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あああ

 マーマレードが立ち去っていくのを見送った後、新たにNPCを訪ねるために足を進める。

 次に訪れたのは、医務室だった。ゲームシステムでは、ここに来れば無料で治療が受けられる施設であり、KOSMOSには無縁の場所だ。

 乙型AIはアンドロイドの筐体を使用するので、医務室ではなく整備室を利用するのが常だからだ。


 であるため、その医務室にいるNPCと出会うのはこれが始めてと言ってもいい状況だ。

 一応、作成直後や、動作プログラムの修正後に何度か見てはいるのだが、回数が少ないこともあって、その部屋に居るNPCの記憶はあいまいだった。


 そして、訪れた医務室のデスクで、そのNPCは1人で酒盛りをしていた。

 見たところ、10歳ほどの少年が瓶ビールを飲み干しては、次の瓶ビールを空けるという行為の繰り返し。


「おや、KOSMOSですか。医務室に何か用事ですか?」


 デスクにビール瓶の蓋を引っかけると、しゅぽんっと音を立てて瓶の蓋が開かれる。

 ずいぶんと手馴れている様子は、何か嫌な事があってたまたま酒を痛飲していると言った感じではなかった。


「シュテファン・ノインウントドライスィヒ

。質問1を呈します」


「なんですかいきなりですね。まぁいいですけど」


「質問1を呈します。現在ネストは所在地不明の海洋に存在しています。意見を」


 先ほどマーマレードに呈したものと全く同じ質問をKOSMOSがシュテファンと呼ばれた少年へと問いかける。

 シュテファンは少し首を傾げてその亜麻色の髪を揺らすと、1口ビールを呷ってから答えた。


「知りません。どうにかなるでしょう」


 そんなことに興味はない、と言わんばかりにシュテファンはもう1口ビールを呷る。


「そもそも司令官、私はあなたの命令なら二束三文のクソ駄賃で命を懸けられる程度には信頼してるんです。だから命令1つ寄越せばそれでいい」


 マーマレードの時と同じだとKOSMOSは瞠目する。

 この、異様に篤い信頼がKOSMOSにとっては負担だった。それでもネストの代表である限りは応えねばならない。


「質問2を呈します。ネスト統括特級乙型AI、KOSMOSに対する所見を述べよ」


 そして、もう分かり切ったようなものだが、一応、自分への所見を聞く。


「あなたへの所見、ですか? 信頼してますよ。このご時世、電脳においてはサポートがなければまともな戦闘も到底不可能。サポートと言う観点ではAIに勝る者はありませんよ」


