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第六話 魔法少女と分かり合えない魔法道具

そろそろストックが尽きてしまう……!


「そ、それで?」

 少しだけドキリとしたそれを誤魔化す様、私はわざと乱暴に手を払って見せる。そんな私の行動に別段気を悪くした風もなく、アルフはこくんと首を傾げて見せた。

「はい? それで、とは?」

「そ、その……そう! 魔法少女と言えば、マジックアイテムじゃない!」

 誤魔化す様に声に出しながら……それでも、我ながら良い事を聞いたと思う。魔法少女と言えば魔法の道具とマスコットキャラは必須だ。コンパクトでもステッキでもデバイスでもイイが……とにかく、そういう『マジックアイテム』的なやつ。

「……ないの? こう……そういう『マジックアイテム』」

 マスコットキャラが『コレ』だ。せめて、マジックアイテムぐらいはまともなモノが欲しい。その私の想いが通じたか、アルフがにっこりと微笑んだ。

「ありますよ、勿論」

「ほ、本当? あるの?」

「ええ」

「そ、その……」

「はい?」

「…………か、可愛いヤツ?」

 私の言葉にクスリとアルフが笑みを見せる。あ、ああ! 笑ったな! 良いじゃんか、別に! 可愛くないよりは可愛い方が!

「くっくく……済みません。ええ、『可愛い』アイテムですよ。見ます?」

 葛藤は一瞬。

「……見たい」

 小さく頷く私に、アルフは今度はにっこりと笑って。



「…………は?」



 自分のスーツの襟元から、背中に向かって手を突っ込んだ。

「ちょ、え? あ、あなた何やってるのよ!」

「いえ、なにってちょっと魔法でマジックアイテムを……と、引っ掛かった」

「いや、何処の世界に背中からマジックアイテムを――って……え?」

 んしょ、んしょ、なんて間抜けな声を出していたアルフが、『ふんっ!』と、およそイケメンフェイスから出てくる事の無さそうな言葉で気合を入れる。と、何処かに引っ掛かっていたのであろう『ソレ』がスルリとアルフの襟から飛び出した。

「――どうです? コレが貴方の『相棒』ですよ?」

 ドヤ顔のアルフを視界の端におさめながら、私はアルフの手元のソレに視線が釘づけになる。

「……こ……れ……って?」

「貴方にぴったりだと思いますよ?」


 ――なめらなか、丸みを帯びたフォルム。


 ――先端に従い徐々に太くなる、そんな見慣れた形状。


 ――シャープにして、大胆。完成された芸術品の様な、ただ『一つの目的』を果たす為だけに作られたソレ。



「――ってこれ、野球バットじゃん!」



 そう。野球バットである。

「失礼な。貴方には違いが分かるでしょう? これはソフトボール用のバットです。ピッタリでしょ、貴方に」

「いや、ピッタリだけど! って、ちょっと待て! コレの何処に『可愛い』要素があるのよ!」

「だって――」

 そう言って、自信満々に。


「――グリップがピンクですよ!」


「ドヤ顔すんな! それが可愛い要素だと思っているのか!」

「えー……だって女の子、ピンク好きでしょう? ピンクだったら取り敢えず『可愛い~』って言うんじゃないですか?」

「アンタ、絶対バカにしてるだろう! イヤ、嫌いじゃないけど! っていうかマジなの、コレ!」

 グリップを握りなおして先端を突き付けるアルフにガンを飛ばしながら、私はバットの先端をグイッと右に流す。いや、コレ、マジなの? 本当に勘弁して欲しいんだけど!

「マジです。詳細は省きますが、魔結晶と呼ばれる結晶体を埋め込んだ『魔バット』です。効能は何処に当たっても芯に当たったのと同じ反発力が生まれます。しかも、ミズ――じゃなかった、某国の有名スポーツメーカーに特注で作って頂いた一品ですよ? ちなみに必殺技は『ウルトラインパクトアタック』です」

「物凄く物理的な香りがする技名なんですが!」

「鋭いですね。言ってみればバットのガン振りです。必ず敵の芯をぶち抜きます」

「いや、ちょっと待て!」

「なにか?」

 なにか、じゃなくて! つうか、そんなきょとんとした顔すんな! なんだ! 私がおかしいのか!?

