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プロローグ ――私と契約して、魔法少女になりませんか?

行き詰ったんで、気分転換がてらに書いてみた。色んな意味でギリギリです。

 私こと鹿島恭子が魔法少女に憧れるのには、海よりも深く、山よりも高い理由がある……訳ではない。物心ついた時には当たり前のように日曜朝の魔法少女アニメを見ていたし、幼稚園や小学校ではこれも当たり前の様に魔法少女ごっこをして遊んでいたのだ。殆どライフワークのノリで、私は魔法少女に慣れ親しんできた。


 ただ、別に私が特殊であった訳ではない。今でこそ『ザ・ギャル』みたいな友人の涼香にしても、『私、東大目指すわ!』と言って私立の有名中高一貫女子校に進んだ小春も、語学留学の旅に出た瑞希だって、皆、『魔法少女ごっこ』をした仲間だった。統計を取った訳じゃ無いのでソースとかを求められると困るが、恐らく日本全国の小学生女子の……そう、少なくとも七割ぐらいは魔法少女アニメを見て育ったんじゃ無かろうか、と思う。アレだ、『魔法少女が嫌いな女の子なんて居ない!』というやつである。


 唯一、私が人より少しおかしいとするのであれば――高校一年生と、同年齢の大方が魔法少女を卒業した年齢になっても、未だに魔法少女に憧れている、といった点ぐらいである。ちなみに、自身が『イタイ』事は十分承知しているのでその辺りの突っ込みはナシでお願いしたい。


 勿論、私だって『魔法少女になる!』というのが木星に人類が到達するよりも難しい事は百も承知しているし、異物を嫌う女子高生社会において敢えて自らをマイノリティーに置くようなドMな性癖をしている訳でもない。なもんで、別に年柄年中魔法少女の事を考えている訳でも無いし、人様に吹聴している訳でもない事だけは言っておく。普通に勉強だってするし、人気アイドルグループのコンサートにも出掛けるし、オシャレだって興味が無い訳じゃない。ただ、その趣味の一つに『魔法少女』があるというだけの、普通の女子高生である。


 ……。


 ………。


 …………うん、まあね? 私だって、ちょっと普通じゃないよな~とは思うのよ。いい年して何言ってんだ、ともね? 大体、年頃の女子高生が可愛い服を買いに行くよりも、魔法少女アニメの円盤を大手通販サイトでポチる方がワクワクするって、ちょっと無いな~とは思うんだ。好みじゃないとは言え折角デートに誘って貰ったのに、デートの時間とアニメの時間が被ったからって迷わずアニメを取るとか、青春の無駄遣いだな、ともね。でもさ? 仕方ないじゃん、好きなモノは好きなんだから。理屈じゃないのよ、これは。大袈裟にいえば、魔法少女は私の生きがいであり、魂で――


 ――うん、此処まで言ったんだ、全部言ってしまう。仮に……仮に、だ。もし、可愛らしいマスコットキャラか何かが出て来て、『お願いだよ、恭子ちゃん! 魔法少女になって下さい!』と言われる日がいつか来るといいな~って、正直未だに思っているんだ、私は。


 ……さて、長々と自分語りをさせて貰った。お付き合い頂き、感謝、感謝。自分自身でもこんなに長々と自分語りなんてするつもりは無かったのだが……多分、アレだ。動揺しているのだ、自分でも。なんでって? それは――



「――どうですか、カシマ・キョウコさん」



 目の前にいるのは、どう見ても日本人には見えない銀髪・碧眼のイケメン。女の私ですら嫉妬してしまいそうになる、木目細かい肌に高い鼻、この地方都市海津ではついぞ見た事の無いような、モデルと言われても『あ、やっぱり?』と言ってしまいそうになるイケメン。うん、イケメンは基本的にいけ好かない私ですら、思わず見惚れてしまう程のイケメンだが……だから動揺している訳ではない。

「えっと……わん・もあ・ぷりーず」

「日本語で大丈夫ですよ?」

「その……もう一度。もう一度言って貰ってイイですか?」

 少しだけ掠れた私の声。情けないそんな姿に、それでも目の前のイケメンは嘲笑うでもなくにっこり微笑み、言葉を放つ。


「どうですか、カシマ・キョウコさん。私と契約して」


 魔法少女に、なりませんか? という――至福の言葉を。


「……」

 ……。

 ………。

 …………来た。来た、来た、来た、きたぁーーーーーー!! 来ちゃった! ついに来ちゃいましたよ! 憧れ続けて十数年! ついに、ついに私にも魔法少女の『スカウト』が来たよ、おい! うん、分かる。分かるよ? 『いや、街中でいきなり『魔法少女』になりませんか?』なんて言ってくる奴は九割は怪しい奴だって、そんな事は百も承知している! 『あれ? 普通、こういうのって小動物系のカワイイマスコットキャラじゃね?』とか、そういうのも承知している! でも、なんかビンビン来るんだよ! きっと、この人は悪い人じゃないって直感がね!

