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第十七話 魔法少女と初めての戦闘


 アルフに急き立てられる様に自身の部屋のクローゼットを潜った私が見たのは、魔法少女アニメだったらBパートの中盤ぐらいの場面だった。分かりにくい? まあ、アレだ。簡単に言えば『結構ピンチ』って事。

「ブルー!」

「今やってるわ、レッド! それより――グリーン!」

「大丈夫! まだ持ちこたえられる!」

 イイ感じに修羅場ってる雰囲気。私とアルフはそんな戦闘状態のフラワーガールズから少しだけ距離を取った木陰に陣取って刻々と――でもないか。どちらかと言えば防戦一方のフラワーガールズを見ていた。

「……どんな状況、これ?」

「ツリー帝国の『四天王』と呼ばれるハッチネーンの侵攻です! 今まで、どちらかと言えば『小物』を相手にしていたフラワーガールズに取っては厳しい相手です」

「ハッチネーンって」

 そう言いつつ、私は視線をツリー帝国の四天王とやらに向ける。明らかに人型ではない、そこそこ大きめの、『ザ・樹木!』と言わんばかりの形態に少しだけ眉を顰めた。

「……あれ、強いの?」

 なんだろう? なんかコントとかで見る着ぐるみに見えるんだが。

「ツリー帝国は文字通りツリー、つまり『樹木』に近いほど純粋な力や、権力が高くなる傾向にあります。ハッチネーンは『柿の木』がベースとなっていますので、四天王でも一、二を争う強さですね」

「……ハッチネーンってそういう意味か」

 桃栗三年か。っていうか、柿? 柿ってあの柿だよね?

「……強いの、ソレ?」

「柿の木を馬鹿にしてはいけませんよ、キョーコさん。柿の木はカキノキ科の落葉樹で東アジアの固有種です。果実は言うに及ばず、幹本体は建材や家具にも使われますし、葉は茶の代わりに煎じれば飲むことも出来ます。渋柿ですら、防腐剤の代わりになるんですよ? 樹木界の優良選手ですよ、カキノキは」

「……一応、敵の扱いだよね、アレ? なんだかべた褒めだけど……いいの?」

「事実を言っているまでです。敵を知る事は重要ですから」

「……そ、そう」

 なにも言うまい。イイならいいよ、うん。

「ただ……やはり、ハッチネーンは『柿の木』として内心忸怩たるものがある様です。確かにその果実は秋の味覚の代表格ではありますが、マツタケやサンマ、或いは栗には負けます。建材にしても……黒柿はともかく、檜や杉の方が一般的に珍重されますし、茶葉の代用になるとは言え、玉露には敵いません。防腐剤にしても今は良いモノがありますし……言ってみれば、優良選手故の苦悩と申しましょうか……」

「……何をさせても中途半端って事か」

 材木関係は詳しくは無いケド、『檜のお風呂』とかの方が高価なイメージはある。マツタケと戦えば分は悪いだろうし、柿の葉茶なんか健康志向以外で飲もうとも思わない。っていうか、健康にいいかどうかすらも知らない。

「まあ、ともかくハッチネーンは『厄介』な相手です。防御力も高いですし……何より、『シブガキマシンガン』の威力は強力ですね」

「……なんだその小学生が考えそうなネーミング。つうか、マシンガン?」

「前方にある洞から一秒間に十二発、まだ熟していない渋柿を発射します。さるかに合戦をご存じで?」

「知ってるけど……」

「昨今では蟹の親は生きている筋書きが一般的らしいですが……本来的には仇討の話ですしね、アレ。当たりどころが不味いと命に関わります」

「……不味いじゃん」

「だから、緊急事態なんですよ!」

 お城の周りでレベル上げをしていた勇者パーティーが、いきなり中ボスに絡まれた様なモノだ。これが魔法少女アニメだったら『敗戦イベント』なんて事もあろうが、生憎この戦いにはそんな便利なモノはないし、ゲームの様に『選択肢まで戻る』コマンドもコンテニューも利かない。

「……その癖、リセットはあるんだよね」

 浮世はクソゲーだ、ホントに。神様とかいう輩が居るんだったら中指を突き立てる所存。っていうかそもそも、もうちょっと初期ステータスの割り振りとかをこっちで決めさせ――


「――ん?」


 ……ん? いやさ、ちょっと待て? 待ってくれ。

「……アルフ?」

「はい?」

「えっと……さ? 今、緊急事態なんだよね?」

「そうです。緊急事態なんですよ! 早くしないと、フラワーガールズが……フラワーガールズが!」

「うん、分かった。分かったから少し落ち着け! 今が緊急事態なのは分かっている。分かっているけど!」

 緊急事態なのは分かった。早くしないとイケないのも理解した。ただね?


