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哀れな異世界と神運の四人 ~幸福のアポリア~  作者: 神話さん
一章:イントロダクション
23/82

人体構成と密会 《side mythology》

「…皆でゲームがしたい」

 

 そんなことを呟きながらミソロジーは森の中を歩いている。ジャージのポケットに両手を突っ込み、単調なリズムで歩を進める。目的地の島とは、反対方向にあるこの森に、ミソロジーはとある目的で来ていた。


「安い料理屋の貧相な料理を皆で食べたい」


 歩いているのは、何となくである。どんな移動方法も、ミソロジーには可能ではあるのだが、何となく、この異世界をより感じるため、大地を踏みしめている。

 そして口からは、止め処ない欲望が溢れ出ている。


「ああ、皆…オリガ…グロリア…サチトシ…みんな可愛い…滅茶苦茶にしたい…なのに、どうにも、できないなんて…」

 

 おもむろに、両手を掲げ、指揮者が指揮棒を振るうように、スッと手を下ろした。


ああ


 ミソロジーが声を上げるのと同時に、目の前の木々が、そして草花がザワザワと彼女を避けた。まるで足でも生えているかのように水平に移動していき、新たに道が造られる。


「…こんなに、今出来ないことがあるなんて、幸せですね、私は」

 

 うっとりと、幸せそうな笑みを浮かべた。


 ミソロジー、つまり神話という『蔑称』は、不思議と自分に合っていると、ミソロジーは思っている。世界に存在する粒子を任意で再配置できるミソロジーは、むしろできないことの方が少ない。最早、神に近い存在だ。

 それゆえに、ミソロジーからすれば、できないことがあるということが幸せだ。だから、今のこのゲームのスタート地点に放り込まれたような感覚に、酔いしれている。


「さて、街の人の話によればこの森には凶悪な山賊団がいるらしいのですが…居ませんね」


 あえて、自分の存在を知らせる為に独り言を言いながら森の中を直進してきたミソロジーだが、全く向こうからの反応が無い。

 仕方なく、ミソロジーは耳を澄ます。

 微かに女性の悲鳴のようなものが聞こえた。


「お」

 

 その方角に自分を移動させる。木々の間から様子を窺うと、どうやら一人の少女が、十数名の男たちに襲われているようだ。


「止めてください! 離して!」

「久しぶりの女だな、おい!」

「楽しんだ後で娼館に売り飛ばそうぜ!」


 男たちの身なりは、獣の皮でできた簡素な服で、自らの強さを誇示する目的だろうか、獣の頭を被っている者もいる。恐らく、件の山賊団だろうと考え、ミソロジーは興味深げにその様子を眺める。


(さて、使えそうな頭持ってるのは…あれかな)


 山賊達の中で、唯一少女に興味なさげに歩いている一人の男。腰には四本の剣を据え、木の根や岩のある道を滑らかに歩くその所作から、ミソロジーはこの男の力量を予想する。


「ヴィット! この山賊長様の次はお前に犯らせてやるよ!」

「…いや、俺はいい。お前達だけで楽しんでくれ」

「何だよ、ツレねぇなァ」

「いやぁっ! 助けて!」


 自らを山賊長と名乗った男が、少女の衣服をはぎ取ろうとしたところで、ミソロジーが現れた。男たちの中心、山賊長の頭の上である。片足で、直立している。


(変なタイミングで出てきたら助けにきたみたいになっちゃったな…まぁいいか)  


「こんにちは、山賊団の皆さん」

「な…!?」


 想定外の事態に、全員が唖然とする。ただ一人、山賊長のみが自分の頭上の違和感だけで何が起きているのかよく分かっていないが、それでも周りの反応から何か異様なことが起こっているということは分かる。


