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第十六話 魔法少女と正義のミカタ


 アルフに言われるがまま眼を瞑った私が次に眼を開けた時、先程まで見ていた保健室の光景はなく、見慣れた自分の部屋が瞳に映った。野球中継が映ったテレビ、DVDレコーダー、本棚にベッドに――

「あ、帰って来たのぉ? お帰り~」

「……寛いでるわね、アンタ」

 そして、ベッドの上で鎮座ましますグリップがピンクのバットことアリサ。誰の手も触れていないのにベットの上でコロコロと転がるバット、という心霊現象もビックリな行動をするバットに溜息を吐きつつ、私はベットに腰を降ろした。

「……何してんの?」

「見て分かんない? テレビ見てるのよ、テ・レ・ビ!」

「いや、それは分かるけど……っていうか、テレビ付けっぱなしだったっけ?」

「ううん、自分で付けた。野球中継してたから」

「……付けれるの、アンタ?」

「あったりまえじゃん。テレビくらい、付けれるしぃ~」

 何処でつけるんだ、と問おうと思いながら……諦める。なんか、どーでも良いわ。

「……んで、わざわざテレビ付けて野球中継見てんの? なに? 野球好きなの?」

「野球に興味は無いケド、バット出てるじゃん?」

「……はあ」

「やっぱりプロの選手が使うバットって違うのよねぇ~。風格って言うかぁ~……イケメン揃いだしぃ~」

 そう言ってきゃっきゃ言いながら画面に釘付けになるアリサ。アレか。アリサ的にはイケメンアイドルの歌番組とか見てる感じなのか。

「ああぁ!」

「どした?」

「キョーコ、見て見て! あの四番の人の使ってるバット! 木目が超キレーじゃない? アリサ、ああいう木目に弱いんだぁ~。きゅんきゅん来る!」

「……心の底からどーでも良いわ」

 全身ではしゃいでいます感を出すアリサに溜息を吐き、私はごろんとベットに寝転がる。場所が奪われ、『ちょっと!』というアリサの抗議を無視して天井の電球を見つめた。

「……なーに? ブルー入った感じなのぉ?」

「いや……別にブルーな訳じゃないけどさ」

「なになに? 魔法少女の悩み事解決するキョーコが悩み事抱えてるの? キャハハ! ちょーウケル!」

「……感じ悪いな、アンタ」

「そうぉ? 私は別に普通のつもりだけどぉ? っていうか、折角のお楽しみタイム邪魔して溜息なんか吐くキョーコの方が感じ悪いって言うかぁ~? 言いたい事あるんだったら聞いてあげるけどぉ~?」

 ベッドの端にごろごろと転がりながらそんな事を言うアリサに、私は少しだけ悩みながら言葉を口にした。

「いや……こう、なんだろう? 私って何してるのかな~って」

「なーに? 仕事で失敗したのぉ?」

「失敗って言うか……まあ、失敗もしたんだけど、そうじゃなくてさ」

 巧く言えんのだが……こう、なんだろう?

「……アルフが言ってたのよね。『本部と現場の仲は良好じゃない』って」

「まあねぇ~。本部の人間って感じ悪いしぃ~。こう、『エリート!』みたいな空気出してるのよねぇ。頑張っているのは現場なのにぃ」

「……そうなのよ。これもアルフが言ってたけど……折角街を救っても、魔法少女がビル壊したら事情書書かされるんでしょ?」

「事情書っていうか始末書よ、始末書。アレで給料減ったりするしぃ」

「マジか。まあ……それってさ? なんかおかしいなって思って」

「……おかしい?」

「だってさ? 魔法少女は頑張って街を救ってる訳じゃん? それなのに……こう、『本部』の人間が……邪魔するのはおかしいんじゃないかなって」

 だって、そうだろう? 頑張って街を救った魔法少女を称える事をせず、やれ事情書だ、やれ報告書だを書かせるのだ。そんなの、誰がどう考えたっておかしいだろう? そう思い、肯定の言葉を期待した私に。


「え? 邪魔って……別に邪魔じゃないっしょ?」


 アリサはそんな風に言って見せた。

「じゃ、邪魔じゃないって……いや、アンタ、さっき『感じ悪い』って言ってなかった?」

「本部の人間は感じ悪いわよぉ。直ぐにエリート面して上から目線だしぃ? でも……別に『邪魔してやろう』って思って仕事してる人間はいないんじゃないかなぁ~」

「……そうなの?」

「立場が違えば考え方だって違うしぃ? 言ってる事だって分かんない訳じゃないしぃ。言い方があるでしょ! とは思うケド、邪魔だって思ったことはアリサ、無いかも」

「……」

「確かに、魔法少女に対する『締め付け』って厳しいケド、それは必要な事だからじゃん? だから、別にそれが一概に悪いとは言えないってアリサは思うかもぉ」

「……でも……」

「結局、それって正義の見方の問題なのよぉ、きっと」

「正義の……見方?」

「街を守るだけが正義じゃないじゃん? それを支える裏方があってこそでもあるしぃ。まあ、私がマジックアイテムだからかも知れないケド、私を作ってくれたのも本部の人間だしねぇ~」

 まあ、工場は世界の~だけど、と若干笑いを含めた声でそういうアリサ。

「……それに、それは結局戦うべき『敵』にも言えることだしぃ? 私達は私達の正義の為に戦うケド、あっちにはあっちの事情もあるじゃん? でも、そんなの一々考えてらんないしぃ? だったらキョーコだって悩むより先にさっさと自分の仕事したらいいじゃん」

「……」

「大体、キョーコって脳筋キャラじゃん? そーんな難しい事考えるなんてキャラ崩壊っていうかぁ? 頭から湯気が出そうっていうかぁ~? 身の程を知れって言うかぁ~?」

 先程までと一転、少しだけ小馬鹿にした様なアリサの声音に私は苦笑を浮かべる。まあ……そうだね、うん。アリサの言う通りだ。

「……さんきゅ、アリサ」

「別にお礼を言われる事してないしぃ?」

「……このツンデレバットめ。ありがとうと言っておきなさいよね」

 コツンと小突いてみると、『暴力反対だしぃ』なんて言ってベッドの端にごろごろと転がって見せるアリサ。まあ……なんだ、うん。深く考えるのは止めよう。

「……そうだね。それじゃ今日も疲れたし、お風呂入って寝ようかな」

「寝るのはいいけど、テレビは付けといてくれるぅ? もうちょっと見たいし~」

「野球中継終わるまでならね」

 アリサに言葉を返し、私はパジャマを取り出そうとクローゼットに手を掛けて。


「――緊急事態です、キョーコさん! お休み前に済みませんが、至急『あちら』に向かって下さい!」


 クローゼットから飛び出したアルフと眼があった。


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