「……私、何をするのよ?」

 これだ。早く『何を』しないとイケないのか、それを私に教えてくれ。そう思い、アルフに視線を送って。



「――魔法少女フラワーシルバーとして、フラワーガールズの仲間になって下さい!」



 そんなアルフの言葉に、顎が落ちるかというぐらい、バカみたいに大口を開けていた。


◆◇◆◇


「バッカじゃないの! なに考えてんのよ、アンタ! バッカじゃないの! バッカじゃないの!」

「ば、バカとはなんですか!」

「バカだよ! アンタは大馬鹿だ! いいか? 私には魔法少女の『能力的』なモノは一切ないんだぞ? 魔法が使えない魔法少女なんだぞ? そんな私がどうやってあんな着ぐるみの化け物を倒せって言うのよ! 出来る訳ないでしょうが!」

「そ、それは……で、ですが大丈夫です!」

「なにが!」

「きちんと『戦略』もあります! 聞いて下さい、キョーコさん!」

「……戦略だ?」

 肩でぜーはーと息をする私に、アルフが『どうどう』と言いながら両手で押さえつける様な仕草をして見せる。どーでもいいけど、その動物にやる様な仕草が若干腹立つ。

「……聞こうか、一応」

「ありがとうございます。イイですか? 現状、フラワーガールズは浮き足だっています。今までもピンチはあったのですが……圧倒的に強い敵ですからね。それも仕方ありません。キョーコさんだってありませんか? 試合で、相手が強すぎて萎縮しちゃった経験とか」

「……まあ、無い訳ではない」

「委縮したままだと普段通りの動きが中々出来ません。ですので、一度この『場』をリセットする必要があります。その為の新キャラ登場ですよ!」

「……」

 ……なるほど。ようは時間を稼いで冷静さを取り戻させようって話か。

「……それで?」

「態勢を整えた後、今度は数的優位を利用して一気に攻め寄せます。五人から六人に増えればハッチネーンだって少なからず動揺します。そこを突くんです。大丈夫! その為の作戦もありますから!」

「……具体的には?」

 ある程度、理解は出来た。その方法が有効であろう事も分かる。だから……その最後、『トドメ』の部分がある程度しっかりした作戦だったら話を受けてもイイだろうとそう思い、そう口に出して。



「――キョーコさんがアリサさんをガン振りするんですよ!」



「魔法少女の戦い方じゃないよねぇ、それぇ!」

 絶叫した。

「何処の世界にバッド振り回す魔法少女が居るのよ! 聞いた事ないわ、そんなの!」

「よ、世の中には武闘派の魔法少女だっていますよ! 魔術師なのに先に拳骨出ちゃうツインテールとか!」

「誰の事だよ、それ!」

「誰って……そりゃ、ふ――」

「ああ、いい! やっぱり言うな! なんか聞いたらダメな気がするから! っていうか! それってがっつり一番危ない役割じゃない、私!?」

 敵の懐に潜り込んで、その場でバッドをガン振りだ。危険度があからさまに高い任務だろうよ、それ!

「で、ですが! 現状ではそれが最良です! ハッチネーンは体も堅いですし、フラワーガールの攻撃が有効とは言えないのです。キョーコさんのウルトラインパクトアタックは確実に敵の『芯』をぶち抜きますので、ハッチネーンの『ソウル』を壊す事が出来るんです!」

「芯に当たるってそういう意味なの!?」

 ある意味では最強の能力――じゃなくて!

「と、ともかく無理! 無理だって!」

「で、ですが! それではフラワーガールが負けてしまいます! キョーコさんはそれでイイんですか!」

「うっ!」

 い、イイんですかって……そ、そりゃ……良くはない。一日の付き合いではあるが、なんだかんだでソコソコ仲良くもなった。それを……まあ、『見捨てる』のは流石に私もちょっと、とも思う。お、思うケド!

「で、でも……無理だって! だって当たると死んじゃうんでしょ? そんなの、私無理だって!」

 そ、そもそも私は事務方で入ったんだ。そんな、いきなり敵とガチで戦えって、そんなの――


「きゃ、きゃあーー!」


「グリーン!」

 不意に聞こえた悲鳴にそちらに視線をやれば、腕を抑えた律子ちゃんの姿があった。『だ、大丈夫! まだ戦える!』と笑おうとして、腕が痛むのか苦痛にその顔を歪める。それでも気丈に立ち上がり、マジックステッキ的なモノを握りしめて――


「……出せ」

「は、はい?」

「さっさとアリサ、出しなさい! こないだみたいに背中から出せるんでしょ! ああ、もう! 分かった! やる! やればイイんでしょ、やれば!」

 


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