「ええと、とりあえず、そこにいるヴィットさんに用がありまして、彼をお借りしますね」


 頭から降り、全員の反応を見る。黒いジャージは、山賊達からすれば奇怪な衣装だ。さらに流麗で長いポニーテールや、美しい相貌も、山賊達の不安感を駆り立てる。


「あ…な、何だてめぇは!」

「冒険者か!?」

「ヴィットは俺たちが雇った用心棒だぞ! 貸すわけねぇだろ!」


 怒号が飛び交いつつも、山賊団全員が、ミソロジーに襲いかかれずにいた。彼女の身の毛がよだつような美しさ、そして底知れぬ不気味さに気圧されているのだ。


「いえ、あなた達に許可を求めてる訳じゃないんですけど…そうですね、せっかくだし、あなた達でちょっと遊んでいきましょうか」


 スッとミソロジーが右手を構え、パチンと指を鳴らす。すると、男たちが足元から崩れ落ち、動かなくなった。ヴィット、山賊長、少女を除いた全員が、地面に倒れている。全員が白目になり泡を吐いている。


「さて、一旦彼らには寝てもらいました」

「な、何言ってんだテメェ…何しやがった…!」


 ヴィットは、この状況から逃れる術を見つけようと思考を巡らせるが、今の攻撃を見て不可能と判断する。


「お頭、今は言うことを聞いたほうがいい」

「………ちっ」

「あら、物分かりがよくて助かります」

「目的は俺なんだろ? なら俺と戦え。他の連中に手を出す筋合いはないだろ」

「はは、戦うだなんて、そんな物騒なこと、するはずないじゃないですか。今しばらくは、あなたは見ているだけでいいんですよ」


 ミソロジーは、倒れている少女を起こす。少女は突然訪れた敵か味方かも分からない相手に、怯えている、というよりは戸惑っている。ミソロジーは少女の頭に手を置き、優しく撫でている。


「あ、あの…?」

「私、昔からよく、物事の分別がおかしいらしくてですね。…お嬢さん、一つ聞きたいのですが、瓶の蓋が開いていることは、瓶が壊れていると言えますか?」

「え? いや…それは違う」

「ならば、死ぬって何でしょうか?」

「あ」


 そう言いながら、ミソロジーは少女の首を『取り外し』た。まるで人形の首をそうするかのように、いとも容易く、全く力を込めずに。切断面から、血は流れていない。少女は、驚いたような顔で、ミソロジーと自らの胴体を見ている。ヴィットや山賊長も、目を丸くした。


「例えば、この子の頭は今取れました。この子が自分の意志で体を動かすことはできません。でも…」


 再び、少女の頭を首に接着した。途端に、少女は全身を震わせ、ミソロジーから慌てて離れた。  


「ひっ、なっ、な、なに…?」

「ほら、死んでませんよね。結局、生と死なんて機能を永久に失ったかどうかの問題じゃないですか。首を取ろうが、四肢を椀ごうが、内蔵を抜き取ろうが、戻せるなら、それは死んでないのと一緒です」


 さらに、パチンと指を鳴らした。すると、離れた少女と、少し遠くにいた山賊長が、ミソロジーの傍に移動した。


「うおっ!?」

「ひぃ」

「そんな考え方をしてるから、なのかもしれませんが、私は取り返しがつかないことというのがよく分からないのです。だから、上手くリアクションができなかった。せっかくフェイ君を『騙して』不幸を撒き散らしたのに、大変だぁみたいな顔ができなかったんですよ。嗟、失敗したなぁ…。もっと困った顔が見たかったのになぁ」


 そう言いながら、ミソロジーは少女の体をまさぐる。物体をスキャンするかのように、念入りに。


「ひ…」

「ふむふむ、なるほど。…はい、ということで、ちょっと私に取り返しがつかない時の顔を見せて欲しいんです」

「ぎゃっ」


 そして、山賊長の顔を鷲掴みした。途端に、山賊長の顔や体の表面が、バグを起こしたかのように振動し、泡立ち始める。絶叫とも取れるような奇怪な声が響き渡る。その声は高くなったり低くなったりを繰り返している。

  

