表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/38

第二十四話 魔法少女と生涯のトモ

久々に二日連続投稿。

書いてて楽しいです、これ。


「そ、その……あ、危ない所を助けて下さって本当にありがとうございました! アリ――じゃなくて、わ、私、本当に感謝しています! あ、ありがとうございます! あ! わ、私はアリサと申します! きょ、キョーコさんの……そ、その、マジックアイテムをしています!」

「……」

「……え? 『君に怪我が無くて良かった』? え、ええ! わ、私の事を心配して下さるんですか、練習用バット様! そ、そんな……そ、そうです! わ、私の事よりご自身の心配をして下さい! 危ない所でしたし……そ、それに、わ、私は……そ、その! こ、こう見えても結構強いんです! ホラ! むんぅ!」

「……」

「……ほえ? え、ええええええ! 『仮令、強くても君みたいな綺麗な子が傷付くのは見ていられない』? き、綺麗って! れ、練習用バット様、そ、それは……わ、私の事ですか! は、恥ずかしいです! そ、そんな、綺麗なんて……」

「……」

「う、うわぁあ! や、止めてください! 『おかしな子だな? 君が綺麗なのは事実じゃないか』なんて! そ、そんな事言われたら……わ、私……私……!」

「……おい」

 片や右手にアリサ、もう片方の手に練習用バットを握った私を中心に繰り広げられるなんだかよく分からない小芝居。先程まではまあ、黙って聞いていたが……こう、なんだ? 流石にこの状況はそろそろご勘弁願いたい。

「……なによ? 今、良い雰囲気なんだから後にしてくれないぃ?」

「……良い雰囲気なのか、今?」

「うん! 練習用バット様、すっごく優しいのぉ! さっきだって自分が一番危ない所だったのに、私の心配をして下さるのよ? ヤバくない? マジでヤバい。ちょーヤバい。アリサ、心臓が弾けちゃいそう!」

「心配スンナ、アンタに心臓はない。っていうか……え? なに? アリサ、アンタってこの練習用バットと話せたりするの?」

「あったりまえじゃん。だって、アリサはアリサだよ? マジックアイテムだよ? スポーツ用具とかと心を通わせる事ぐらい出来るわよ。って、前も説明しなかった?」

「……ああ」

 そう言えば言ってたな。イケメンのバットとか、ゴルフクラブ一式買えとか。そんな事も言ってた――って、待てよ?

「……ねえ?」

「なによ? マジで私、忙しいんだけど?」

「アンタさ? 前に練習用バットの事、『死ぬまでチェリー君』とか言って――へぶぅ! 痛い! ナニしやがんだこのクソバット!」

「あ、アンタこそ何言ってるよ! れ、練習用バット様の前でそんな事言わないで! あ、れ、練習バット様! 違うんです! 今のは違うんで――え? 『いいさ。俺が実戦に出る事が無いのは事実だから。でもそのお陰で……試合に出る事の叶わない、この鉛の入った体のお陰で君を守る事が出来たんだ』? ~~っっ!! れ、練習用バット様! あ、アリサは! アリ――ち、違うんです! 私は――『なんで、君は自分の一人称を言いなおすのか?』ですか? それは……そ、その、自分で自分の事を名前で呼ぶのって、バカな子みたいかな~って……『そんな事ない。アリサ、素敵な名前じゃないか』って……きゃ、きゃー! れ、練習用バット様! は、恥ずかしい! 恥ずかしいです! い、いえ、嬉しいんですけど! 死んじゃうくらい嬉しいんですけど! そ、その……で、でしたら……練習用バット様、私の事は『アリサ』と――貴方様が、素敵な名前と言って下さった名前で呼んで頂ければ……『いいのか?』って勿論です! むしろ、貴方様以外に呼ばせるつもりはありませんから!」