「普通さ、魔法少女の武器って『魔法』とか出すんじゃないの!? なんでバットガン振りが必殺技なのよ!」

「いや……そう言われましても……キョーコさん、日本人ですよね?」

「は? そ、そうだけど……」

 ……な、なんだよ、その少しだけ残念そうな顔は。なに? 日本人だったらなんか不味いの? こう……大気中のオドがどうとか、マナがどうとかそう言う――

「高いんですよね~、ジャパン・メイドって」

「お金かよ!」

 最後は金か! 大丈夫か、全世界魔法少女協会!

「そりゃ、『第二世界』のベララル国辺りに発注すればこの三分の一以下で作れますよ? ですが先程も申しまた通り、私達は公務員的な所もありますので。公共工事の発注なんかと一緒で、やはり『地元』の産業にお金を落とす事も大事なのですよ。地産地消です、地産地消」

「地産地消は無駄遣いの免罪符じゃない! 節約しなさいよ、節約!」

「いや、でもですね? なんと言っても世界のミズ――じゃなくて、某スポーツメーカー製ですから! メジャーリーガーも愛用する程の超一流な分、性能も段違いですし……それに、握り心地も抜群なんですよ。流石、お値段も超一流なだけはあります!」

「さっきから気になっていたがなぜスポーツメーカーの名前を濁す!」

「権利関係、色々五月蠅いんですよ。我々協会の人間が軽々と一企業の名前を出すのは好ましくないんです。だって、『魔法少女が使ったバット』なんて宣伝したら某メーカーの売上、上がっちゃうかも知れないでしょ? これ、スポンサー料金貰ってないんですよ? だったらホラ、宣伝する訳には行きませんよ。ほら、テレビとかでペットボトルのお茶にモザイクかかってるのと一緒ですよ、一緒」

「テレビと同列に扱うな! っていうか、売上なんか上がる訳ないでしょうが! 何処の世界にバットをガン振りする魔法少女が居るのよ! 聞いたことあんのか、アンタ!」

 むしろ『教育に悪い』って某保護者団体からクレームが来るわ! そもそも、日曜日の昼間に『いけー! うるとらいんぱくとあたっくぅ!』なんてバットガン振りしてる幼児が居たらどう思うよ? 私は日本オワタって思うわ!

「っていうか、魔法少女は秘匿されるとか言ってなかった!?」

「まあそうですが……常識的に考えて、住民全員が魔法少女の存在に気付かないとか無理があるじゃないですか? 特に最近、ネットの力で拡散が半端ないし」

「その辺りは何とかしなさいよ、魔法の力で!」

「魔法も万能では無いですし。まあともかく、ハイ、キョウコさん。差し上げます」

「要るか!」

 どうぞどうぞと差し出してくるアルフにバットをグイッと押し戻す。要るか、こんなモン! もうちょっとマシな――


「――って言うかぁー。さっきから聞いてたらマジ失礼なカンジじゃない? アリサ、別にアンタに使って貰わなくてもイイって言うかぁ~」


 ――何処からともなく、甲高い声が聞こえて来た。

「……」

「……」

「……ねえ、アルフ? アンタ、腹話術とか使えたりするの?」

「ああ、言い忘れていました」

「ああ、そう? 言い忘れてたの。仕方ないわね~。っていうか、今のアニメ声、ちょっと気持ち悪かったからさ? これからはちょっと気を付けて貰えればうれし――」

「このバット、喋ります」

「――って、そうですよねぇ!」

 うん、なんかそんな気がしてたよ! 

「いやー、実はこのバット製造で一番お金がかかったのはこの部分でして! ぶっちゃけ、材料代以外の全てをこの『お喋りバットさん機能』に振り分けました!」 

「っていうかアンタら、マジで頭おかしいんじゃないの!? なんでそこにリソース割くのよ! そんな技術があるんだったらもっと他の事に使いなさいよ!」

「だって最近、流行りでしょ? 喋るマジックアイテムって。人工知能も搭載してますので結構なお値段がかかったんですよ~」

「バッカじゃないの! アンタら、本当にバッカじゃないの!?」

 いや、確かに流行ったよ! 流行ったけど、でもさ? 別にそんな流行に乗る必要は無くないか!

