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襲撃から数日が経過し、ネスト本拠地オリジンクレイドルの各種生産施設の稼働率は連日連夜ストップ高を記録していた。
既に全体の稼働率は7%を記録しており、今後は全体の兼ね合いも含めてこの程度で稼働率は推移して行くこととなるだろう。
7%と言うと案外少ないように見えるが、オリジンクレイドルの総面積は約2720000平方キロメートルだ。
どれくらいのサイズかというと、北海道3つ分強と言えばわかりやすかろう。
うち、居住区画はカプセルホテルもかくやの狭さの部屋で1人居住可能、とネストは規定しているため、居住区画は限界まで小さく造られている。
そのため、ネストの有する面積の約6割が生産工廠、残る4割が軍事関連に割り当てられている。
また、オリジンクレイドルは最低部分では水面下240メートル、最高部分では海抜780メートル付近まで建造物がある複層構造であり、それらも含めて約6割が生産工廠であり、実質的に北海道1個半を埋め尽くすほどの工廠が7分稼働しているのだ。その生産量は推して知るべしだろう。
その工廠で何が行われているかというと、ネストの有する防衛網の再構築の準備だ。
この世界に謎の転移をした際、連れてこられたのはネスト本拠地のオリジンクレイドルのみ。
オリジンクレイドルはネストの最後の砦であり、本来はそれ単体で運用するものではないのだ。
その凄まじい規模の生産工廠も、本来は最後の砦であるオリジンクレイドルの防衛網維持に使われるものだ。
銃砲、その弾薬、ミサイル、本拠地防空用航空機の生産・整備、鎮守府機能、それらを維持するために使用されるのだ。
今、オリジンクレイドルは自らを護っていた無数の防壁が完璧に喪われ、生産能力も同時に全盛期の数千分の1にまで落ち込んでいる。
それを回復するための準備だった。
まず行われるのは防衛網の構築である。
まず、空から目を向ければ、戦術データリンクを構築するための偵察、気象、警戒、などの情報偵察衛星が多数衛星軌道を周回している。
それと同時に、超高空からの迎撃不能な攻撃を仕掛けるための攻撃衛星が無数。
また敵の偵察衛星などを防ぐため、衛星軌道にはネスト所属のIFFを発していない飛翔体が衛星軌道に侵入した場合、例外なく撃墜するための自立機動兵器が配備。
航宙空母を母艦とする超高空戦略爆撃機が常時世界中を巡回。
海に眼を向けると、無数の戦略原潜を含んだ艦隊が常にオリジンクレイドル周辺海域を航行し、早期警戒網を構築する。
場合によっては戦術核や戦略核を用いた攻撃が行われる事となる。
同時に海上基地も海洋を埋め尽くさんばかりに設営されており、あらゆる海域に2分で急行出来る警戒網が構築されている。
現状で出来るのはこの程度だろう。
本来、生産設備は陸地に設営されるものであるため、生産能力は最低にまで落ち込んでいるが、オリジンクレイドルの生産能力は決して馬鹿には出来ない。
防衛設備が完璧に整っている現状では、防空網再構築に全精力を投入できる。それどころか、衛星網の最低限の構築ならば7%の稼働率で十分に間に合った。
最低限の偵察衛星の打ち上げが完了すれば、世界各国を偵察する。
そして、偵察を完了したところで、先日艦隊を差し向けてきた国に遺憾の意を表明して賠償金を山ほど毟り取る。
拒否された場合、大変遺憾であると表明しつつ空母打撃軍を差し向けて脅す。
それでも拒否したら真に遺憾であると表明しつつ空母打撃軍が攻撃を仕掛ける。
それでもなお拒否したならば、極めて遺憾であると表明しつつ全面核攻撃が行われる事になる。民間人虐殺との文句が出た場合、軍事工廠を核攻撃しただけであり、そこに付随した人員は準軍関係者であり問題ないとすっとぼけるだけである。
その後、あらゆる資源をイナゴの如く回収する。鉱物資源や鉄鋼、樹木、化学薬品、あらゆるものを回収する。
海水から真水を精製するのも手間なので、輸送のコストとの兼ね合いになるが水も回収される。
水が無くなるので土壌が露出した部分はやがて荒野か砂漠になるが、まぁ、酸素があるのだ。月面よりはマシだろう。もしかしたら雨も降るかもしれないし。
賠償金を毟り取った後は、世界各国を見渡して取引相手を探す事になる。
ちなみに、この際兵器を売りつける相手は強力な軍事国家ではなく、軍備がろくに整っていない国家である。
相手が持って居ないものを高値で売り付けるのが商売の基本であると同時に、その国の軍備を一手に担えるため、盾と矛を完全に掌握しつつネストに依存させる事が出来る。
相手は手放したくても手放せないという状況に陥るのである。KOSMOSにとっては愉快な話だ。気分は不平等条約を結ぶアメリカやイギリスだろうか。
そして同時にネストが参入できる陸地を探す事になる。
オリジンクレイドルの海面プレートはいくらでも拡張できるが、あまり巨大にすると防衛陣地の見直しが必須となる上、強襲揚陸要塞として使用できなくなる可能性も出てくるため、あまり無計画な拡張は出来なかった。
何より陸地の方が拡張計画がすばやく実施できるので、陸地に生産工廠の敷設は必須だった。
現状の計画はこんなところだろう。
現在、早期警戒網の構築のための艦艇も次々とモスボールが解除されており、艦隊指揮の出来るNPCも次々とコールドスリープから目覚めてリハビリテーションの真っただ中だった。
なおバイオロイドはリハビリだが、アンドイロドはプログラムの全面アップデートと、筐体の組み立てとなる。
解凍、再組み立てが行われている人員の数は数百人に及び、今までにない規模の人員が配備される予定だ。
また、リハビリテーション中とは言え思考能力に問題があるわけではないため、様々な人物がKOSMOSに雑談を持ちかけたり、意見陳述をしたりしている。
そうした人物たちの対応や、様々な施設運用などの問題から処理能力の不足が目立ってきたため処理施設が幾らか再稼働される。
KOSMOSが150万に及ぶタスクを有しているのは以前にも話した通りだが、これは施設運営及びKOSMOSの人格維持とは別の枠組み。
150万のタスクはKOSMOSが自由に使える自分の思考領域で、人間に例えてみると平日の終業後の自由時間、に相当するものだ。
その150万のタスク以外の処理能力が不足してきたので処理施設を再稼働させたのである。
ゲーム内においてはただの中央処理施設と誤認させるための時間稼ぎの設備だったのだが、この世界ではちゃんと使える物品として存在するらしい。
そしてその処理施設の運営および維持にアンドロイドが必要になり、その仕事のために処理能力が……との循環で、ネストの稼働率は日に日に高まっていった。
そして、そのフル稼働に耐え得るだけの設備と資源があり、ネストは今、全盛期の時代へと立ち返らんばかりの稼働を見せ始めていた。