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第三十五話 魔法少女と闇堕ちの魔法少女


 アルフの言葉に、時間が止まった気がしたのは一瞬。

「ちょ、あ、アルフ!? は? ちょ……え、ええ?」

 思考が動き出すまで、もう一瞬。そんな私にチラリと視線を向けて、アルフは美代子ちゃんに視線を固定したまま言葉を続けた。

「ミケ……支援課所属のミケ・アインストリーを、美代子さんの部屋で保護しました。血だらけになりながら、それでもなんとか『生きては』いる状態のミケを。喋れる状態ではありませんので、状況証拠だけになりますが……間違いなく、犯人は美代子さんでしょう」

「……そんな」

「……貴方も魔法少女好きなら聞いた事があるでしょう、キョウコさん。今の美代子さんは魔法少女フラワーレッドではありません。『魔法少女の憂鬱』に罹患し、そのままその憂鬱にその身を喰われた、とても危険な存在です。唯の敵ではなく、魔法少女である筈のその力を悪の為に使う、そんな存在です。そして、我々はその存在をこう、呼称しています」

 そう言って、アルフはじっと美代子ちゃんを見つめる。


「――『闇堕ち』と」


「……用語まで、魔法少女モノなんだ。冗談みたいな話だね」

「……冗談だったら良かったのですが」

 溜息一つ。

「……闇堕ちした魔法少女は、魔法少女としての力をそのままに『悪』になります。そして、敵、例えばツリー帝国の様な目的意識を持った『悪』ではありません」

「……そうなの?」

 結構、色んな所では敢えて悪をやってる闇堕ち魔法少女もいると思うケド?

「お話の話でしょう、それは。魔法少女は自身の力だけではなく、他所の――此処であれば、花の精霊の力を借りて戦います。本来であれば『借りる』だけの力の筈、戦闘が終わればその力を返すのが普通です。ですが、闇堕ちした魔法少女はその力を借りる事をしません」

「……どういう意味?」

「『奪う』のですよ。自らの思うがままに、花の精霊の力を」

 アルフがそう言いながら、すっと美代子ちゃんの足元を指差す。その差された指先に視線を向けて。

「……なに、あれ?」

 美代子ちゃんの足元にあった花が、萎れて行く様が見えた。否、花だけではない。美代子ちゃんの隣に立っていた木は、見る見る内にその葉を茶色に染めたかと思うと次の瞬間にはザザっと一瞬でその葉を落とす。まるで、早送りの定点カメラの映像を見ているかの様なその光景に、私はバカみたいにポカンと口を開ける事しか出来ない。

「あれが、『奪う』という事です」

「……とんでもないね」

「とんでもないのはアレだけではありません」

 ……ナンデスト?

「……まだあるの? トンデモナイ事が?」

「魔法少女と呼び、魔法の力を使ってこそいますが、基本的に魔法少女だって一度魔法少女の任を離れればごく普通の少女に過ぎません」

「……普通かどうかはともかく……うん、まあ、分かる」

「そんな普通の少女が、際限なく力を奪い続けるんです。自身の容量の、その限界を超えた力を奪い続けるんです」

 この意味が分かりますか? と問うアルフに無言で頷く。

「……満杯になったコップに、まだ水を注ぐって事でしょ?」

「表現としては似ていますが、少しだけ違います。言ってみれば、少しずつ空気の抜ける風船に延々と空気を送り続ける様なものです。空気の抜ける量よりも、空気が入る量が多ければ……」

「……パーン、って事?」

「そういう事です」

 そういう事ですって……

「ま、不味いじゃん、それ!」

「だから、不味いんです。闇堕ちした魔法少女は正直、敵よりも厄介です。存在を無視する事も、存在から逃げる事も出来ません。再戦もダメです。この場で、倒さなければならないのです」

「に、逃げるつもりはないけど……って、再戦もダメ? え? な、なんで? まさか、あれ? 『闇堕ちした魔法少女に背を向けるのは武門の恥!』みたいな考え方?」

 むしろ、この状態で美代子ちゃんと戦うべきじゃないんじゃないの? に、逃げた方が良くない? 逃げるがダメなの? なら、こう……戦略的な撤退をさ!

「……そんな精神論を述べるつもりはありません。その時点で戦えないのであれば、何度でも退却すればいいんです。最終的に敵を倒せばそれで良いんですから。竹やりで飛行機を落とすなんて言う様じゃ必ず負けますから」

「……良かった」

「ですが、今回はダメです。どれ程装備が整っていなくても、どれ程不利な状態であろうとも、今回だけは戦わないといけません」

「……なんで?」

「延々に力を奪い続けるんです。そして、その力は徐々に大きく、強くなります。今はまだいいでしょう。ですが、それを続ければ? 魔法少女の力は、ドンドンと大きくなり、やがて魔法少女を内側から食い潰します。ただ、食い潰すのではありません。『魔法少女』という器を失った力は、その力を一気に開放します。延々と貯め続けた力が、爆発的な熱量を以って弾けるんです。どうなるか、分かりますか?」

「……どう、なるの?」

「街が消し飛びます。魔法少女が守るべき筈の、その街がね」

 そう言って、小さく息を吐く。

「――闇堕ちの魔法少女との戦い。それは、暴走するその力を振るう魔法少女、それをそのまま相手にし、そして必ず戦わなくてはいけません。逃げる事も、再戦をする事も、無視をする事も出来ません。必ず、戦わなくてはいけません。いいえ、戦うだけでは駄目です。絶対に……『止めない』と、いけません」

「……止める……って?」

 自身でも分かるぐらいに、声が掠れる。そんな私の声に、アルフは少しだけ目を伏せて。



「倒して下さいと――『殺して』下さいと……そういう事です」




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