「キャハハ! 腹話術とかチョーウケるぅ! っていうか、気持ち悪いって失礼しちゃうってカンジぃ?」

 今まで黙って聞いて――いたのかどうか知らないが、取り敢えず静かだったバットが急に例の甲高い声を出しながら笑い出す。


「そもそも……気持ち悪いのはアンタだしぃ~。高校生にもなって魔法少女とかバッカじゃないのぉ~?」


 ――若干、小馬鹿にした様に。

「……あん?」

「事実じゃーん? ねえ、アルフぅ~。アリサ、こんな女に使われるの嫌って言うかぁ~」

 まるで甘えた風に言葉に『しな』を作るバット。なんだろう、そこはかとなく――じゃなくて、がっつりムカつくんですけど?

「色々言いたい事はあるが……やい、バット」

「は? バットとか呼ばないでくれるぅ? アリサ、アリサって名前だしぃ~」

「んじゃ、アリサ。アンタ、知ってる?」

「キャハハ! そーんな質問じゃアリサ、わかんなーい! 質問の仕方も分かんないのぉ?」

「まあ、聞きなさい。私の知っているキャラで名前で自分の事を呼ぶ奴は」

 そう言って、ビシッとバットを指差す。


「――大体、アホキャラよ」


 時間が止まったのは、一瞬。

「は、はぁーーー!? あ、アホキャラ? あ、アリサ、アホキャラじゃないし!」

「『ありさ、あほきゃらじゃないしぃ~』」

「う、うきぃー! ば、バカにしてんの、アンタ! ねえ、アルフ! アリサ、絶対イヤ! あんな奴に使われるの、ぜーったいイヤ!」

「『ありさ、絶対イヤぁー。あるふぅ~』……ああ、そうだ。その後『アリサはアリサは』って付けて見せてよ? 可愛いんじゃない?」

「は、はあ! バカにしてんの、アンタ!」

「べーつに? バカになんかしてないけどぉ? アレ? それともバカにされたと思ったんですかぁ? それって自分の言葉遣いが『バカっぽい』って思ってるからじゃないんですかねぇ?」

「……はん?」

「……あん?」

「……」

「……」


「「――表、出ろやぁ!」」


「ちょ、ちょっと! お二人とも! ストップです! ストップして下さい!」

 一瞬即発。そんな空気の私達の間に、アルフが割って入る。

「どきなさい、アルフ! このクソバット、叩き折ってやるわ!」

「やれるもんなら、やってみなさいよ! 世界のミズ――某有名メーカー製がそんな簡単に折れる訳ないっしょ! 自爆するサマ、笑って見ててあげるってかんじぃー」

「きょ、キョウコさん! 取り敢えず落ち着いて!」

「落ち着けるかぁ!」

「貴方いま、バットに向かって話しかけてるイタイ人にしか見えませんから! さっき、子供が指差してましたから!」

 アルフの言葉と必死の形相で先程まで登っていた血が降りたか、少しだけ冷静さを取り戻す。

「……イタイ人かな、私?」

「『ねえ、おかーさん』『指差しちゃダメです!』って親子の会話がありましたよ。冷静になってください、お願いですから」

 うぐ! 流石にそれは嫌すぎる。

「……はい」

「よろしくお願いしますよ、本当に。それと、アリサさん? 貴方は『マジックアイテム』です。貴方はキョウコさんの為に作られたんですよ? 当然ですが、貴方に拒否権はありませんので」

「え、ええーー……」

「キョウコさんもです。確かに貴方の意に沿わないかも知れませんが、これは貴方専用のマジックアイテムです。諦めて下さい」

「でも……」

「そもそも、もう予算もありませんし。今から作り直しなんて出来ませんよ」

「……」

「……まあ、お気持ちは分かりますが……ですが、キョウコさん? 考えてもみて下さい。此処で貴方が『じゃあイヤ! 魔法少女なんてやらない!』と言ったら……きっと、怒りますよ? キョウコさんの御母堂が」

「……お、怒られるって、そんな訳ない――」

「私が言います。『キョウコさんが我儘言いました』って」

「は、はぁ! あ、アルフ、アンタ裏切るの!」

「事実を伝えるだけですよ? 今度は嘘じゃないです」

 ……おうふ。

「……分かった」

「ありがとうございます。アリサさんも」

「……分かったわよぉ」

 これで解決ですね、良かった良かったと笑うアルフを尻目に、私とアリサは視線を――どこに目があるか正直分からなかったが――取り敢えず、視線を合わせて。


「「……ふん!」」


 ……すげー。最近のバットってソッポ向けるんだというしょうもない感想を抱いていたりした。


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