 それは当然と言えば当然の話だった。

 高度な情報化社会に至って、戦いとはまず何をおいてでも電脳戦が肝要となった。

 電脳を握られれば全てが瓦解する。それ故に高度な電脳戦において、強力なAIはもはや必須の存在であった。


 自身らの有する仮想構造体の防衛のためにAIの有する把握能力と、防衛用ウィルスやワームを動かす処理能力が必要だ。

 そして、攻撃の際には相手仮想構造体の構造把握、セキュリティホールの発見、ナビゲート、その他諸々にもAIは強力な力を発揮する。


 ネストが相手取るのは自身らと同等の国家レベルの戦闘力を有する相手。あるいは、極僅かな人員で強力な敵と戦う事を想定する。

 それ故に、強力なAIのサポートはもはや必須の存在だ。

 本来ならば特定の個人や団体に肩入れする事のないはずの存在も、特定目的に製造されたAIや自意識を持つAIならば話は別だった。

 そして、そのサポートを担うAI。それこそが自意識を持つKOSMOSなのだ。


 非常時においては、ネストの全機能を統括しているKOSMOSがそれを放棄し、サポートに全力を注力するためにネストにはKOSMOS以外のAIが多数存在している。


 それほどに、AIと言う存在は必須とされている。


 だからこそ、シュテファンは特級乙型AIのKOSMOSを深く信頼していた。

 言ってみれば、それは自分の命を預ける相棒に対する信頼であり、また自身が命を預ける兵器への信頼にも似る。


 KOSMOSは納得した。同時に半ば絶望的な気持ちになった。

 きっとマーマレードの信頼もシュテファンの信頼と同じ種類のものなのだろう。ならば、自分がAIとしての能力でサポートできれば問題ない。

 しかし、自分にAIとしての能力でちゃんとサポート出来るかどうか定かではないという不安があった。


「……なんで小刻みに震えてるんですか?」


「筐体に異常が発生しているようです」


 異常など発生していないが、そう言う事にしてKOSMOSは誤魔化した。

 不安が筐体の有するモーターの異常振動を招いたらしい。


 とりあえず、シュテファンの信頼の所以は分かった。

 ならば、他のNPCを尋ねに行くべきだろうとそう考えたところで医務室の扉が勢いよく開かれた。


「先生、治療お願いしますー」


 そう言って入って来たのは、グレーのツナギを身に着けた男だった。

 KOSMOSが視認した瞬間に既にデータの検索は終わっており、その男がシゲハル・ナカムラ一等兵だという事がすぐにわかった。兵科は造兵、要するに作業員だ。


 そのシゲハルの手は小汚い手拭いで抑えられており、血がじんわりと染み出していた。怪我をしているらしい。


「ほう、怪我ですか。見せてごらんなさい」


 一応、医務室の室長であるシュテファンがシゲハルを椅子に座らせて、その手拭を取る。

 すると、その下にはざっくりと切れた切り傷があった。


「結構深くいってますね。鋼材でやりましたか」


「ええ、まぁ」


「間抜けですね。こんなんだから下っ端なんですよ」


「んなこと言ってないで、手当てしてくださいよ先生……」


「はいはい、これくらいでしたらナノを使いましょう」


「いや、ガーゼ張ってくれりゃいいです」


 どう考えてもナノマシンまで使う事はないとシゲハルが首を振る。

 その言葉にシュテファンがなるほどと頷き、ならばと口を開く。


「じゃあ、ナノを使いましょう」


 先ほどと言っている事が変わらない。

 納得したように頷いたのは一体何だったのか。


「だから、ガーゼ張ってくれりゃいいです。いや、もうこの際絆創膏だけでもいいです」


「では、ナノを使いましょう」


「…………もー好きにしてください」


 何が何でもナノマシンを使いたいらしいシュテファンにシゲハルはされるがままだ。

 そして、今まで黙っていたKOSMOSが口を開く。


「シュテファン・ノインウントドライスィヒの給与査定を-2」


 冷徹に給与を下げる事だけを宣言した。


「え!? なぜですか! 私はこんなにもまじめに仕事をしているのに!」


「とりあえずでナノを投与する事は真面目とは言えません」


 ナノマシン技術は現実世界では未だ実用化されていない。正確に言うと研究室レベルでしか実用化されていない。

 universe onlineでは既に実用化されている設定らしいが、それでも危険性の多い物であることに変わりはないとされている。迂闊に使うとグレイ・グーが起きるとか。

