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ああああ

「風が強いな」


 中央情報処理施設、フォトニック結晶の部屋で、KOSMOSが1つ呟いた。

 その眼は茫洋としており、どこも見ては居ない。

 自身だけに見えるインターフェースを利用して外部情報を観測しているのだ。


 現在、KOSMOSの筐体の視覚には、ウィンドウが表示されており、そこにはネストの監視装置が映す光景が投影されていた。


 本来、KOSMOSはAIであり、視覚的な観測は効率を下げる無意味な行為だ。

 しかし、人間としてのメンタリティが、視覚的にそれを見ると言う行為を許容している。


 要は、5感付き映画が主流となった現在でも、かつての発生映画と言う2つの感覚器官でしか情報を受け取れない映画が未だ存在し続けているのと同じ。

 昔を懐かしむ感覚と言うか、いわゆる懐古趣味。無味乾燥な情報よりも、非効率でも懐かしさが生む温かみのやり方が心地よいと言う奴だ。

 あるいは、AIとして5感の全てを情報として理解するのに慣れていないのかも知れない。


「ヒマだな」


 外部の映像を監視するだけの行為にも飽きてきたKOSMOSが呟く。

 やらなければならないことはたくさんあるが、うかつに動けないために何にも手を付けられない状況だ。


 スキル習得が未だ可能なのか? などの検証ならば問題ないかもしれないが、迂闊に兵器を使うのもまずいかもしれない。

 兵站を無暗に消耗するのは拙かろう。だが、ネストの無尽蔵とも思えるほどの資材や軍備がその程度では揺るぐとは思えない……。

 などと言った自問自答を延々と繰り返し続けているのだ。

 超絶の処理能力を持つだけに、どんな自問自答も現実時間では1マイクロ秒と経たずに終了してしまうのがヒマさに拍車をかけている。


 特級AIたちはどうやってこのヒマな時間をつぶしていたのだろうか? とKOSMOSは疑問に思うが、既に特級AIが自分以外に居ないのでもはや無意味だった。


「やはり、現状ではすべての行動は自粛すべきだと討議で結論がでている。だとすれば自粛すべきなのだが、ヒマだ」


 彼の分割された思考ノード。それを1つで1タスク。1タスクで凡そ人間の脳と同程度の処理能力がある。

 この場合の脳とは、脳の活動を最低限シミュレート可能と言う意味合いなので、1タスクは2400エクサFLOPS程度の演算能力を有している。

 まぁ、人間の脳の神経活動をシミュレートと言う程度なので、実際の脳となるともっと違うのだろうが、便宜上2400エクサFLOPSが脳の処理能力とされている。


 そのタスク150万個をKOSMOSは自身の思考能力として使用している。それを使用して自問自答し、自粛すべきと結論を出したのだ。ちなみにこれは業務外の物なので、人間にしてみると残業紛いの行為だ。

 言ってみれば、150万人の人間が議論をしたようなものと言っていいだろう。

 タスク1つ1つにも様々な方向性での思考をするように設定が施されているので、擬似的とは言えそのような事が出来るのだ。

 とは言え、その思考を行うタスクの知識の出どころが1つであるため、正真正銘複数の人間がセッションするのとは少々違うのだが。

 それでも、擬似的に複数人での議論が出来るのは確かだ。

 常時150万個のタスクを使っているわけではないので、数万人が議論をしたようなものと考えるべきかもしれないが。


 その議論の結果として自粛すべきと出たのだから自粛すべきなのだが、ヒマなのである。

 だから何かしたいのだが、自粛すべきだからすることがない。と言うジレンマに陥っていた。


 ちなみに150万個のタスク以外の演算能力はネストの構造体運営や、ネストの設備に必要な演算能力として貸し出したり、ネスト人員の私有空間として使用できるようにプライベートタブをつけて貸し出している。

