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第十九話 魔法少女と筋肉の化身


 ……人間、驚き過ぎると声が出なくなるモノなんだと初めて知った。プルプルと震える指先で更衣室を指し、そのままその視線をアルフに向ける。

「さあ、キョーコさん! 早く着替えて下さい! 時間がありません! 何をぼーっとしているんですかっ! 早く……早くしないと!」

 目の前の更衣室を指差して捲し立てるアルフ。良く見ればいつものイケメンフェイスの上には珠の様な汗が浮かんでおり、アルフの焦る様がよく分かる。いや、分かるよ? 確かに此処で驚いてる暇なんて無いのも、そりゃ十二分に分かる。分かるんだが。

「はや――え? きょ、キョーコさん? どうしたんです? 怖い顔して」

 そう言って後ずさるアルフ。うん、此処に鏡が無いから分かんないけど、多分私は物凄い顔をしてるんだろうな。少しだけ引き攣った表情を浮かべるアルフに近づき、ネクタイをグイッと捻り上げ、彼の耳元に唇を近づけて。


「バッッッーーーーーーカじゃないの!」


 耳元で絶叫。不意を突かれたか、右耳を抑えて蹲るアルフに尚も私は言葉を続けた。

「アンタ、ホントにバッカじゃないの!? なに? アンタ、見た事あんのか? 敵を眼前にしてイソイソと更衣室で着替える魔法少女見た事あんのか!? 斬新過ぎるでしょうよ! 一周回ってある意味凄いわ!」

「い、イツツ……み、耳がキーンって……な、なにをするんですか、キョーコさん! いきなり耳元で大声を出すなんて! 酷いですよ!」

 涙目でこちらを見上げるアルフ。言わんとしている事は分からんでもないが……でも、そんな事、知るかっ!

「酷いこともするわ! っていうか、ホントにアンタらの組織って碌な人間がいないの? 魔法少女のマジックアイテムがバットで、マスコットキャラは胡散臭くて、スカウトが契約書で、人の母親騙して、極めつけは変身が簡易更衣室? もう一回言うわ! アンタ、見た事あんのか、そんな魔法少女!」

 私だったら一話で『そっとじ』だぞ! 某巨大掲示板も荒れるし、九話ぐらいで打ち切りになるわ! むしろ打ち切りになった後に円盤爆死で制作会社倒産まであるわ!

「う……ぐぅ……そ、それを言われると少しばかり厳しいモノがありますが……」

「でしょうが! ちょっとは考えなさいよ、アンタら!」

「で、ですがキョーコさん! 世の中には電話ボックスから魔神を呼び出す剣豪もいましてですね! ですから魔法少女が簡易更衣室で着替えてもおかしくないです!」

「おかしいよ! どっからどう考えてもおかしいよ! 大体、そんな剣豪が居てたまるか! 幻想でしょうが、アンタの!」

 それだったらまだ『魔法のランプ』とかの方が現実味があるわ! そもそも電話ボックスなんて殆ど見た事ないし!

「い、いえ、本当に居るんですって! 専用テレカで――」

「テレカなんてもっと見た事もない! 前時代の遺物でしょうが、ソレ!」

「て、テレカが前時代の遺物って……じぇ、ジェネレーションギャップを感じますね、キョーコさん。小銭が無くても電話が掛けれるという――」

「超どーでもいい! ともかく!」

 私の言葉に『こ、これだから現代っ子は……』というアルフの呟きが聞こえる。若干カチンと来る言われようだが、そんな事より!

「アンタ、私に此処で着替えろって言うの! 目の前で敵と戦ってる魔法少女前にして!」

 ビシッと簡易更衣室を指差す私。怒気と気迫に当てられたか、アルフがついっと視線を外した。

「……先程も言いましたけど、この世界では『花の精霊』の力を借りたりするんですよ。でもまあ、『余所者』であるキョーコさんには力を貸して下さらないので」

「……さっきも言ったけど滅びた方が良いんじゃないの、そんな世界」

「そういう訳にも行かないんですよ。そもそも、精霊達って昔っから『ああ』なんですよね。人間たちはまだ話が通じるんですが、精霊とか、『そんなカンジ』の生命体はこう……プライドが高いと言いましょうか。自分たちで何をするでも無い癖に、文句だけは一丁前ですし、魔法少女にほんのちょっと力を貸しているからと云って、上から目線で偉そうですし……ともかく、我々にも非協力的でして。私たちも困っては要るんですよ。こう……悪質なクレーマーと言いましょうか、要注意顧客と言いましょうか、して貰って当然という態度が見えると言いましょうか、むしろさせてやっているんだぞ、有り難く思えぐらいは思ってるまであると言いましょうか………………滅びてしまえ、と言いましょうか」