「アリサ」

「って、言ってる傍からなんで貴方が呼ぶかなぁ~!? キョーコ、ちょっとは空気読んでってカンジぃ!」

「あ、いや……ごめん。盛り上がってる処悪いんだけどさ?」

 額(がどこにあるか分からないが)に青筋を立てているであろうアリサ。なんで私が侘びを入れているんだろう、と思いながら、それでもアリサから視線を逸らして。


「……ほら? アソコでぷるぷる震えてる人いるからさ? そろそろ、相手してやってくれないかな?」


 涙目になりながらこちらを睨むハッチネーンに視線を向ける。いや、確かにハッチネーンは敵だよ? 敵だけど……なんだろう、ちょっと可哀想になってきたんだ、うん。

「はあぁ? 何言ってんのよ、キョーコ? アリサの初めての『恋』だよ? っていうか、魔法少女が喋っている時、敵はバカみたいに口開けて待ってるってのが有史以来のお約束じゃん? アリサの恋路とアイツの相手、どっちが大事だとおもってんのよ! あんだけ魔法少女アニメ、バカみたいに漁ってるんだから、それぐらい別れってカンジぃ?」

 アリサが何時も通りの小馬鹿にした様な態度でそんな事をのたまいやがる。うん、なんだろう? すっごく『カチン』と来るんだが?

「……お前は魔法少女じゃなくてマジックアイテムだろうが、とか、別に口開けてバカみたいに待ってる訳じゃ無くて様式美なんですけど! とか、お前の恋路よりも仕事を優先しろ! とか、言いたい事は色々あるんだけど……取り敢えず、なにが初めての恋路だ、クソビッチ」

「ちょ、ちょっと! だから練習用バット様に誤解されるような事は言わないでって言ったじゃん!」

「火遊びとかしてみたーい、とか言ってた癖にまあ、よく言うんだわ」

「そ、それは……じょ、冗談だし!」

「イケメンのバットとか言ってなかった? あら? あらあら? それがあんなボロボロになった練習用バットでイイんですか~?」

「だ、だから……」

「ゴルフバック一式、買ってあげよーか? ん~?」

「……」

 怒りか、羞恥か。

 私の手の中でプルプル震えているアリサ。その姿に、若干の加虐心と……まあ、半分八つ当たりを含めて尚も私が口を開きかけ。

「――わる」

「う~ん?」



「…………いじわる、しないでぇ」



 …………聞いたこともない、しおらしい声を出しやがった。

「……ひっく……そ、そりゃ……アリサが悪いよ? そんな事言ってたのも、認めるよ? で、でも……でも……ひっく……」

「あ、アリサさん?」

「で、でも……アリサ、まだ『経験』ないんだよぉ? グリップがピンクだから勘違いされがちだけど、清いバットのままなんだよぉ? なのに……ひっく……ひっく……うえーん……キョーコのいじわるぅー……」

「……」

 ……なんだよ、清いバットって。っていうか、グリップがピンクは関係ないだろう。

「あー……アリサさん? その……」

「折角……折角、アリサの白馬の王子様に出逢えたのに……そんなの……ひっく……ひっく……」

「いや、白馬の王子様じゃなくてオンボロ鉛入りバットなんだけどね?」

 良い眼科紹介しようか? 何処に眼があるか知らんけど。

「オンボロバットなんかじゃないもん! さっきの攻撃で『もうダメ!』って思った所を助けてくれた、白馬の王子様だもん! アリサにとってはそうだもん!」

「わかった! わかったから――いた! ちょ、アリサ? アンタ、どっかに口でもあんの!? 手に歯型が付いてるんですけど!」

「魔法の力で噛んだんだもん!」

「どんだけ魔法を無駄遣いしてるのよ、アンタ! 痛い! わかった! 私が悪かった! 悪かったからもう噛むな! つうか、そろそろハッチネーンが――」

 攻撃をしてくる、と言い掛けた私の言葉が喉で引っ掛かり、胸に落ちる。頭上で聞こえるザワ、ザワという葉の擦れる音と、不意に暗くなる視界に思わず顔を上げて。

「…………はははは」

 目と鼻の先、すぐそこまで迫って来ていたハッチネーンと眼があった。驚き過ぎて固まる私のその眼前で、ハッチネーンは大きく右手――と云う名の枝を振り上げて。



「何も、泣くまでイジメる事はないカキよっ!」



 ――私の肩に手を置いた。え?

