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哀れな異世界と神運の四人 ~幸福のアポリア~  作者: 神話さん
一章:イントロダクション
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死亡遊戯

「それにしても」


 よく見れば、フォークロアの後ろには空間の歪みのような、陽炎のようなものがある。そこからフォークロアは出てきたのだろう。


「随分可愛くなったわね、フェイ」

「…クロア」   


 まだ1日も経っていないのに、随分と久しぶりに会った気がする。しかし、一体なぜこのタイミング、この場所で、まるでフリジコルを庇うようにフォークロアは現れたというのだろうか。考えていると、フォークロアの後ろから、また誰かフッと現れた。


「会いたい奴には、会えたようだな」

「んー、まぁね」


 男だ。背丈は180くらいだろうか。茶髪のオールバック、バサッとたなびくマントは漆黒だ。身に包む衣装はどれも洗練されながらも、威圧感を与える面妖なものだ。赤い眼光は鋭く、僕達を捉えている。普通に立っているだけなのに、プレッシャーが伝わってくる。グッと押され続けているような感覚だ。  

 フリジコルが、竜故に解りづらいが、驚愕の表情を浮かべる。

 まさか。


「ま、魔王様!」


 魔王、この男が。フォークロア、来て早々なんて奴と知り合ってんだよ。 


「フリジコル。無事か」

「はい! 勿体なきお心遣いです! 」

「よし」


 そして魔王は僕の後方、リルちゃんとザイネロさんを見た。リルちゃんは、気を失ってしまっているようで、ザイネロさんにもたれ掛かっている。ザイネロさんはリルちゃんを肩で支えながら、魔王を睨みつけている。


「その小娘が、選ばれた勇者か」

「…貴様が、魔王か」


 ザイネロさんが睨みつつ言う。声に若干の震えを感じる。やはりプレッシャーに当てられたのか。


「あぁ、そうだ。俺が魔王、ベールゼヴヴだ。」


 魔王は、特に自慢する風でも、威張るようでもなく、そう答えた。ベールゼヴヴ。聞いたことのある名前だ。悪魔にそんな名前の奴がいた気がする。

 ベールゼヴヴは、特に何をするでもなく、フォークロアの方をちらっと見た。フォークロアは、僕達を値踏みするようにじろじろと見ている。


「それがあんたのパーティー? シケてるわね。ま、勇者に会えた所は評価してあげる」

「…えーと」  


 すごい、色々聞きたいけど、何から聞いて良いか分からない。どうしたもんかな。


「何か不自由はありませんか? クロア」


 マイさんが、一番知りたいことを聞いてくれた。僕達のようにちゃんと運が働いているか、何か驚異となる者はいないか。とりあえず、それだけは知りたい。


「うん、問題ないよ。マイ」


 なんかマイさんに対してはフォークロア当たりが弱いよな。僕もだけど。


「お前ら、こいつの知り合いか」

「あ、まぁ…って」


 何気なく、ベールゼヴヴが会話に混ざってきた。フランクだな、この魔王。フォークロアをこいつ呼ばわりするあたり、フォークロアにだいぶ迷惑をかけられたようだ。


「大変だな」

「いや、別に…」

「ふん、お前らもこいつみたいに化け物ってことか。面倒くせぇのがこの世界に来ちまったなぁ」 


 魔王に化け物って言われるとだいぶ複雑な心境だが、 口振りから察するに、フォークロアは自分の身の上を包み隠さず話したようだ。


「クロア、詳しく色々聞かせてほしいんだけど」

「だめよ」 


 きっぱりと拒絶された。少しショックだったが、何やら事情があるようで、クロアは夜空の方を見ている。


「まだ、だめよ。全員、揃ってないもの」

「全員…?」

「あら、察しが悪いわよ。私達が三人揃ったんだもの──四人揃わないわけ、ないでしょ?」

「!」


 その時、夜空に流れ星のような物が見えた。橙色の閃光を発しながら、消えることなくこちらに向かってくる。あれ? さっきもそんなものが…


「え、嘘、あれ? あれが? 」


 近づくにつれて、空気との摩擦音なのか、キィイィィンという音が聞こえてくる。そして、そのままそれが、地面に激突した。爆風と轟音が僕達に直撃する。


「のわーっ!」 


 ガシャン、ガシャンとそこらじゅうからガラスが割れるような音が聞こえる。多分、衝撃で吹き飛んだ氷が落ちてきたのだろう。僕達には当たらないだろうが、他の人達は大丈夫だろうか。


「オイオイオイオイ、どういうことだ、こりゃあ!」


 確認する前に、荒々しいアネクドートの声が響いた。まずいな、これ、テンション高い時のアネクドートの声だ。


「飛車の前に無理矢理置かれた角行の気分だ! どういう状況だ! フェイ!」

「いや、僕もよく…ん?」


 そのアネクドートは、ズボンはこの世界に来る前と同様にジーンズだが、着ている服は異なっている。細かく刺繍された服に、沢山の文字が刻まれたマントを羽織っている。そして、肩に何かを担いでいる。 


「せ、先生ー…速すぎですよ…」


 女の子だ。黄緑色の髪の、ローブのようなコートのような不思議な格好に身を包んで、くるくると目を回して気絶しかけている。恐らくアネクドートのアグレッシブでバイオレンスな行動に振り回された哀れな子なのだろう。南無三。