 ネスト全体の処理能力は単一のメインフレームで統合的に運用され、そのメインフレームが様々な業務を行う。

 まぁ言ってみれば、オフコンに近い。概念的中央に位置する最大のマシンパワーを持つ演算機構を、無数の端末から利用するという形だ。


「映画でも見るか」


 ライブラリを開き、適当な映画でもないかとKOSMOSが検索する。

 そして、ニュース映画や宣伝映画、プロパガンダ映画などしかないことに絶望した。

 著作権がとっくの昔に切れている映画などもあるが、トーキー映画(音声と映像だけの映画のこと)は趣味ではないだけに見る気すらしなかった。


「そもそもなんでネストのプロパガンダ映画が……?」


 そう言えばそんなのも作ってる連中が居たような気がするな……と内心で呟きつつも、見る気がしなかったので放置された。

 ならばと、今度は書籍系のライブラリに検索をかける。

 此度調べるのは、現在活動している人物たちの基となった人物たちが登場するフィクション作品だった。


 ガノタと仮面野郎は数世紀前の映像作品らしく見る気はしなかったが、カーミラとマーマレード、そして王女王は小説媒体のフィクションに登場したキャラクターをモデルに造られている。

 小説の形式は古代と言えるほどの時代から変わっていないだけあり、KOSMOSも馴染みのある分類だ。


「あった。いとけなき自動人形たちの星への挽歌、か」


 既に著作権が切れた作品であり、universe online時代から存在していたものなのだろう。

 むしろ、マーマレードとカーミラが居る事を考えるに、そう考えるのが妥当と言える。


「しかし、古い作品だ。21世紀初頭の作品じゃないか」


 こんな古い作品を誰が愛好していたのかと訝しみながらこの書籍をライブラリに追加した人間を調べると、どうやらトニー社長と言うプレイヤーが追加したものらしい。


「彼か……」


 トニー社長、と言う役職名付きのプレイヤーネームも遥か昔の作品から取られているものらしく、彼は21世紀初頭のサブカルチャーの愛好家だった。


 21世紀と言うのは言論の自由が確立された後に、世界全体が豊かになり始め、大半の人類が平和を謳歌していた時代だ。

 それだけに、サブカルチャー分野においては大きなターニングポイントとなった時代であり、その時代の作品の愛好家は少なくなかった。

 KOSMOSとしては、いいものがある事は認めるが、センスホロに作り直された作品でなくては見る気になれず、ほとんどの作品が未見だった。


「そう言えば、Dominant Of Resonance Age Ended Multiple Objective Non humanとか言うNPCもその頃の作品が元ネタだったか」


 マーマレードとは別方向のアンドロイドで強力な戦闘力を持っているが、維持費が高いので凍結されているNPCだった。

 その時代の作品を知る人間としては、名前と見た目以外に共通点が全くないと不評だったり、むしろ突き抜けてて清々しいと評判だったりした。


 そんな風に、ネストでは割合21世紀頃の作品の愛好家は多かった。

 逆を言えば、ネストにも多く所属しているほど、21世紀ごろの作品の愛好家は多い、ともいえる。

 現在では表現が強く規制される時代となっており、自由な表現が許されていた時代の作品の方が面白いと評判なのだ。


「まぁいい。さて、読むか」


 仮想のモニタにテキストデータが投影され、次々と投影され、一瞬で閉じられる。


「しまった。一瞬で読んでしまった」


 ヒマを潰すために読もうとしていたのに、一瞬で読んでしまっては意味がない。

 何をやってんだか……と自己嫌悪しつつも、読了後の余韻に浸る。


「割とおもしろかったな。それにしても、いわゆるライトノベルなのに重いテーマを扱った作品だな」


 それは人間に等しい自我を持ったアンドロイドは人間と言えるのか? と言うのが主題の作品だった。

 人間に等しい自我を持ったアンドロイドを人間として扱う当時の作品群に対するアンチテーゼとして著された作品なのかもしれない。


 作品のストーリーラインは、人間に等しい自我を持ったアンドロイド、チョコチップが自身と同じく人間に等しい自我を持ったバイオロイドのティアーズと切磋琢磨し、思い悩む。

 そして、自身のそばに居る人間たちとの関わり合い、自身の生まれた意味、アンドロイドの存在意義、それらを学び、悩んだ末に、人間らしいアンドロイドである自分が選んだ選択肢に殉じる話。