 実際に、数千個の世界がグレイ・グーで使用不能になったりもしていた。


 そこから分かる通り、ナノマシン技術は最先端の技術であり、同時に未だ未知数かつ危険性の多いものだ。

 それを平然と使う医者はマッドサイエンティストと言ってもいい。


「我がネストの有するナノマシンは最高の技術を結集して造られている品ですよ。それを使う事が間違っているのですか?」


「ガーゼが30㎝×10mで20COMMで、傷病治療用のCMN-4-Cは1回の治療で270COMMが必要な代物です」


「ほう、中々お高いコストですね」


 中々どころではない。COMMとはCOMmon Moneyの略称で、1COMMで凡そ1米ドル相当の価値があるという設定になっている。

 つまり、ただの切り傷の治療が270米ドルかかる事になる。中々、ではなく、めちゃくちゃ、である。


「あなたは凡そ250COMMの無用な出費を招いています。これは給与査定に深くかかわります」


「む……なるほど、分かりました。では、こうしましょう」


 シュテファンがシゲハルに向き直ると、こう言った。


「お前にしてやる治療なんかない。帰れ」


 その方向性は間違っているとシュテファン以外の誰もが思った。


「シュテファン・ノインウントドライスィヒ、給与査定-4」


「なぜ!?」


「職務を果たしなさい」


「では、ナノを使いましょう」


「ガーゼを使って治療をしなさい」


「面倒くさいですねぇ……」


 なんでもいいから早く治療してくれ、とは言えないシゲハルだった。


「そもそも、私はただの兵士であって医者ではないのですが……まぁ、給料のためですし、やりますか……」


 仕方ない、と言わんばかりにシュテファンが立ち上がると、ビール瓶片手に棚を漁り始める。

 そしてガーゼを見つけ出すと、乱雑に鋏で切って、それを男の手に巻き付けて、セロテープで固定して終了。


「はい、終わり。帰れ」


「シュテファン・ノインウン」


「おっと、まだやるべき治療が残っていましたね。いや、失敬失敬」


 また給料を下げられる前にシュテファンが真面目に治療を始める。


「では、私はこれで。それと、ネスト内部で起きている事態は全て把握しています」


「ぐ……」


 これではKOSMOSが去った後にテキトーに仕事が出来ないではないか……とシュテファンが歯噛みする。

 そもそも仕事をちゃんとするから給与が貰えるのだから、仕事くらい真面目にこなすべきである。




 さて、そうして医務室を出たKOSMOSは、次なるNPCの元へと向かうべく位置検索をかけるのだが、直後にすぐ近くにまでNPCが来ている事に気付いた。

 シュテファンのものとは異なるマップマーカーは時速3.8キロほどの速度で移動しており、医務室への道筋を一直線に進んでいる。


 その方向へとKOSMOSが視線を向けると、そこには銀髪の男なんだか女なんだかよくわからない格好と相貌をした人物が居た。


「む、KOSMOSではないか。医務室の前で何をしているのだ?」


 声は中庸。男とも女ともいえない。

 その相貌は20代間際と言ったところで、透明感のある美貌を惜しげもなく晒していた。


「王女王ですか」


「うむ、その通りだ。しかして、その名は世を忍ぶ仮の名、余の名は……でれでれでれでれでれでれ」


 なにやら口で効果音を発し始めた王女王と呼ばれた人物。

 KOSMOSはそれを気にした風もない。


「王女王に質問1を呈します」


「最後まで聞けぇ!」


 キレた。


「まったく、余の名を聞くつもりがないとは嘆かわしい。まぁいいがな、名前とかどうでもいい」


 じゃあなんで自己紹介しようとしたんだよ、とKOSMOSは言いかけたが黙った。彼は空気の読める大人なのだ。


「さて、医務室……いや、保健室と言えばお医者さんごっこだな。さあKOSMOS、余とお医者さんごっこをしようではないか! そなたがお医者さんか! それとも余がお医者さんか! 好きな方を選べ!」


