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第十話 魔法少女と新キャラ登場


「……んで? 話は聞いたけどどうするのよ、これ?」

『お願いします!』と、何度も何度も頭を下げて帰る中川さんを見送って、私は応接室でアルフの淹れてくれた紅茶を頂きながらそう声を掛けた。

「あまり良い兆候ではありませんね」

 私の言葉にアルフは溜息を吐いて紅茶を啜ってみせる。いや、あまり良い兆候じゃないってアルフさん。そりゃそうでしょうよ。

「当たり前じゃん。そもそも、良い兆候じゃないから私らのトコロに相談に来たんじゃないの?」

 なんの問題も無けりゃ相談になんて来ないでしょうよ。

「仰る通りです。『問題がある』から来ているんですが……ですが、事はそう簡単ではありませんね」

 苦笑を浮かべながら頷くアルフ。そのまま口を開こうとして――なにかを思い付いた様に苦笑を微笑みに変えて見せた。

「そうですね。取り敢えず、キョウコさんの意見を聞いてみましょうか」

「私の?」

「ええ。フラワーブルーである中川鈴音さんはレッドである美代子さん――片桐美代子さんとの人間関係で悩んでいます。原因は美代子さんと鈴音さんの労働に対するモチベーションの違いですね」

「モチベーションって」

 まあ、そう言われりゃそうなんだろうけど。横文字使うなよ、温度差でイイじゃん。

「ビジネス用語ではありませんので、『温度差』は。ともかく、美代子さんと鈴音さんの間のモチベーションの違い――溝、と言い換えてもイイかも知れませんね。その溝を埋めるにはどうすれば良いか。さあキョウコさん? お答えをどうぞ」

 そう言って右手を出してにこやかな笑みを浮かべるアルフ。なんだか試されている様でカンジが悪いが……まあ、初仕事だ。そう思い直し、少しだけ思案するように瞳を閉じて。



「……中川さんが、頑張る……とか?」



「……」

「……」

「……はあ」

 痛いぐらいの沈黙の後、聞こえて来たのはアルフの溜息。なんだかとっても居た堪れなくなって、私は慌てて両手を左右に振る。

「ちょ、ちょっと待って! 今の無し!」

 ごめん、なし! 言った後で我ながら『あ、これは無いな』とちょっと思ったから!

「いや、ある程度予想は出来ていましたけど……流石、体育会系ですね? アレでしょ? 後輩とかに『練習が辛い? 大丈夫、もっと練習すればその内慣れるよ!』とか言ってたでしょ?」

「――っ! な、なんで知ってるのよ! アンタ、まさか見てたの!?」

「……え?」

「…………へ?」

「いや……半分冗談で言ったんですけど……まさかキョウコさん、ホントに言ってたんですか? う、うわー……ちょっとヒきますね。酷いパワハラですよ」

「ひ、ヒくって何よ、ヒくって! 違うわよ! さ、最近の若い子は直ぐに『疲れた』とか『しんどい』って言うからさ! こう、『甘えるな!』的な……あ、愛の鞭よ!」

「本当に大変な思いをしている人間に打つ鞭ではないですね、それ。後、若い子って。キョウコさんだって十分若いでしょうに」

 そう言ってジトーっとした目を向けて来るアルフに、気まずくなって眼を逸らす。で、でもね? こう……アレだ。

「……結局」

「はい?

「け、結局さ? 『限界』って自分で線を引くもんじゃん? ゲームみたいに残りの体力が出る訳じゃ無いし、『もう無理!』って思ってからでも……こう、結構頑張れるもんじゃん?」

「まあ……そうですかね?」

「だから……まあ、なんていうのかな? こう……中川さんも、もうちょっと頑張って見たらいいんじゃないかな~って……思ったりする訳です、はい」

 自信の無さから、最後は敬語。そんな私の言葉に、アルフはにっこりと微笑む。その笑顔に釣られる様、私も頬の端を上げて。


「却下です」


「……あ、はい」

 上げて、降ろす。そんな私に溜息を吐いてアルフは言葉を継いだ。

「……まあ、キョウコさんの意見も分からないでは無いです。『魔法少女フラワーガール』は協会の魔法少女の中でも、立派な戦果を挙げている魔法少女になります。なりますが、その戦果の一端は間違いなくレッドである美代子さんのキャプテンシーと身体能力の高さに起因します」

「そうなの?」

「美代子さん付のBSS曰く、『殆どサル並』との事ですね。ああ、ちなみに頭脳じゃないですよ? 動きが、です」

「……何にも言ってないわよ、私は」

「そうですか? では、続けましょう。ともかく、美代子さんの活躍で魔法少女フラワーガールは立派に街を守っています。そして、フラワーガールの他の面々はそんな彼女の戦果を認め、皆さん不満も言わずに勤めを果たしているんですよ」

「……それって」

 なにか? 文句言ってるのは中川さんだけって事?