 そして、物語はチョコチップとティアーズがこの世から消え去って幕を閉じる。


「自我を持ったアンドロイドとバイオロイド、か」


 作中に登場したチョコチップとティアーズ、その2人がマーマレードとカーミラのモデルとなったのだろう。

 マーマレードと言う名前が持ち出された理由は分からないが、チョコチップと言う食べ物の名前に肖ったと言ったところだろう。


 カーミラの名は彼女の能力に由来するのだろう。その能力に必要な手法が吸血鬼染みていたからこそ、女吸血鬼の名前の定番であるカーミラがつけられた、と言ったところか。


「割と考えて造られていたんだな、あの2人も」


 まぁ、それでも、2人を制作するために巨万の富を注ぎ込んだトニー社長は大馬鹿だとしか言えなかったが。

 それにしても、とKOSMOSが溜息を吐く。表情が動かないので、深呼吸をしたようにしか見えなかったが。


「自我を持ったアンドロイドにバイオロイド……そして、AI、か。夢物語の代物だったが、現実になるのだからな。それも、自分自身がそのAIとなって」


 自我を持ったAIは存在しない。それが当然のことだ。

 だが、人間と会話する能力を持ったAIはいくらでもいるし、日本の有していた特級AIあまてるも人間との会話が可能だった。

 まるで人格を有するかのごとく滑らかに喋り、莫大な演算能力を背景とした自然なアバターの動作は人間と見分けがつかないと言われるほど。


 それほどの能力を持ったAIは自我を持っていないと、本当に言えるのだろうか。

 そもそも、自我とは何なのか。自我の有無、その境界とは。自我の定義とは。

 哲学や有機AI学にまで踏み込むだろう内容のそれは、KOSMOSが未だ考えたことのない領域だ。


 自我を持ったAIである自分は、AIが余りにも高度に過ぎる演算能力が故に、自我を持っているかのごとく錯覚しているだけなのではないか。

 この、自身はかつて人間だったという認識も、自身すらも騙すほどに高度なプログラムを組んでしまったAIが陥った一種の錯乱状態なのではないか。

 そんな不安がいくらでも湧き上がってくる。


「分からない。どうしたらいい、KOSMOSと言うAIは」


 深刻なまでの沈鬱さを含んだ声音になるだろう声は、無味乾燥な音の連続としか言えない声音となって放たれる。

 どうあっても感情を表現する事の出来ない不自由な己にKOSMOSが内心で歯噛みする。


「私は、自分の能力すらも御しきれていない」


 KOSMOSの使用している筐体には感情表現機能がある。表情も動かせるし、声音にだって様々なイントネーションをつけられる。

 それが出来ないのは、KOSMOSのプログラムこそが感情表現を抑制している事に他ならない。

 それは、自分を構成するプログラムをKOSMOSが御せていないことの証明でもある。

 あるいは、自分の存在そのものの根底に感情表現機能の排除が規定されているのかもしれないが。


「こんな不完全な存在がAIなどと、口が裂けても言えはしないな」


 そう吐き捨てたが、一瞬の思案の後にKOSMOSが前言を翻す。


「だが、不完全や完全と言うのは、結局のところ人間の観点でしかない。自分を御しきれない不完全さこそが、AIにとっての完全さなのかもしれない」


 人間が神と言う空想の存在に完全無欠さを見るように。

 AIが自分たちの創造者である人間に対して完全無欠さを見てもおかしくはなかった。

 ならば、不完全な自分は、AIにとっては完全無欠な存在に至ったAIと言えるのかもしれない。


「幾ら考えても分かるところではないな。それに、うだうだと悩むのは私の趣味じゃない。結局、自分が何者なのか、なんてくだらない自己問答は言語化し難い概念だし、言語化する必要とてない」


 自分は自分でしかない。それ以上でもそれ以下でもなく。自分は自分にしかなれないし、自分は自分になる事が出来る。

 言葉遊びのような言い方だが、それこそが言語化が困難な概念だという事を示している。

 誤解を恐れず分かりやすく言えば、自分が自分だと信じられる柱、例えば信念と言えるものがあり、それを自分が狂信ともいえるほどに信じられるのならば、自分自身が何者なのかを言葉に表す意味など無い、と言ったところだ。


