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第三十七話 魔法少女と仲間外れ


「この中で『友達』って言っていいのは……美代子、だけ……?」

 アルフの言葉を鸚鵡返し、かすれた声でそう言う律子ちゃんにアルフはチラリと視線を這わした後、鷹揚に頷いて見せた。

「ええ、そうですよ? ハッチネーンとの最初の対決の事を覚えていますか? キョーコさんがハッチネーンを倒し、美代子さんはそれを称賛されましたね? その後、いの一番に美代子さんがした事は、さて? 一体何だったでしょうか?」

 美代子ちゃんが最初にした事? 最初にした事って……あ!

「……お気付きですか、キョーコさん。そうですよ。美代子さんが最初にした事は仲間の『心配』です。自分だって傷を負っていながら、皆を気遣い、大丈夫かと声を掛け、傷を負っていたら本気で心配したんですよ。ええ、ええ、そうです。美代子さんが最初にした事は、誰よりも仲間の『心配』なんですよ」

 そう言ってアルフは視線をぐるりと四人――中川さん、律子ちゃん、香澄ちゃん、凛ちゃんに回す。

「分かりますか? 彼女がした事はまず皆さんを心配する事だったんですよ。彼女は誰よりも貴女方の身の安全を心配しているんですよ」

「……」

「まあ、確かに? 美代子さんはフラワーガールズの『リーダー』でしょう。特段、それを決めた訳では無いでしょうが、皆さんどうせそう思っているんでしょう? 『美代子はなんでも出来る』『美代子は凄い』『美代子に任せれば、大丈夫だ』……なるほど、確かに美代子さんの能力であればあなた方『お荷物』を抱えたままでも十分に戦えるのでしょうね?」

「な!」

「お、お荷物? 私達がお荷物だって言うのかよ!」

「そ、そうです! 私達だって必死に!」

「そ、そうだよ!」

 アルフの『お荷物』発言に、今までポカンとしていた四人が口々にそう言い募る。確かに、フラワーガールズの面々の言葉は間違っていない。皆だって一生懸命戦っているんだ。流石に、それは酷いと思う。


 ……思う、のだけど。


『……アンタ、やり過ぎ。勝ちたいのは分かるケドさ? アタシらまで巻き込まないでよ。アタシらだって、一生懸命やってるんだから! 『スラッガー』様は違うかも知れないけどね? アタシら一般人には今の練習だって十分大変なんだから!』



 ――何故だろう?



 なんだか……無性に腹が立つ。

「ああ、うん。アルフの言い方は悪いけど……まあ、間違った事は言ってないと思うよ、私は?」

 だからだろうか。

 知らず知らずの内に口を出た私の言葉に、四人の視線が突き刺さる。おお、こわ。

「あれ? 怒った? でもね? そら確かに私もアンタらはお荷物だと思うよ? だってさ?」

 律子ちゃん、中川さん、香澄ちゃん、凛ちゃんに視線を向け。

「敵が怖いって震えて使い物にならないヤツ」

「っ!」

「体力が無くて、連戦なんて無理なヤツ」

「……」

「仲良し! みたいな顔して、結局自分の事しか考えてない幼馴染の二人組」

 順々に視線を送り、肩を竦めて見せる。

「知ってる? アンタらみたいな集団で戦う魔法少女、『戦隊系』って言うらしいのよ。仲間で協力しながら……まあ、最近の戦隊系はどっちかって言うと仲間内で仲が悪いパターンもあるけど……でもまあ、ある程度チームプレイで乗り越えて行くのよ」

 マミるヤツとかは仲が良いってちょっと言えないかな~とは思うが。

「でもまあね? そう云うヤツって、別に馴れ合ったりしないのよ。だからまあ、見ててもそんなに不愉快じゃないのよね。でも、アンタらは? 仲良しの振りして、チームで戦っているフリして、それでも結局美代子ちゃんに任せっきりじゃない?」

「……そ、それは……」

 私の言わんとしている事が分かるのか、何かを言い掛けて、香澄ちゃんが口を閉じる。その姿を一瞬見て、私はもう一度視線を面々に送る。

「そりゃ、確かに美代子ちゃんは凄いよ? 頭も良いし、顔だって可愛いし、詳しくは知らないけどお嬢様でもあるんでしょ? 基本、なんだって簡単に出来るんだろうし、物覚えも良いと思うわよ。まあぶっちゃけ? 初見でソフトボールで全国行ってる私のストレートに当てるだけでも凄いと思うもん。ド素人が」

 正直、無茶苦茶悔しかったからな、アレは。

「そんなに凄い美代子ちゃんだけど……でもさ? 美代子ちゃんだってまだ中学三年生なんだよ? アンタらと同じ、14歳とか15歳なんだよ? そんな美代子ちゃんに全部丸投げしてさ? 考えた事ないのかよ、アンタら」

「考えた……事?」

 凛ちゃんの呟きに私は小さく顎を引いて。

「……思った事ないの? もしかしたら美代子ちゃんも辛いかもしれないって。もしかしたら美代子ちゃんもしんどいかもしれないって。もしかしたら美代子ちゃんも怖いかもしれないって。それでも美代子ちゃん、頑張らなくちゃいけないんだって。アンタらが、私達のリーダーみたいな顔をして、美代子ちゃんに丸投げしているから……美代子ちゃんが『無理』をしているかもしれないって……ああ、返事は良いよ? その顔じゃ、考えた事も無さそうだし」

 なるほど。これじゃアルフの言う通り、この子らはただのお荷物で……そして『足手まとい』だ。

「……それじゃ美代子ちゃんは幸福になれないよ。そうだね、アルフの言う通り、此処で美代子ちゃんを『止めて』上げるのが美代子ちゃんに取っては幸せかもしれないね」

 そう言って私は視線を美代子ちゃんに――唇を噛み締め、泣き出しそうな美代子ちゃんに向けた。


「――来い、美代子ちゃん! 私が、アンタを『開放』して上げる!」





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