「有体に言えばそうです。そういう意味では中川さんが『甘えている』というキョウコさんの言もあながち間違いでは無いのですが……でも、それを言えます? 『貴方が甘えているだけです。もっと頑張りましょう』って」

「うっ!」

「そんな事言ったら中川さん、きっと辞めちゃいますよ?」

「……確かに」

 相談に来て全否定されたらそりゃ、そうなるわよね。

「まあ……だからと言って美代子さんが全て正しい訳でも無いんですが。『対比誤差』という言葉をご存じで?」

「……知らない」

「本来は考課者と被考課者……まあ、上司と部下との間で使う評価エラーの用語です。上司が自身を基準としてしまった為に、その役割に応じた仕事量をこなしている、或いはこなしていないにも関わらず、一点を見て被考課者の評価を上げ下げする事を言います」

「……?」

 ごめん、アルフ。何言ってるかさっぱり分からない。

「……日本語でぷりーず」

「ようはアレです。『これぐらい、俺が若い頃は出来て当たり前だった!』という奴ですよ」

「……ああ」

「美代子さんの功績も大きいですが、鈴音さんだって別に与えられた役割をこなしていない訳ではないんですよ。実際、作戦立案の多くは鈴音さんが立てたモノですし。魔法少女として十分な実績を出しているんですよね。美代子さんの様な派手さがない、というだけで」

「……えっと……じゃあ結局、別に中川さんも悪くないって事?」

「端的に言えば」

「……」

「納得いただけないかも知れませんが、概ね私共に寄せられる『相談事』とはそういうモノです。どちらかが一方的に悪いという事は……まあ、無いとは言いませんがごく一部でしょうね。だからこそ……その、困ります」

 簡単な解決策がなくて、と肩を落とすアルフ。

「……おうふ。でも……じゃあどうすれば良いのよ? その美代子ちゃんだっけ? 美代子ちゃんに言うの? 『ちょっとは他の人の事も考えなさいよ』って」

「そう出来れば簡単ですが……今回、美代子さんには『悪気』が一切ないのも問題に拍車を掛けます。っていうか、中川さんに負担を掛けている事すら気付いて無いでしょうし……そんな中で『もうちょっと他の人の事も考えて下さい』と言うのは少し難しいですね」

「人間関係が悪くなる?」

「それもありますし……万が一、美代子さん考えすぎて、今までの様に大胆に動けなくなっても困ります。迷惑を掛けない様にと気を使い過ぎて全力が出せず、敵に負けてしまっては元も子もないですし」

 眉を八の字にして、情けなくそう言って見せるアルフ。んじゃどうしろっていうのよ?

「どちらにせよ、今のままではいけませんね。この問題を放置すると、きっと中川さんはストレスで体調を崩されてしまわれます。早期解決が望ましいかと」

「いや、そりゃ……そうだけど」

 仰る通りではある。仰る通りではあるが。

「それって言うは易し、行うは難しの典型みたいなモノじゃない? どっちも悪くも無いんだったら、解決策なんて無いんじゃない?」

 どっちにも注意出来ないのだ。変な話ではあるが、指をくわえて見ているしかないんじゃないの?

「本来であればそうです。デリケートな問題ですし、中々『外部』からは踏み込めない問題です。普通なら、ですが」

「……なんかあるの? 解決策」

「ええ。とっておきの『解決策』が」

 そう言って、ニヤリとワルイ笑みを見せるアルフ。あ、なんだろう? すっごいイヤな予感がするんですけど。具体的にはこう、私の身になんかトンデモナイ事が降りかかる的な――



「――新キャラ登場、ですね!」



「――は?」

 ……は?

「外部から踏み込めないなら内部から、ですよ! やはり魔法少女達も多感な年頃の女の子です。どんなに仲が良くても仲間割れする事もありますよ。そう思いません?」

「そりゃ……思うけど……」

「ですので此処は一つ、新キャラを登場させましょう」

「まって。意味が分からない」

「キョウコさんには……そうですね。『魔法少女フラワーホワイト』として彼女たちの仲間になって貰います!」

「だから!」

「それで、美代子さんをそのソフトボール部時代に培ったパワハラテクニックでビシバシ指導してやってください! キャラ的には……そうですね、『仲間とか関係ないぜ! 勝ちゃいいんだよ、勝ちゃ』みたいな感じで」

「パワハラって言うな! っていうか、ちょ、ちょっと!?」

「その中でさりげなく、美代子さんに気付かせるんですよ。『これじゃいけない! 私ももっと周りに気を配って戦おう!』って。言ってみれば反面教師として参加して下さいと、まあそういう感じです」

「とっておきの割にはザルだらけの策ですねぇ!」

「口で示さず態度で示せっていうでしょ?」

「それは絶対、『反面教師になれ』って意味じゃない!」

 って言うか!

「それ、私に戦えって言ってるの!?」

「あー……そう、ですね。バトルが無いと無茶な事も出来ませんし……まあ、戦って貰わないといけませんかね?」

「無いよ!? 私、魔法少女なのに魔法とか使えないよ! 私に出来るのはウルトラインパクトアタックだけだよ? バットをガン振りするだけなのよ!!」

 近接格闘オンリー。そんな魔法少女、見たことないぞ、おい! 怪我とかしたらどうすんのよ!

「大丈夫ですよ!」

 そんな私の魂の叫びに、アルフはにこやかに笑みを浮かべる。な、なんだ? まさか『魔法』の力で怪我とかはしない様な事が――



「労災、おりますから!」



「そういう問題じゃないわよ!!」


『もしもし魔法少女相談室』が一番必要なのはきっと、私だ。



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