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第十八話 魔法少女と変身


 言い切った私にポカンとした後、アルフが瞳を潤ませてこちらを見つめてくる。いや、アルフ? 某消費者金融のチワワ的なその視線はちょっと勘弁願いたいのだが。

「きょ、キョーコさん!」

「ああ、もう! ウザい! 泣くな!」

「だって……だって……キョーコさんはもうちょっとこう、『えー……面倒くさいしぃ』とか言う人かと思っていたのに……た、戦ってくれるって!」

「……色々言いたい事があるが、普通は命の危機を感じたら『イヤ!』って言うと思うわよ?」

 別に、面倒くさい訳ではないのだ。そうは言っても魔法少女に憧れた身ではあるし、自身が魔法を操って敵と戦う事がイヤでイヤで堪らない……という訳ではない。命の危機を感じる戦いは御免被るというだけで。

「セーフティに居なきゃ戦えないってのは軽蔑する?」

「いいえ。普通は誰だってそうです。私や……そうですね、魔法少女の方が異常なんですから」

「自らを称して異常と言っちゃう?」

「魔法少女の常識は非常識ですから」

 そう言ってうん、と一つ頷きアルフはジャケットの内ポケットから、スマホ全盛時代である現代においては逆に珍しくなってきたガラケーの携帯電話を取り出した。

「アルフ?」

「年長の方には使い難いですからね、スマホ。こっちの方が良いとの意見が大多数を占めておりまして。協会ではガラケーですよ……あ、もしもし? ええ、アルフです。はい、至急でお願いします。稟議の方は事後で申請しますので……はい、はい。では宜しくおねがいします……失礼しました。えっと……なんでしたか?」

「ガラケーって日本独自のモノかと……じゃなくて! え? なに? なんで急に電話しだしたのよ!」

「なんでって……キョーコさん、その格好で戦うつもりです?」

 そう言ってアルフがまじまじと私の格好に目を向ける。学校帰り、着替える前に『召喚』された為、未だに制服姿の私を。

「……不味い?」

「不味いですよ」

「いや、だってあんまり時間も無いんでしょ? だったらこう、変身とかしてる時間なんかないかな~って」

「魔法少女は戦う時に『コスチューム』に着替えるのは当たり前ですし、言ってみれば『美学』ですから」

「美学って」

「じゃあ、見た事あります? 制服姿で戦う魔法少女とか、パジャマ姿で戦う魔法少女とか、ニッカポッカで戦う魔法少女とか」

「な、無い訳ではないと思うケド……」

 ほら、月に代わるやつとか。

「一応、アレもコスチュームですので。それに……」

 そう言って、何かを言い淀む様に視線をあちらこちらに飛ばすアルフ。やがて、言い難そうに口を開いた。

「……その……そんな短いスカートで飛んだり跳ねたりして貰ったら困るんですよね」

「は? なんで?」

「……ウチはそういう商売やってないんですよ。こう……あくまで『健全』ですので」

 何を言いたいか分からない。そう思い、口を開きかけて。


「――っ! ば、バッカじゃないの! 変態! この変態!」


 慌ててスカートの端をぎゅっと摘まむ。確かに、この短いスカートで飛んだり跳ねたりしたら確実に……こう……見える。

「へ、変態とはなんですか! そうならない為にもコスチュームに着替えましょうって話ですよ! 幾ら短いスカートで飛んだり跳ねたりしても不測の事態が起きない様に我が全世界魔法少女協会が技術の粋を集めて作ったコスチュームです! 安心して下さい! 見えませんから!」

「最後がどっかで聞いた事ある!」

「ともかく! こう、アレです! キョーコさんがお嫁にいけない事になっても困るので私達も全力でフォローしているんですよ! なのに……言うに事欠いて変態とか……ひどすぎません、キョーコさん!」

 羞恥か、怒りか、顔を真っ赤にしてそう言うアルフ。その余りの『必死さ』についつい私も半身を引いて応える。

「わ、分かった! 悪かった! 私が悪かったから! そ、そういう事なら……その……変身するから!」

『変身するから!』という日本語の綴りの異常さに内心で首を捻りながら――不謹慎な話、私はちょっとばかし浮かれていた。

 ……いや、だってさ? こう、魔法少女と言えばやっぱ変身でしょ? 古きはテクマクから、最近ではプリティできゅあきゅあな奴まで、魔法少女の変身はやっぱり『華』だと思うんだよ、うん。

「え、えっと……こう、なに? キーワード的なモノがあったりしちゃったりする? 呪文って言うか、こう……そんな感じのやつ?」

 あんまり難しい英単語は勘弁願いたい。そう思い、アルフに視線をやるも……なぜか、気まずそうに視線を逸らすアルフ。なんでさ?

