第0話 その手は届かなくて
残りあと10秒……レストしてないのは私だけ。変えられるのは私しかいない。勝てなくても、せめて……せめて引き分けに。
10、9と心の中でカウントしていく。でも、ドキドキと早くなる心臓の鼓動音が正確にカウントするのを邪魔する。
そのとき私は気づいた。私はすごく焦っているっていうことを。それに気づくと、この手が届かないかもしれないという不安まで私を襲った。
それでも、私は諦めなかった。いや、諦められなかった。
体を倒して、これ以上スピードを出したら壊れるんじゃないかってほどにスピードを上げた。
――――こんなに本気になったのはいつ振りだろう。独特の抵抗感と、向かい風が私を襲う。
「この感覚……懐かしい」
思わず、口から漏れ出た心の言葉。もう負けるかもしれないって時になってこんなことを思うなんて……自分でも笑ってしまいそうになる。
さっきまでの焦りや不安を引き裂くかのように、私は全力で手を伸ばした。
「届けぇぇぇッッ!」
遠くへ……少しでも遠くへ届くように。
ピーーーーーーーーーーーーーーーー。
それはあまりに突然の出来事だった。そっか。10秒ってこんなにも短かったんだ。
無情にも、会場全体に試合終了の音が鳴り響く。今までの試合では聞けることが嬉しかったこの音。
――――結果はわかっていた。こうなることなんて、試合の前から。
こんなに割り切っててサバサバした性格の私だけど、目の前の景色が潤んでいく。
あぁ……負けちゃったんだなぁ……
そして、私は子供みたいに泣き叫んだ。