』だけだ。

一つだけ。

それはマイさんもクロアも、アネクも……いや、そういえばよく考えてみると。


「そういえば、君は……」

「そうだ。我も気づくのは遅れた……似てたからな。フェイ、クロア、マイ、我らは、『暴走』についてさらに考察することが出来る」


マイさんとクロアもこちらを見る。


「暴走をするのは、守るためだ。幸運で対処しきれない事態からな。我の暴走、覚えてるか?」


あそこまで渦巻く空を、僕は初めて見た。そしてあんなにも弱々しく悲しそうな、人間味のあるアネクも。


「そしてあの後、我はこの世界に来たな。この変遷で、この変わり目で、我は惑わされた。我の最大幸福は追加されていた」


最大幸福が、追加された。そうか、最大幸福が自分を幸せにするための機能なら、暴走した時点で元の最大幸福では不十分という証左なんだ。


「天候を操る最大幸福から、あらゆる魔法を使える最大幸福に。我だけだろ、変化してたのは」

「確かに、私もクロアもフェイ君も、変わっていません」

「……ってことは、僕の、これは」


僕は自分の手のひらの上に、青白い渦巻きを展開する。これが、僕の最大幸福、なのか。


「お前が何を思ったのかは知らんが、それがお前の幸福に至る道なのだろう。そして、もう一つあるぜ。あの仮説だ」

「四高神も、僕達みたいに最大幸福を持ってるってこと?」

「もっと言うなら、四高神が我らと同等存在であるっつーことだ。よくよく、ドロソフィアとの戦いを思い出してくれ。特に、我らの最大幸福が通じたタイミングと通じなかったタイミングをな」


よくよく思い返してみる。通じなかったのは、クロアの最大幸福だ。僕が不幸でデバフをかけていたのに、通じなかった。

逆に、通じたのは僕の二つ目の最大幸福だ。ドロソフィアが魔王たちにしようとしていたことを、阻止することが出来た。


「重要な注目点はまだある。……まあ、この話をするってことは……」


アネクがマイさんとクロアの顔を見て、何かを確認しあっている。


「よし、まあ仕方ねえ。話すぞ」

「?」

「フェイ、我らは幸運のアイテムを装備してるんだぜ」

「あ……」


そうだ、アネクドートのマントも、僕の指輪も、幸運のアイテムじゃないか。これを持っていてなお、負けたというのなら……。


「フェイ、指輪を外せ」

「えっ」

「その指輪もこのマントも、お前が暴走した時から、機能してないんだよ」


それはおかしい。

だって、あれから、気づいたら外れてる時があって、その時だけ周りが不幸に……溢れて、ん……あれ……いや、違う、何かがこんがらがる。

幸運なら、外れないよな……?

何かが思い出せない。何かを思い出している。何かが矛盾している。

あの時語った僕の記憶は? 僕は不幸だから周りが不幸になった、いや、あれは、僕は、周りを不幸に、しようとしたんじゃ……。


「フェイ君」

「フェイ」


僕の手を、マイさんとクロアが握った。この一日の休息が、このためなのだ、と僕は直感した。

アネクは少し躊躇いつつ、しかし決意のこもった目で僕を見つめた。


「奴らとやり合う前に、決着しとくべきだ、フェイ。なあ、気づいてるだろ。お前は……不幸なんかじゃない」


アネクはそう言った。それは、僕を解放させ、懺悔させ、後悔させ、安心させる言葉だった。


「……僕は、不幸、じゃない。」


僕の最大幸福は『人を不幸にする』。

それは性質ではなく、望みだったのだ。

僕は、始まりは、ただの悪鬼だった。

それが、だんだん、友達ができてきて、やってきたことに耐えられなくなっただけなのだ。

自分は不幸であると、それが漏れているだけなのだと、そんな風に、誤魔化し……!