「あー……その非常に言い難いのですが……」

「……なに?」

「こう、魔法少女の『コスチューム』というのは魔力的な力が必要になってきてですね? 詳細に説明するとアレなんですが、こう、オドとかマナ的な力が魔法少女達にコスチュームを提供する流れなんですよ。例えば『フラワーガールズ』は各々、花の精霊の力を借りて戦っています。レッドの美代子さんは薔薇の精霊の力を借りているのですが、こう、そのですね? 『この世界』の精霊達は結構気紛れでして……自分たちの住む世界の平和を守るのに、他所の世界の力を借りるのを良しとしないと言いましょうか、なんと言いましょうか……」

「分かり易くプリーズ」

「……よそ者であるキョーコさんに力を貸してくれる精霊なんて居ません」

 ……愕然とした。

「ちょ、は? よそ者はハブにされるって事!?」

「い、言い方! で、ですが……まあ……そう、ですかね?」

「ちょ、なによソレ! 助けに来た人間に『別に自分たちで解決できるから、いいですわ』って、そんな事普通言うかなぁ! ああ、ああ、分かった! それじゃ助けてあげないわよ! 勝手にすれば!」

 そう言って、ハシタナイとは知りながら道端のタンポポ的な草に中指を突き立てる。勝手にしやがれ!

「ちょ、それじゃ困るんですって! 精霊たちはそうですけど、この国の政府はそういう訳にはいかないんです! この国の政府は結構な上得意さんなんですから! 此処に見捨てられると財務が痛むんですよ、協会の!」

「じゃあ、どうしろって言うのよ!」

 味方はいないのに戦えってのか、私に! つうかアンタ、さっき制服じゃダメって言ってたじゃん!

「その辺りは心得ています。この世界の精霊は特殊ですが……まあ、魔法少女によっては色々あるんですよ。特にフリー……OGの方なんかは、その『世界』の環境が自分の所と著しく違ったりしたら変身できないパターンだってありますし。そこの所は意外にしっかりフォローしてるんです、ウチ」

「……どういう事?」

「ですから――と、来ましたね?」

 不意に、頭上から下に向かって吹く風の感触と『バラバラバラ』という音が伝わってくる。風に舞う髪を抑えながら、私は風と音の方向――即ち上に視線を向けて。



「…………は?」



 ヘリコプターを見た。

「……いや……は?」

「流石、『暁のフォックス』ですね、仕事が速い。あ、暁のフォックスは協会のBSSです。見た目キツネですけど、凄腕のパイロットですから」

「あ、いや……って、そうじゃなくて!」

 なに! なにごと!? なんでヘリコプターが!

「……と、失礼。はい……ええ、大丈夫です。では、落下させて下さい」

 唖然としている私の前で、アルフがポケットに仕舞っていた形態を取りだし何事かを話す。通話が終了すると同時、こちらに視線を向けて来た。

「それじゃキョーコさん、少し下がって下さい。落ちて来ますから」

「は? お、落ちて――って、きゃあ!」

 呆然としながら、それでもなんとか返答を返した私の前に『ソレ』が物凄い勢いで落ちて来た。一歩間違えれば大惨事になり兼ねない事態に、回らない頭で抗議の声を上げようとして。



「――は?」



 目の前に落ちて来たそれに目が点になる。

「全く……フォックスも仕事が早いのは良いのですが、荒い所がタマに傷ですね。あ、キョーコさん? お怪我はありませんか?」

「だ、だいじょ――じゃなくて! ちょ、なによ! なによこれ!」

「なにって……」

 私の言葉に、少しだけ眉根を寄せて。


「更衣室、ですが?」


 デパートの服売り場なんかでよく見る、簡易更衣室を指してそう言った。


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