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第3話 出会ったのはうさぎの子

 学校は嫌いじゃない。

 かといって、特別好き……という訳でもないが。


 言ってしまえば、学校なんてものは毎日同じことを繰り返しているだけだろう。


 学校へ行って、授業を受け、帰る。

 細かい差異はあれど、大きく捉えれば毎日その繰り返しだ。


 それを、「安定している」と捉えるか、「変わり映えない」と捉えるか。学校が好きなやつと嫌いなやつとの違いはそこにあると思う。




 そんな、自分でもどうでもいいと思うような事を考えながら俺は電車に揺られていた。

 耳から伝わるのは、俺のよく知っているアニメの曲。

 これは今日に限った行為ではないが、いつもとは違う意味を持っていた。


「はぁ……なんで俺が」


 やはり、曲を聴いたぐらいでは気を紛らすのは不可能だった。

 何から気を紛らすのか…まぁ簡単に言えば、入学式でよくあるあれだ。


「入学生代表の言葉」


 どうやら学校側が俺に任せた理由は、俺が「1年1組の出席番号1番だから」というものらしい。

 確か、中学の時もやらされた記憶がある。それも同じ理由で。


 俺は昨日何度も読み返した入学生代表の言葉を頭で思い出す。

 本番に弱いタイプ……ではないと思うが、決して強いタイプでもないと思う。まぁ、そのどちらであろうと人前で話すのは嫌いである事には変わりない。


 曲が終わりかけたところで、電車は減速を始めた。そして止まったのは俺の目的の駅だ。

 付けていたイヤホンを外し、電車を降りる。

 春の空気がすーっと身体に染み込む……なんて感覚は、俺の感受性では感じ取れないが、なんとなく解放されたような感じはする。


 そして、駅を出口を出たところで……

「あ、あれー?全然起動しないです……お、おかしいなぁ」

という声が聞こえた。


 いや、助けを求めているから聞こえるように言っていたのだろう。多分。


 その子はローファー型のトイブーツにポートを付けたり外したりしてぴょんぴょんとジャンプしていた。

 も、もしかして故障か?

 時間は有り余ってるし……と思った俺は、声をかける事にした。


「あのー、大丈夫ですか?」

なるべく優しい感じで話したつもりだったが、


「あ、す、すいません!」

とこちらに向かって髪をぶんぶん振らせてお辞儀してきた。怖がられてしまっただろうか。


「あ、いや、別にそんなつもりじゃなかったんですけど……えっと、困ってそうな感じだったので。故障ですか?」

と手を振りながら付け加えた。


 すると

「あ、そうだったのですか!じ、実はこれが起動しなくて……昨日もらったばかりなので、故障……ってことはないと思うんですけど」

とローファーを指差しながら言う。


 これは……使い方がわからないのか。だとすると今使うのは無理だな。

「もしかして、昨日もらったばかり、ということは使ったことがないということですか?」

まぁ、一応尋ねておくかと思い質問する。


「あ、はい。今日こちらに転校してきたもので……」


 やっぱりか。

 トイブーツ……とは競技用ではなく、日常で移動手段として使うように作られたポートドライブのことで、競技用と違い、その形状はローファー型からスニーカー型まで様々だ。それ以外にも、競技用のトイブよりも出力が小さく設定されているため、扱いやすいという違いがある。一応トイブの種類の一つではあるが、靴の裏に浮遊力を発生させる「ポート」を付けなければ飛ぶことはできない。