「美醜の違いも性別の違いも、取り返しのつかないことなんかじゃないんですよ。運さえ良ければ、あなたの体は綺麗に再配置されるんですから」  


 ミソロジーが手を離す。そこには、もう一人の少女が座っていた。寸分違わず少女と同じ配分で粒子を再配置された、山賊長である。


「!?」

「はい、じゃああなたは帰って良いですよ。バイソラまで飛ばします」 


 オリジナルの少女の方は、いなくなった。さらに、眠っていた山賊達が、むくりと起き始める。


「あれ…俺たち何を」

「山賊長さんは、もう帰られましたよ。ヴィットさんの貸し出しも許可しました。『お前達で十分楽しんだら戻ってこい』だそうです」  

「何…? 信じられねえな、お前がなにか」

「そうですよね、ヴィットさん」


 ぐるっと、ミソロジーはヴィットを見る。目には明白に、脅しの色があった。山賊長はヴィットや仲間に何かを訴えようとするも、自らの声が上手く発せられないことに気が付く。声は出るが、言葉を紡げない。


「…ああ、そうだ」

「何だ、ならいいよな、お前ら」

「そうだな、お頭の言うことは絶対だしな!」

「じゃあ早速楽しもうぜ!」


 そして、男たちになされるがまま、山賊長は絶望していた。ここから自分がどういう運命を辿るか、自分が沢山の女をその地獄に落としてきたからこそ、如実に分かってしまう。

 ミソロジーはにやにやと、山賊長の顔を見ていた。どころか、どこからか取り出したメモ帳に、その様子をスケッチしていた。


「…へー……ふふ…そういう顔…すればいいんですね…」

 



 しばらくした後、ミソロジーとヴィットはさらに森の中を進んでいた。


「…おい」

「はい」

 

 にこりと微笑み振り返るミソロジー。その美しさに惑わされないように、ヴィットはミソロジーの歪んだ内面を思い出す。


(こいつは、最悪だ。今まで出会ったどの屑も可愛く見えるほどの、強者にして、狂人)


 ヴィットには、姉がいる。親に売られ、貴族の奴隷として凄惨な目に合わされている姉が。ヴィットはその姉を救うため、傭兵となり、金を稼ぎ力を付けていた。

 しかし、今のこの状況である。何とかして、この化物から生還し、あわよくば利用し姉を助けようと、ヴィットは画策している。

 

「俺をどうするつもりだ」

「私のハーレムの一員にします」

「何だそれは」

「愛妾って言えば分かりますかね」


 ミソロジーは足を止め、ヴィットに近づいた。数センチの距離まで迫り、ヴィットは身を反らす。


「まぁその前に、私の旅に付き合ってもらいますが」

「…何でもいい。俺のできることは何でもやってやる。その代わり」

「何でもやってあげますよ」


 意外な返答に、ヴィットはミソロジーの目を見る。嘘を付いているかどうかは、分からないほど深い暗闇だ。だが、真実と思ってしまうほど、強い言い切りだった。


「旅の後になりますが。可愛いハーレムの頼みですからね…あ、まだ、可愛くはないのか」

「何でもって…」

「国一つぐらいなら、潰してあげてもいいということです」


 あまりにも規模の大きな物言いを、まるで当たり前のことのように言い切るその様子に、ヴィットは若干の目眩を覚える。


「お前は、一体何者なんだ」

「んー…そんなことより、まだ待ち合わせまで時間もあります。早速、キャラメイクしちゃいましょうか」

「は、何を」


 そして再び、森にしばらくの間絶叫が響き渡った。



 

「……せめて、服をくれ」


 ミソロジーの傍らには、一人の少女が立っている。藍色の肩までの髪、作り物かと思うほど美しい顔、身長や体格は十代半ばの少女のそれだが、女性的な部分がかなり肉付いている。


「まぁまぁ、それよりどうです。体は動きますか」


 そして極めて特徴的なのは、通常二本ある腕が、左右二対の四本になっていることだ。ダ・ヴィンチのウィトルウィウス的人体図のように、肩から二本の腕が生えている。


「なんだ、この腕は」


 上部の右手と左手で、下部の右腕と左手を触って確かめる。どの腕も、自分のものだという皮膚感覚がある。


「せっかくなのでアレンジを加えたかったんです。少し動かしてみてください」


 ヴィットはそれぞれの腕を動かしてみる。奇怪な感覚だ。さらに、問題なくそれぞれの腕が動くが、元々あった腕より背側にできた、新しい腕の動きが、少々鈍いという感覚をヴィットは覚えた。