「……まあ、いきなりこの様な話をしても驚かれるとは思っておりますよ」

 無言で口をパクパク開ける私に勘違いをしたのか、イケメンが笑みを苦笑に変える。ちがうんだ、イケメン。これは驚き……もあるけど、どちらかと言えば『感動』だ。感動で言葉が出ないんだ。

「では、これを」

 そう言ってイケメンが指をパチンと鳴らす。

「――ふわっ!」

と同時、イケメンの指先に小さな炎が宿る。驚きで何とも情けない声を上げる私に笑みを見せ、イケメンがその手を軽く二、三度振って見せた。イケメンの手の動きに合わせる様に炎は消え、先程まで赤くともっていた指先にはA4サイズの一枚の紙が握られている。

「え……っと……え? い、今の! 今のは!」

「私は貴方をスカウトに来たモノですよ? 大した事は出来ませんが……まあ、あれくらいの『魔法』は」

 使えますよ、と、ウインクなんぞして見せるイケメン。

「……」

 ……ヤバい。うん、絶対ヤバいよ、コレ。本物だ……本物の魔法だ! 手品とかちゃっちい感じじゃないよ! これ、マジで魔法だよ! 本当はどうか知んないけど、良い! 本物でいいよ、コレ! 信じるよ! 信じるモノは救われるよ!

「どうぞ、カシマ・キョウコさん」

 恐らく私の目はキラキラしているだろう。頭? ああ、頭の中はふわふわしている。それでもそんなふわふわした頭でも差し出されたその紙を、まるで壊れ物でも扱うかの様に大事に受け取る。

「こ、これ……い、頂いても宜しいんですか?」

「申し訳ございません。その契約書は眼を通してご記入頂いた後、こちらにお返しいただく事になっているんです。ああ、心配なされないで下さい。勿論、写しの方はお渡しさせて頂きますので」

 か、返すのか、コレ。何だか凄く勿体ない気がするよ、この契約書。折角、魔法少女になった証の書類なのに、記入した後には返さなきゃいけ――


 ――――――――――ん? 契約書?


「それでは契約内容についてご説明させて頂きます。条件についてですが、基本的に魔法少女は裁量労働制を採用しておりますので、勤務時間はキョウコさんのご都合の良い時間に併せて頂いて結構です。こちらからお願いする事もありますが、その辺りは応相談という事で。尚、今回はパートナースタッフという形での採用になりますので、ノルマは御座いません……まあ、色々言いましたがバイト、或いはパートと捉えて頂ければ。ああ、勿論、勤務実績と勤務態度によっては総合職へのコース転換も可能ですので、ご希望があれば申し付け下さい。残業は週に36時間で四半期480時間まで、特段の事情――例えば悪の秘密組織による大規模な侵攻作戦などがあった場合、労使協定により40時間、四半期で520時間までの延長が認められます。給料は月末締めの翌25日払い、残業代は翌月の10日までに申請下さい。転勤に尽きましては生活の本拠地からの通勤可能範囲までとなっておりますので、転居を伴う転勤は御座いません、ご安心下さい。尚、出張旅費に尽きましては別途旅費規程が御座いますので、そちらをご参照ください。昇給は年に一回です。契約書の記入についてですが、ご住所、お名前、生年月日の順にご記入頂いた後、最後に捺印をお願いし――」

「ちょ、ちょっと! ちょっと待って!」

「――ます……どうされました? 何か不明な点でも?」

「ふ、不明な点しかないわよ! ってか……こ、コレ! け、契約書? え? え? なにこれ! これ、なんかおかしいよ!」

 違う! これはなんか違う! 何だよ、勤務実績って! 何だよ、残業時間って! 何だよ、労使協定ってぇ!! 私の知ってる魔法少女はそんな事、一言も言ってなかったよ!

「……ああ、成程。そういう事ですか」

 私の言葉に一瞬きょとんとした表情を見せた後、元の通りのふんわりをした笑みを見せるイケメン。

「えっと……分かっていただけました?」

「ええ。これは大変失礼しました。そうですね、よく考えればおかしい話ですよね」

 そう言って照れ臭そうに苦笑して見せるイケメンに、私も胸をほっと撫で下ろす。良かった、正常だ。うん、まだ正常の範疇にギリギリおさまる。色んなモノに眼を瞑って、仕切りなおせばまだ正常の範囲に――


「普通の女子高生が、下校中にご印鑑をお持ちの訳がないですものね。いや、失敬、失敬。大丈夫、拇印でも結構ですので!」


「そこじゃないわよ!」

 絶叫をあげつつ……私は気付く。


 ――ああ、これは怪しい九割じゃなく、『頭のおかしい』一割に当たったんだ、って。

 


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