 …にしても、この空間女子率が途轍もないな。僕と魔王以外全員女の子だぞ。


「あぁ、まぁこれは気にするな。それより……んん、クロアか? この状況を作ったのは」

「ええ、ま、そんなところよ。とりあえず、全員揃ったし、説明させてもらうわ」

「おう、頼む」


 んっ、と軽く咳払いをしてからフォークロアは僕達に向かって、語り出す。


「今から皆には、ゲームをしてもらうわ。舞台はこの世界、制限時間は、4ヶ月」


 ゲーム。この緊迫した場面にはあまりそぐわない単語に面を食らう。

 

「ゲーム、ですか。外遊びはやり尽くした感はありますがね」

「舞台と期間がやたらと壮大だね」

「うふふ、ただのゲームじゃないわ。最高にエキサイティングな宝探しゲーム、それも──命を懸けて、命を賭けるゲームよ」

「!!」


 驚愕した。僕も、マイさんも、アネクドートも。だって、それは有り得ないのだから。神運の四人は、互いに、互いを殺すことは、絶対にできないはずなのだから。


「ここに、指輪が一つ」


 そう言ってフォークロアは、ポケットから指輪を取り出す。金色の指輪だ。


「これ、名前は『永劫の栄光』っていうアイテムらしいんだけど。これを嵌めるとね…常人の何千倍も、幸せになれるの」


 そうか、こんなものも、この世界にはあるのか。僕達の運の均衡を乱すことができる道具が。


「勿論、こんな物だけじゃ、あなた達を殺すことはできないわ。でもこの世界にはね、一杯、こんな道具が隠されているのよ。それを集めたら…あなた達の幸運より、私の幸運の方が、勝つ。だからあなた達は、それを阻止するために私よりも多く幸運のアイテムを集めなきゃならない。まぁ、今のところわたしが大きくリードしてるけどね」


 にっと勝ち誇った顔のフォークロア。

 なるほど、先手を取られたわけか。少し彼女の方が運が上回ったということは、僕達が別の幸運のアイテムを手に入れる確率が、下がったということだ。

 

「あ、そうそう。あなた達が必死になれるように、一応人質も用意してあるわ」

「…人質?」

「この世界の『人間』全員。もしあなた達が負けたら、全員殺すわ」

「なっ…!?」


 冗談で言ってはいない。目が本気だ。

 

「ま、そういうことだ」


 ポンとフォークロアの頭にベールゼヴヴが手を置いた。気安く触らないでほしい。


「俺達は、目的は違えど結果としては利益が一致したんだよ。どうやらこいつ、本当に『できる』みたいだしな」

「誰だあいつ」

「魔王みたいですよ」 


 アネクドートとマイさんは相変わらずマイペースだ。


「こいつは人類を滅ぼしたい。私はあなた達を殺したい。だからお互いに協力し合うってわけ」

「…何故、僕達を殺したいんだ?」

「あら、そんなの決まってるじゃない。あなた達さえいなければ、私は世界の中心。全てが思い通りになるからよ! …なんてね、冗談」


 とっ、とっ、と僕の方にフォークロアが駆け寄ってくる。そして、ぎゅっと、僕に抱きついた。その目は、僕を見ている。澄んで濁った、綺麗なおぞましい瞳だ。


「あなた達が、全てだからよ」


 フォークロアは、僕達三人に全ての感情をぶつけている。愛情も憎悪も、好意も敵意も、大切にしたいという思いも壊したいという思いも。

 地球でもそうだった。僕達以外の全ての生き物が、フォークロアは埃と同列に見えていた。

 彼女の目には、この異世界も、勇者も戦士も、竜も魔王も、価値のある物には見えないのだろう。たとえどんな人間でも、たとえどんな魔物でも、恐らく、フォークロアは簡単に殺せてしまう。それゆえ僕達のみが全て、僕達のみが絶対なのだ。


「だから、楽しみましょう。あなた達と生きることが私の幸せ。あなた達を殺してあげることが、私の夢なの」


 フォークロアがベールゼヴヴに目配せする。ベールゼヴヴは空間に手をかざし、空間の揺らぎを発生させた。


「またね、フェイ、マイ、アネク。愛してるわ」


 心からの愛の言葉を残し、フォークロアは魔王と竜とともに、また虚空へと姿を消していった。

 後に残された僕達は、しばらく沈黙する。異世界の人々は状況が把握できないから、僕達は状況を把握してしまったから。


「…その、なんだ」


 口を開いたのはアネクドートだった。


「剣呑ってわけか」

「そうですね。頑張らないと殺されるかもしれません」

「それはないだろうがなあ…あ、そーだ」


 アネクドートはじろっと、ザイネロさんとリルちゃんを見た。いきなり空から降ってきたアネクドートにも、ザイネロさんは少し警戒しているようで、口を開こうとはしない。


「ミャージッカ!」

「はいっ!」


 先ほどの黄緑色の髪の少女がビクッと反応した。ミャ、ミャージッカ…またすごい名前が出てきたな…


「そいつらを治療してやれ。その間我らは話し合う」

「了解です! 先生!」


 ミャージッカちゃんはザイネロさん達のそばに駆け寄り、手をかざした。すると、ミラさんがやったような光球が溢れ出す。彼女も僧侶なのだろうか。


「よし、とりあえず車座になろうぜ」 

「三人ですけどね」


 アネクドートに促され、僕達は互いに向かい合う形で三角形に座る。


「じゃあクロアのことは一旦置いといて、経過報告といこうじゃねーか」


 アネクドートはにやっと笑って、僕達を挑発するように言う。


「お前ら、どこまで解った?」


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