「全く、くだらない事を考えてしまったな」


 さて、今度はどうして時間を潰すか、とKOSMOSが考えたところで、外部を監視していた装置が異常を返した。


「これは艦影か。やたら大きいな。300メートル級の船が4隻もあるぞ」


 空母だろうか。だとすれば、相当な脅威度の敵だろうとKOSMOSが思案する。


「コード997発令。総員第2種戦闘配備」


 第1種にまでする必要はなかろうが、さほど変わらないかと思いつつも、KOSMOSが第2種戦闘配備を命令する。

 コード1189によって戦闘が予測されるために警戒態勢を取っていた状態から、戦闘準備態勢へと移される。

 第2種戦闘配備の際には既に攻撃が実行される段階のブリーフィングが行われており、第1種にまで移行すれば即座に戦闘行動が可能だ。

 第2種の現状では、即座に戦闘は不可能だが、優秀なネスト人員の手にかかれば、第2種戦闘配備から第1種戦闘配備に移行するまで3分とかからない。


 これでレーダーの誤作動で、クジラとかを300メートル級の艦船と誤認してたらお寒い話だな、と思いつつもKOSMOSは戦闘準備を行う。

 とりあえず、メガフロートでの決戦なんて考えたくもないので、王女王に命じて艦隊を率いての出撃を行わせる。


 <Incoming Call>

 <着信あり>

 <king and queen.>

 <王女王様よりお電話です>


 直後にKOSMOSが適当に作った、人間の脳チップと同じインターフェースが電話着信を訴えた。

 それにKOSMOSが応答する。


『KOSMOSか?』


 KOSMOSの視界につい先ほど出会った王女王の姿が投影される。

 ちなみにKOSMOS以外には見えていないが、この形式の電話が普及して何百年と経つので、中空に話してる人物が居ても変人扱いされたりはしない。


「誰に電話を掛けたつもりなのですかあなたは」


 現代の電話は脳チップ経由の回線だ。KOSMOSは脳チップ経由でネットに接続しているわけではないので常人とは少々違うのだが……。

 それでもネットを利用した電話を用いており、KOSMOSを構成する有機チップの塊が受信しているのだからKOSMOS以外に繋がるわけがない。

 通信に割り込めばKOSMOS以外に繋がる事もあるかもしれないが、KOSMOSにそんな真似を出来るのは同じ特級AIだけだ。


『うむ、ちょっとしたおちゃめだ。許せ。さておき、余は一体どの艦を率いて出撃すればよいのだ? ネストの艦は殆どモスボールされていて動かせんだろう?』


「――――」


 NPCの維持には金がかかる。なら、兵器の維持にだって金がかかって当然だ。

 兵器もこれと同じで、月末になると維持コストとしてコープの資産から差っ引かれる。

 それを回避するために、NPCにコールドスリープと言う凍結措置があり、兵器にはモスボールと言う保管措置がある。


 そしてモスボールは施すのに1か月かかり、解除するのに1か月かかる。リアルのモスボール処理よりもずいぶん早いが、ゲームにしてはかなり遅いと言ってもいいだろう。

 ここまでリアル再現しなくていいよ、と微妙に不満が出ていたりする。

 なぜゲームで周囲との緊張度を考えて軍縮をしたり軍拡をしなくてはならないのかと。まぁ、戦略ゲーム好きには好評だったらしいが。


 そして、戦略ゲームで言えば少し前までネストが陥っていた状況は最終盤で、敵を殆ど制圧した状態だ。

 もはや敵が攻めてくる事も無ければ、負ける事も無い。そんな状況に陥れば、ほとんどの戦闘力を放棄しても問題がない。


 それと同じで、ネストの兵器のほとんどはモスボール処理が施されて居る。どれくらいかと言うと、まともな艦隊も組めないレベルに。


『とゆーか、余は今のところどれくらいの艦が残ってるか知らんぞ。余に残っている艦を教えるのだ。余が艦隊を考えてやるからな』


 その王女王の言葉にKOSMOSは覚悟を決めると、モスボール処理が施されておらず、即応体制を維持している艦の名を教える。


「大和型戦艦3隻、金剛型戦艦4隻、扶桑型戦艦4隻、加賀型戦艦2隻、天城型戦艦2隻、アイオワ級戦艦6隻、モンタナ級戦艦4隻、ヴァシレフス・コンスタンチノス級戦艦1隻――――以上」