「この…こっちの腕の方が、動きが悪い。」

「ふむ」


 ミソロジーが新しい腕の、肩甲骨辺りの部分を触りながら確かめる。ヴィットは、服を着せないのは単なる意地悪ではなく、動きを触って確かめるためなのだと納得する。


「ああ、なるほど…第一肩甲骨を動かすと…第二肩甲骨の動きに影響が出るんですね…もう少し位置を離してみますか…第二大胸筋と、第二広背筋をこうして…どうですか?」


 すると、全ての腕が思った通りの動きをするようになった。関節の違和感もない。関節が増えていることは違和感ではあるが。


「ん、動きやすい」

「良かったです。さて、では装備を着せますね。はい」


 一瞬で、華美な装飾の施された鎧がヴィットの体に装備される。鎧は、背中が大きく開き、胸は金に縁取られ、ヴィットの胸のサイズに合うように湾曲している。また、肩から二の腕にかけての部分が無く、それぞれの腕には篭手が付けてある。それなりに重厚な上半身に比べ、臀部はスカートのみであり、足も関節の動きを考慮し、最低限の鎧しかない。


「あ、良いですねぇ。やっぱり四本腕はノースリーブだと映えますね。良い腋です」

「どこから取り出したんだ。この鎧」

「あなたの鎧やら、土中の金属やらで作ったんですよ。さあ、ちょっと動いてみてください」


 ミソロジーは、ヴィットの持っていた四本の剣を手渡した。元々は戦闘中に剣を落としたときの為に予備として装備していた二本だが、まさか全てを握ることになるとはヴィットは予想だにしなかった。


「……!」


 華奢な腕だというのに、男であったときよりも滑らかに剣が扱える。しかも、腕が四本になり、胸などに余計な肉が付いているというのに、体のバランスが安定している。

 

「お気に召していただけましたか?」

「かなり…強くなった気分だ」


 ミソロジーによる、人体のアレンジ。進化による淘汰という場当たり的な変化ではなく、物理的、生物学的視点からより戦闘に特化させた調整により、ヴィットの戦闘力は格段に上昇している。


「…これなら」

「噫、良いですねぇ」


 ヴィットは、剣を振るう自分への視線が、いやに艶めかしいものに変化したことに気づいた。


「私より大きくしたら流石に邪魔になるかと思いましたが、むしろそのアンバランスさが可愛らしさやエロティックさを演出しています」

「…ところでお前、待ち合わせって言ってたな」

 

 このまま喋らせると嫌な予感しかしないのでヴィットは話題を転換する。


「ああ、はい、そろそろでしょうか…おや」


 ミソロジーは、フォークロアの現れたときのように、目の前の空間が湾曲し始めたことに気が付いた。

 そして、そこから、銀髪の長身の少女、アネクドートがぬうっと出てくる。


「よう、待たせたな…って」


 アネクドートが、ヴィットに気付きその姿をまじまじと見る。ヴィットも同様に、唐突に現れた存在感の塊のようなアネクドートを見る。

 ややあって、アネクドートが口を開いた。


「…趣味悪いな、マイ」

「察するの早いですね」


 ん、と咳払いをして、アネクドートはどかんと座り込む。ミソロジーもそれに合わせ、アネクドートの正面に座る。


「時間は?」

「30分」

「ありますねえ。話すついでに一試合できそうです」

「性的な試合か? それとも超能力バトルか? 瞬間移動はお前の特権じゃなくなったぜ」

「あはは、どっちもしたいですね」

「まぁそんな余裕はないけどな…フェイには渡したか?」

「はい。言われたとおりに」

「そうか、ならとりあえずは安心だ。フェイは今どこに?」

「北の遺跡、というところらしいです」

「よし、概ね予定通りだな。なら我らも…打ち合わせするか。フェイとクロアが、そして我とお前が、死なない為のな」

「ふふ、俄然、楽しくなってきました」


 


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