「ぐぇっ」


思考がアネクの抱擁で遮られた。


「我らもお前を責められる奴らじゃねえ。全員、人間を滅ぼそうとした奴らさ」

「……それは」

「そうよ」


クロアが、大人びた笑みで僕の手を握り直す。


「この世界で変わったことは、普通に友達ができたこと。たったそれだけで、私達は世界を滅ぼそうとしている神に抵抗しているの。多分、そういうことなのよ」

「そういう、こと……?」

「世界を愛するって、そういうこと。友人が守るものを守る。恋人が愛するものを愛す。その連鎖だと、思うの」


孤独の少年は世界を愛さず、人類を愛さず、ただ哀れみ滅ぼそうとした。孤高の三人は他の全てを見下し排除しようとした。

それは、ただ、友達が出来るだけで変わった。

そういう、こと、なんだ。


「ごめん、せっかくの休日、なのに……ごめん、少し、泣くだけ……許して……」


ああ、何だ。そういえば、もうすぐ18歳だ。まだそのくらいの歳なんだよな、僕は。

思春期だったんだ、そういえば……。

アネクがぽんぽんと僕の頭を撫でる。

いや、君、まだ16だよね……。



意外と泣いた。

涙が枯れるなんて人間生きてる限りそんなことはなかった。

僕が落ち着いたところで、アネクが脱線してしまった話を戻す。


「さて、整理するぜ。ドロソフィアに最大幸福が通じなかったのは、フェイがある程度不幸を与えた上でのクロアの攻撃。通じたのはフェイの二つ目の最大幸福だ」


うん、ここまでは理解出来ている。


「そしてこのことから、ドロソフィアは我らを遥かに上回る運を持っている、ということにはならないと分かる。二つ目は通じてるからな」

「じゃあ、ドロソフィアは僕達より少しだけ運が良いってこと、なのかい? ほら、僕達同士じゃ基本最大幸福は通じないし。僕の不幸で減らしてちょうど僕達と同等になったってこと?」


意外といい推測だと思ったのだけど、アネクは首を横に振った。


「概ね合ってるけどな。それだと二つ目の最大幸福が打ち消した説明が付かない。重要なのは、一度目と二度目じゃ対象が違うってことなんだよ」

「対象……? あ、そうか。クロアはドロソフィアに直接使ったけど、僕は魔王たちに使ったんだ」


頭がこんがらがってきた。じゃあ、どういうことなんだ……?


「重要なのは、な。我らが戦っていたのは一人じゃないってことだ」

「え……?」

「ここで幸運のアイテムの話に戻る。よく考えてみろ、なんだ、幸運のアイテムって。我らにそんな影響を与えられるものが存在するのか? だが、可能性は一つある。お前なら、分かるだろ。お前なら、なあ」


僕なら? 僕……あ。

いや、まさか、とも言いきれない。有り得る話だ。何故なら、僕という存在がいるんだから……!


「『他人を幸運にする』最大幸福……!?」

「そうだ、それが、幸運のアイテムの正体だ。一度使われた時は、我らを戦わせるために使われた。それが済めば、機能を失った」


そうか、そういう、ことか……!


「そう考えれば、二度目のフェイの最大幸福の説明が付く。あれは単に、ドロソフィアを幸運にするのでは間接的で間に合わなかったのだ」

「じゃあ、あの時僕達が戦っていたのは……」

「二人の、神だ」


ここまでアネクドートは、ドロソフィアとその、もう一人の神について語ってくれた。しかし、それだけでは劣勢を覆せるまでには至らない。


「今回は我らが一人ずつ神と戦う。フェイは、その幸運の神とだ」

「勝算は、あるのかい」

「正直、微妙なところだ。だが勝機はある。その神達を、暴走させりゃあいい」

「え……?」


いやいや、暴走って数人がかりじゃないと止められない奴じゃあないのか?


「どちらにせよ、影響受けんのは神の世界だけだ。一定時間であれは収まる。暴走したら脱出すればいい」

「そ、それにしたって、何で暴走?」

「なんだ、気付いてなかったのかお前」


アネクはばつが悪い顔をした。思い出したくない過去を思い出しているような感じだ。


「……暴走の後遺症だ。幼児退行だけじゃねえぞ。幸運の著しい低下が一定期間みられる」

「あ、あー!」


そういえば、そうか。アネクがあんな恥ずかしい思いを、普段するはずがない。僕にしたって、暴走後は色々と苦労の連続だった。

自分に誤魔化しが、幸運だという認識の最中でも、色々巻き込まれた。

あれは、運の低下だったのか……。


「神全員を暴走させ運を低下させる。その状態なら我らに勝ち目はあるぜ。まあそれまでの過程が、例えば我とマイ、フェイとクロアのガチ喧嘩の如くだがな」


うわー……仕方が無いとはいえ、やはり厳しい戦い、なんだな……。


「ま、こんなとこだ。明日から出発だからよー。今日は、思う存分楽しもうぜ」

「ははは、楽しもうって言ったって、僕達四人じゃだらだらとするぐらいしかあれ何で僕持ち上げられてんの?」


誘拐される少女のように、僕はアネクの肩に担がれていた。後ろからは、にっこりとした笑みでクロアとマイさんが付いてきている。


「フェイ、忘れてたぜ。お前にまだ、生やしてなかったよな」

「!!!」


や、やばい。何が、僕が不幸でないことを受け入れさせるための一日なのかもしれない、だ!

これ確実に、弱った僕をここぞとばかりに……!


「ま、待って!? え、僕どっち!? されるの!? するの!? ちょ、心の準備が!? んきゃーーーーーー」


僕の悲しい叫びは誰にも届かない。ここはペアルールの、寂しい草原に建つ一軒家なのだから。

明日からがんばろ……。

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