「私が医師で監察医ならば」


 監察医とは司法解剖を主とする医師の事である。


「余を解剖する気満々!?」


 監察医を知っていたのか王女王がショックを受けたように叫ぶ。

 だが、直後に表情を戻すとKOSMOSににじり寄って甘くささやいた。


「まぁ、余の内臓も至高の美しさであるが故に余の内臓を見たいと思うのも仕方無い事であろうな。であれば、余の珠のお肌に傷をつけぬのであれば腹を掻っ捌いても許す」


 凄まじい理屈を展開し始める王女王にKOSMOSは眩暈を覚えた。

 いや、眩暈を覚えたかった。AIの身では眩暈を起こすことも出来ないし、泣きながら逃げ出すという真似も出来ないのである。


「ところで、男の内臓と女の内臓、どっちが好きだ? そなたの好きな方になってやろう」


「男の傷は勲章だそうです。では、男で」


「傷を残す気満々なのでそれはノーセンキューだ。SMプレイの一環か? 余は愛のあるSMプレイがしたいぞ!」


 この色ボケ馬鹿はどうにもならんとKOSMOSは理解した。

 たぶん、質問しても無駄なのだろうな……そう思いつつも、王女王の理屈を全て無視しつつ、KOSMOSが疑問を投げかける。


「質問1を呈します。現在ネストは所在地不明の海洋に存在しています。意見を」


「ふむ。状況は分からぬ。だが、害意ある何者かの攻撃と言う可能性は今のところ薄かろう。害意ある何者かの仕業ならば、既に何かしら事態が動いているはずであろう?」


 今まで質問した面々の中で、もっとも真っ当な意見が出てきた。

 色ボケに負ける他の連中って……と嘆きたくもなるが、KOSMOSはそれを抑えて続きを促す。


「続きを」


「うむ。余がネストに対し攻撃を仕掛け、その一環としてこうしたのならば、転移の直後に余は何らかの攻撃をけしかけるであろう。総力戦の必要はない。言ってみれば漸減作戦と言ったところか。ネストの混乱を突いて無暗な兵站の消耗を誘発するわけだ。まぁ、KOSMOSがそんな稚拙な用兵をするわけもないが、狙う価値はあろう。現代戦は潤沢な兵站によって支えられているのだからな」


 つらつらとまともな事を続ける王女王。

 何とはなしに王女王の人物データを閲覧してみれば、艦隊戦においては屈指の戦術眼を持つ稀代の名将、かつ王女で王子とあった。

 あと、全く無関係だがスリーサイズは上から順に87、53、82らしい。誰が書いたのかと思えば、最終更新者は王女王だった。自分で書きくわえたらしい。


「まぁ、相手がその程度の戦略も行えぬ無知蒙昧な輩である可能性も無いではないが……そもそも、情報が少なすぎるでな。いくら余が超絶的に眉目秀麗かつ秀外恵中な美少年かつ美少女でも超能力者ではないのでな」


「そうですか」


 それでも、王女王の見解は十二分にためになった。

 中々優秀なブレインを見つけたかもしれないと内心でKOSMOSがほくそ笑む。


「うむ、ところで、そろそろ余と良い事せんか? シュテファンと色々とイタそうと思ってきたのだが、KOSMOSが居るのならばたまにはKOSMOSとえろえろな事がしたいぞ!」


「質問2を呈します。ネスト統括特級乙型AI、KOSMOSに対する所見を述べよ」


 王女王の言葉をまた無視してKOSMOSが更に質問を投げかける。


「うん? そなたをどう思っているかか? 大好きに決まっておろう。余は世界中の美少年美少女からイケメンも美女も大好きだからな。余は面食いなのだ。まぁ、精神的イケメンと言う奴も嫌いではないがな!」


