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第三十六話 魔法少女と友情

ご無沙汰しました……


「……殺して下さい……って」

 マジマジとアルフを見つめてしまう。そんな私の視線を、少しだけ辛そうにアルフが逸らした。

「……本当は貴方にお願いするべき事では無いのも分かっています。ですが、現状フリーの魔法少女は全員出払っているんです。『闇堕ち』は直ぐに対処をしないとどうなるか、本当に分かりません」

「いや……分かりませんって言われても。だからってさ? その、直ぐに……こ、殺すとか、殺さないとか、そういう――」

 最後まで、喋れなかった。



「そういう話なんですよ、これは」



 どちらかといえば、何時でも柔和な表情を浮かべていたアルフの真剣な表情。その表情に、思わず私は息を呑む。間違っていると、正しくないと頭では分かっているのに、有無を言わさないアルフの口調についつい口を噤んでしまう。

「ちょ、ちょっと!」

 そんな私の後ろから声が響く。律子ちゃんだ。

「……何か?」

「『何か?』じゃないわよ! なに言ってるのよ、貴方!」

「フラワーレッドは『闇堕ち』しました。こうなった以上、私達に出来る事はもう一つしかない。闇落ちしたフラワーレッド――フラワーダークを『敵』として打ち倒す事しか出来る事は無いんです」

「な、なに言ってるのよ、貴方! 美代子を倒すって、どうしたらそういう話になるのよ! 友達なのよ、美代子は! そんな美代子を殺すなんて、そんな事――」

「だから?」

「――出来る訳……だ、だから?」

「だから、どうだと言うんですか?」

「ど、どうだって……」

「私達は別に、貴方がたに魔法少女になる事を強制した訳ではありません。きちんと契約書を交わし、契約内容について説明し、納得の上で署名捺印を頂戴した筈です。貴方の銀行口座にも毎月、決まった額の、決して安くは無い給金が支払われているでしょう? しかも、この国の場合はその収入については全て非課税扱いになっている筈です。違いましたか?」

「そ、それは……」

「無論、命の危険だって無い訳じゃない。だから、私達は貴方がたが万が一、身の危険を感じた時に魔法少女を辞める権利まで与えています。つまり、貴方がたの都合によって一方的に契約を破棄されても文句が言えない契約内容になっているんですよ? これがどれだけ恵まれているか、貴方がたは本当にご理解されているのですか? 確かに貴方がたはまだ中学生です。年も若いですし、経験だって無い。ですが、よく考えて下さい。中学生でも高校生でも、お金を貰って働いている以上は『プロ』です」

「……で、でも……そ、それでも美代子は友達なんだ! そんな、友達を殺すなんて、そんな事、私達には出来ない!」

 律子ちゃんの絶叫に、その後ろにいた三人も頷いて見せる。そんな姿を、まるでゴミでも見る様な冷めた目で見つめた、アルフはふんっと鼻を鳴らした。

「……友達、ですか」

「バカにしてんのかっ!」

「いえ。ええ、分かっています。分かっていますよ。分かっているから、貴方達に頼んではいないでしょう? 全く縁も所縁もないキョーコさんにお願いしているんですよ」

 そう言って、憎々し気に律子ちゃん、香澄ちゃん、凛ちゃん、中川さんを睨んで。



「他ならぬ、貴方達の『不始末』の尻拭いをね」



 そう、嘲笑を交えて言い切る。

「ふ、不始末? わ、私達の!?」

「ええ。だって、そうでしょう? そもそも、美代子さんが『闇堕ち』したのは、一体誰のせいだと思っているのですか?」

 最初は小さく。

「律子さん、貴方が差し伸べられた美代子さんの手を払いのけた事が原因では無いのですか? 自身の我儘の、『戦うのが怖い』という、そんな唯の我儘の為に、純粋な優しさで手を差し伸べた美代子さんの手を払ったからでは無いのですか? 違いますか? 違うんですかっ!」

 徐々に、大きく。

「香澄さんや凛さんにしてもそうです。いえ、貴方がたは美代子さんとは幼い頃からのお知り合いでしょう! 美代子さんが、『挫折』を、人の『悪意』に曝された事が無い事を知らなかったのですか? 例え知らなかったとしても、あの様な状態で美代子さんがお帰りになられた以上、どういう状態か想像が付くのではないですか? どれ程美代子さんが傷付き、どれ程美代子さんが悩んだか、貴方がたは知っていたでしょう!」

「そ、それは……」

「……そ、その……」

「例えば、電話の一本でも入れて差し上げれば良かったのでは無いですか? 大丈夫かと、二人の仲は私達が取り持って上げると、なぜそれを言って差し上げなかったのですか? 傷ついて帰ったであろう美代子さんを、何故フォローして上げなかったのですか? それが出来るのは、貴方達だけじゃないんですかっ!!」

「……あ」

「……う」

「そうです。そうですよ。結局、貴方達は誰よりも『自分』が可愛かったんですよ。友達だ、なんだと言いながら、最終的に自分が一番可愛かったんです。だから、何もしない。何も動かない。美代子さんを追い詰めて置きながら、『友達だから~』なんて眠たい事が言えるんですよ。鈴音さん?」

「あ、は、はい!」

「今回に関しては貴方には大した責任は無いです。いえ、正確には今までの全ての事に関しても、ですが」

「え、えっと……」

「分かりませんか? それは、貴方がこのフラワーガールズ内に置いて『浮いている』からなんですよ」

「っ!」

「『責任』と云うのは責任が取れる立場の人間にしか与えられません。新入社員に責任がありますか? 無いんでしょう? それと一緒です。貴方の代わりに誰が入っても、なんの問題も無いんですよ、この『チーム』は。ああ、勘違いしないで下さいね? 能力的な問題を言っている訳ではありません。単純に、貴方のスタンスの問題です。事なかれ主義を貫き、波風を立てないように生きようとする貴方の生き方では、他人の人生において名脇役を張れる程の器ではないんです。精々、通行人A止まりなんですよ」

 一刀両断、そう言って順々に四人を見回し、もう一度ふんっと鼻を鳴らす。

「先程、『バカにしているか?』と言われましたが……バカだとは思っていませんよ。ただ、薄ら気味の悪い『茶番』をまあ、良くも堂々と繰り広げられるなと感心していただけです。友達? は! 良くもまあ、恥ずかしげもなくそんな事が言えますね、貴方達は。言っておきますが、この中で唯一、貴方がたを『友達』と言っても良いのは」

 そう言って言葉を切り。


「――美代子さんだけですよ? 皮肉な話ですがね」



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