「……え?」

「分かる、分かるカキよ、バットの嬢ちゃん! 仲間にイジメられる辛さ、このハッチネーンも良く分かるカキ!」

「……ぐす……ほ、ホント?」

「ホントカキ! 竜血樹の奴なんか『あー……ホント、俺って希少価値高すぎるよな~。テレビ出演も多いし、肩凝るわ~。あ、ハッチネーン。いいな、お前は暇そうで』とか言いやがるカキ!」

「ひ、酷い! 仲間なのに!」

「そう思うカキか! バオバブの奴も、『ま、私の心の故郷はフランスですから。ああ、パリの灯よ。何もかもが懐かしい……』とか言いやがるカキ。アイツ、ホントはマダガスカル出身の癖に! パリなんて言ったことも無い癖に、なーにがパリの灯カキか! ちょっと有名作品に登場したからって調子に乗りやがってカキ! 悪かったな、原産地日本で!」

「わ、分かる! アリサも世界のミズ――じゃなくて、国内メーカーだから、ちょっと海外製ってだけでちょーし乗る奴とかチョー嫌いだし!」

「そうカキ、そうカキ! なにが『舶来品』だカキよ! 世界に誇る日本の技術があるカキよ!」

「そうよ! 燕市の職人さんに手を付いて謝れってカンジぃ!」

 そう言って、気炎を上げるバカ二人――じゃなくて、バカな木とバット。お前ら、気が合い過ぎじゃないか?

「……まあ、そうは言ってもバットの嬢ちゃん、『仲間』っていうのは大事カキよ?」

「……そうなの?」

「竜血樹もバオバブも根は悪い奴じゃないカキし、俺だって色々助けても貰っているカキ。バットの嬢ちゃんも思い当たる節はないカキか?」

「……ある」

「だったら仲間を大事にするカキ。分かったカキか?」

「…………うん」

「良い子カキ」

 そう言って、アリサににっこりと笑うハッチネーン。なんだろ? 物凄く、こう……イケメンっぽい感じなんだが。カキノキなのに。

「……それではお前らが真の仲間となった時、改めて戦う事にするカキ。今日の所はこの辺りで引き上げるカキよ」

「……うん。ハッチネーンには感謝してるけど……でも……」

「ああ、悲しいカキけど……」


「「――――これ、戦闘なのよね」」


「……ふんカキ! それではバットの嬢ちゃん! その時は正々堂々戦うカキよ!」

「望む所よ、ハッチネーン! 今度こそ、返り討ちにしてやるわ!」

「ははは! やれるモノならやってみろカキ! それでは魔法少女達よ! さらばカキ!」

 そう言って、急に『にょき』という感じで地面から根っこを出すハッチネーン。ちょ、は、え、ええええ!?

「……いや、ちょ、ちょっと!」

「次回こそ、決着をつけるカキよぉーーー!」

 にょきっと生えた根っこをフル回転、ドップラー効果を残しながら爆走するハッチネーン。その姿は……うん、間違いなくホラーだ。

「……」

「……」

「……私達……出逢う場所が違えば、生涯の友に成れたかも知れない……ってカンジぃ。あ! で、でも! 生涯を共に歩みたいのは……そ、その……れ、練習用バット様だけですぅ……」

「……うっさい、バカ」

『きゃ、きゃー! お、お化け!』なんて悲鳴が木霊する、ハッチネーンが走り抜けた道を見つめて……後ろでポカンとしている魔法少女になんて説明しようと思いながら、私は小さく肩を落とした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