「私の容貌は筐体を用いたものです」


「例えそなたの容貌が醜男でもそなたは精神的イケメンだと余が知っておる。我らがネストの取締役にして、優しき益荒男であるとな」


 ふふん、と王女王が自慢げに言う。自分は何でもお見通しだと言わんばかりに。


「そうですか」


 自分に向けられる好意。相手が見境無しな人物でも、どうともしようがないほどにこそばゆい。

 元々、侮蔑されることはあっても称賛されるような事はなかっただけに、KOSMOSの困惑は強かった。


「しかし、セクサロイド機能を持った筐体で余の部屋に来てくれれば、今でも大好きだがもっと大好きになるぞ」


「いきません」


 そもそもuniverse onlineは全年齢対象ゲームだ。セクサロイド機能を持った筐体なんかあるわけがない。


「さて、艦隊戦が起きる場合、あなたが出る事もあるでしょう。それに向けて英気を養っておいてください」


「うむ。で、英気を養うために余といいことせぬか?」


「しません」


「仕方あるまい。では、シュテファンを誘うとしよう」


 ウキウキ気分で王女王が医務室の扉を開き、直後に医務室から銃撃音が鳴り響いた。

 KOSMOSは何も聞こえなかったフリをした。

 たとえ、ネスト全域に張り巡らされた自分の感覚網が王女王に決死の攻撃を仕掛けるシュテファンの姿を映していても。




 ネストの通路を往くKOSMOSの足取りは重い。

 現状、ネストにおいて稼働……と言うよりは、目覚めているNPC……いや、人物たちとは既に全員対面を終えた。


 ネストに所属する人員が造り出したNPCの数は膨大だ。

 だが、NPCたちが稼働し続ける限り、コストがかかる。

 低迷していくuniverse onlineにおいて、企業戦争など全く起きる事はなく、NPCたちを稼働し続ける意味すら全くなかった。

 であるがために、必要最低限のNPCを残し、他全てのNPCは凍結、要はコールドスリープ処置が施されている。


 それは現在も同じままで、コールドスリープしていない人員たちは僅か6名のみだった。

 カーミラとマーマレードはシルエットトレーサーの操縦と、生身での白兵戦闘を可能とする人員。

 仮面野郎とガノタと言う名のNPCたちはマントレーサーマシンの操縦者。

 戦闘班として、エレメント(2機編成)を組むのは必須であるため、それぞれ2人ずつ残してある。

 王女王もまた戦闘班として残されているが、こちらは艦隊戦闘を行うために残されているので1人で問題ない。


 シュテファンは医療技術を有しているため、NPCではない労働者たちが必要とする医務室の効率を上げるために仕方なく。

 そう言った理由で凍結を免れていた人員だ。


 コールドスリープしている人員たちを目覚めさせてもいいが、コールドスリープの後遺症から回復するまでには1か月がかかる。

 その1か月の間はリハビリテーションが必須であり、会話すらままならないのでは意味がない。

 ゲーム中において必要な時にだけ稼働させてコストを消費しない、と言う裏技を使わせないための措置だったが、現実となった今では後遺症と言う扱いらしい。


「信頼が重い」


 ぽつりとKOSMOSが呟く。

 何よりも重荷となっているのは信頼の目だ。

 戦場において戦友に向けるような、その信頼の目。コープメンバーたちの、所詮お遊びだから、と言う雰囲気の中では決して生まれなかった感情。

 基本的に1人狼と言う名のボッチだったKOSMOSにはいまいち理解できない感覚だった。


「それでも、やらなければならないな。私が、このネストの代表取締役である限りは」


 誰からも必要とされたこの世界で、KOSMOSは誰よりもネストを必要としていた。

 自分が自分であり続けるためには、このネストと言う組織において代表取締役を続けるほかに道は無いのだ。

 それは重荷である。だが、同時に、KOSMOSは今までに無く満ち足りても居た。


「これが、責任ある立場、と言うものか。確かに重荷だ。だが、悪くはない。必要とされ続けるその感覚は」


 現実世界のKOSMOSは、代用の効く歯車でしかなかった。

 重用される歯車ではあった。だが、それでも代用は効く。その程度の存在でしかなかった。

 だが、今現在のKOSMOSは、このネストの中心だった。決して抜けてはならない、代用の利かない歯車。

 代用の利かない歯車は摩耗し、大きな負担を強いるだろう。だが、その責任感が生み出す必要とされる感覚、自身が肯定されるという感覚は、何にも代えがたい感覚だった。


「悪くない。悪くないな。だから、このネストと言う巣を、私は守り続けるだろう。全ての鴉達が帰る場所を」


 KOSMOSもまた、巣を必要とする鴉の1人なのだ。

 自由な鳥に見えながらも、止まり木を見つけない限りは決して羽を休める事が許されない鴉。

 傷付き疲れた時、優しく迎えてくれる巣を守りたいと、そう思う。


「努力しなければ。かつてと違って、もっと別の戦いをしなくてはならないのだから」

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