「最後!」

「失礼、本音が出ました。まあですので……こう……仕方なく、この『簡易変身セット』を持って来たんですよ」

「……これ?」

 いや、これは唯の簡易更衣室です。

「み、見た目はそうですが! 中は凄いんですって! 全自動ファンデーション塗り機に全自動口紅塗り機、全自動ヘアメイカーまで付いた優れモノです!」

「前者二つは分からんでもないが、なんだ、ヘアメイカーって」

「しかも! それだけじゃありません! さあ、キョーコさん! 見て下さい!」

 そう言ってつかつかとアルフが簡易更衣室に近づくと、カーテンを力一杯引っ張る。シャーっというレールの擦れる音と共に、更衣室の内装が白日の下に――


「――もー! 待ちくたびれちゃったわーん! いつまでコントしてるのよ、アルフぅ~。この、い・け・ずぅ~!」

「うぎゃーーーーーーー!」

 カーテンレールの中には、何故か上半身裸で筋肉ムキムキの『しな』を作るマッチョが入っていた。女子高生としてどうか? と言わんばかりの私の絶叫に慌てた様にアルフが言葉を発した。

「ちょ、きゃ、キャサリン! なんで上半身裸なんですか!」

「だってぇ~。更衣室の中暑いんですもの~。体が火照っちゃったのよ~ん」

 そう言いながらウインクなんぞかます筋肉ダルマに、全身に鳥肌が立った。な、なんだコレ!? 超怖いんですけど! 思わず距離を取る様に後ずさる私。視線を外さない様に……アレだ、クマから逃げる時の様にじりじりと、前を向いたまま後ずさり――


 ――ポキ、っと。


「うーん? ……ああ、アルフ! あの子が今回の魔法少女?」

 私の足が木の枝を踏んだ小さな音に反応したのか、筋肉ダルマがこちらに視線を向ける。まるで獲物を狙うかの様、爛々と輝くその瞳に思わず喉奥から『ひぃ』という声にならない声が漏れた。お、おのれ、ツリー帝国! こ、こんな罠を!

「あらやだぁ~! なに、この子! 怯えちゃって、カワイイ~!!!」

「……キャサリン、そのぐらいで。キョーコさん、紹介します。こちら、全世界魔法少女協会専属スタイリストのキャサリンです」

「せ、専属スタイリスト!? な、なによそれ!」

「先程も申しました通り、『変身』できない場合に『変身』を手伝ってくれるBSSです」

「て、手伝ってって!」

「だってキョーコさん、一人できちんと着こなせます? 多分無理ですよ? 細々したパーツもありますし」

「う、うぐ!」

「ちなみに衣装からパーツに至るまで、全て彼――彼女の手作りです」

「どっち!? 彼なの、彼女なの!?」

 変身、手伝ってくれるのよね! 『彼女』なら百歩譲るけど、『彼』だったらマジ勘弁なんですけど!

「ええっと……どっちの方がいいです、キャサリン?」

「イヤ~ね~。そんなのどっちでも良いでしょ? 私の性別が男でも女でも、そんなの大差ないわ。大事なのは『ココロ』よ!」

「イイ事言ってる風であんまり言えてない!」

 つうか仮に『彼女』だったら上半身裸ってどうよ!

「まあ、と・も・か・く……キョーコちゃん、だっけ?」

 混乱する私を無視するかの様、筋肉ダルマ――キャサリンが私に一歩、また一歩と近づいてくる。余りの恐怖心に思わず後ずさる私の手をグイッと掴み。


「さあ……行きましょう~?」


 そう言って、『ドゴン』とでもなりそうなウインクをして見せた。ひ、ひぃ! こ、怖い! マジで怖いんですけどぉ!

 


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