『ちょっと待てぇい! 戦艦しかないぞ!?』


「戦艦しかありません」


 空母もなければ駆逐艦も無い。現代海戦を舐めてるのかと言いたくなるかのような陣容だ。

 なんでこんな有様なのかと言えば、現代海戦では海に浮く的に等しい戦艦は維持コストが安いから。

 モスボールしなくても別にいいや、と言う程度の船が残されている。


 つまり、それ以外の船は全部モスボールされている。

 何を考えてそんな真似をしたのか、過去の自分にAIとしての処理能力を用いてあらん限りの罵倒を発したいKOSMOSだった。


『い、一応聞くが、現代改修はされておるだろうな? 無論、イージスシステムとか……。い、いや、この際そこまで贅沢は言わん。ミズーリにはミサイルとかあるよな?』


「――――されていません。全て、大艦巨砲時代の装備およびコンセプトのままです」


『戦えるかそんなの!』


 つまり、今、ネストには、現代海戦を舐め腐っている装備と艦しかないのである。


『余にどうしろと言うのだ! もしかしてあれか? 余に死んで欲しいのか?』


「違います」


『ではどうしろと言うのだ。そう言っているとしか思えんぞ?』


 そこで、KOSMOSの脳裏に電流が奔る。


「大和RMSを出します」


『あーる、えむ、えす? えーと……そんな艦、うちにあったか? 何しろうちに大和と言う船は20隻以上あるから覚えて居なくてな……』


「ありません。ネストの艦船名簿には登録されていません」


『ではどこにあるのだ?』


「私の私有物です」


 本来、船と言うものは高すぎる維持コストと、面倒過ぎる整備のために、企業の備品として扱われるのが常だ。

 だが、私有物として所有する事が無理なわけではない。

 KOSMOSの場合、ネストに対して費用を支払う事で、企業の備品としてではなく、自分が自由に動かせる艦を幾つか持っていた。


『ふむ、そなたの私有物か。で、どういった船だ?』


「イージスシステムの改良発展形を搭載した超大和型と言ったところです。船には私も同乗します、4番港で待機していてください。船を回航します」


『あいわかった。そなたの船だ、そなたが乗るのが道理であろうな。では、4番ポートで待っている。早く来るのだぞ』


 それで通信が切れると、KOSMOSの筐体がその場に直立して動作を停止する。


 そして、その時にはもう、4番ポートに最も近い個所に設置されていたKOSMOSの筐体が動き出していた。


「複数の筐体を持っていれば、事実上のワープが出来る。便利なものです」


 操作する筐体を切り替えただけの話ではあるが、本人の感覚としてはワープに等しい。

 そんな便利な事をして移動――正確には最初からそこにいたのだが――したKOSMOSは、自身の筐体を設置していたプレハブの小屋から飛び出す。


 すると、そこにはもう4番ポートがある。

 KOSMOSの筐体が置かれていた小屋は、4番ポート周辺の人員が待機所として使用できるように設置されていた小屋なのだ。


 そして、マップをKOSMOSが展開すると、王女王を示すマップマーカーが高速でこちらへと向かっている途中だった。

 数秒後には視界に入るだろうとそちらへとKOSMOSが目線を向けると、そちらからいわゆるジープと言うタイプの車が爆走してくるところだった。


 そのジープはKOSMOSの眼前で動きを停止し、扉を開ける時間も惜しいと言わんばかりに、王女王が外へと飛び出す。


「待たせたな、KOSMOS。それで、そなたの船はどこにあるのだ?」


「そこです」


 KOSMOSが指差した先。そこには確かに戦艦があった。

 まるで島の如き威容を誇る巨大な戦艦。それこそがKOSMOSの私有物として存在する大和RMSだった。


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