 では、なぜあの子が飛べなかったか。ポートは近づけると自然に取り付くようになっているため、取り付け方が間違っていることはまずない。こういう時の大体の理由は……


「ちなみに、それを貰った時にタブレットも貰いませんでしたか?」

タブレットだ。この、トイブーツに付属しているタブレットがなければ電源を入れることができない……というか、それが起動するリモコンのようなものなのだ。


「あ、貰ったかもしれないです。でも、多分家に忘れてきてしまいました……」

と申し訳なさそうに下を向いて言った。


 まぁ、今持っていても使えないだろうし、ある意味ここで持っていなくてよかったか。あ、さっきから使えないだろうと言っているのは、トイブーツは自転車のようなものだからだ。トイブーツは、歩くように、息をするように扱えるものではない。今いきなり使っても飛ぶなんてことはおろか、まず浮くことすら難しいだろう。浮遊力のバランスをとって飛べるようになるには1日どころか、3〜4日は必要だろう。まぁ、とは言っても自転車のようなものだから、1日で使いこなすようなセンスの良い人もいるが。


「じゃあ、俺が飛ぶんで、手、繋いでもらえます?」

恐らく、使い慣れていないトイブーツを使おうとするぐらいなのだから急いでいるのだろう。それを察した俺は、一緒に飛んで行こう、と提案したつもりだったのだが……


「ええっ⁉︎て、手を繋ぐんですか?初対面の人と?は、恥ずかしいです……」


 あぁ……どうやら意味がわかってないらしい。

 その子の顔をチラッと見たが……可愛い……あ、いや、今はそんな場合じゃないな。


「あ、いや、だから、俺と一緒に飛びましょうってことです。急いでいるんでしょう?」

なんだか面倒になってきたな、と後悔しつつ、俺はトイブーツから、競技用のトイブに履き替える。


「そ、そういう意味だったのですね……!勘違いしてしまって、すみませんでした……」


 この子、動きがオーバーだったり、感情の起伏が大きかったり、俺と正反対だな。


 そして俺は、手首についているホルダーにスマホより一回りほど大きいタブレットをはめる。それを操作し、トイブを起動させる。

 シュイーンと聞き慣れた音がトイブから発せられる。


「大丈夫ですよ。じゃあ、そろそろ行きましょうか」

と手を差し出す。


「あ……はい!」

少しためらいながらも手を握ったその子の手は、俺よりも少し温かかった。


「行きますよ!」

と声をかけると同時に足を地面から蹴り出す。


 競技用のトイブに履き替えたのは、トイブーツ程度の出力では2人を持ち上げるほどの浮遊力を出せないだろうと考えたからだ。

 あ、ちなみに、俺とこの子は恐らく同じ学校だ。制服についている校章、それが同じだったからそう考えた。もしも違ったら……まぁ、その時はその時だろう。

 そして俺は一気に高度を上げ、一直線で学校を目指す。


「ひやぁぁぁぁ!こ、怖いですぅぅ!落ちますぅぅ!」

と泣き叫ぶように言った。いや、実際に泣いていたのではないかと思うほどだ。


 まぁ、こう思うのも無理はないだろう。

 大体の人……というか、ほぼすべての人はトイブーツを経験してから競技用のトイブを使う。今2人を持ち上げているから少しは出力が弱まっているとはいえ、なかなかのスピードが出ているはずだ。


「手を離さなければ大丈夫ですよー」

と励ましにもならないような言葉を言っておく。


 すると、急にこの子は黙り込んだ。

 あれ?気絶しちゃったかな?いや、でも確かに手に力は入っているし……


 心配に思った俺は、後ろをちらりと振り返る。

 すると……


「うわぁぁ……すごいです!わ、私、飛んでます!すごく楽しいです!」

と周りを目をキラキラさせながら興味津々に見回し、さっきとは真逆とも思える言葉を発していた。


「あと2〜3分で着きますから、その間、存分に楽しんでくださいね」

と声をかけておく。


 ――――そういえば、この子……とずっと呼んでいたが、午前中は始業式をやっているらしいし、この子は俺より先輩か……

 この先輩、大丈夫か……?

ついに2人目の登場人物が出てきました!

名前はまだない……って感じですがねw

というか、2人になると余計に物語の進行が遅くなる……

いったい初試合は何話になることやら……w

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