ああ
メガフロート・ネストは巨大だ。
もはやメガフロートではなく、ギガフロートだと呼称する者も居たほど。
最盛期においては住人だけで28万、それら以外の滞在者を含め平均値にして50万人を収容し、その平均値の3倍の容量を収容可能なほどに拡張され続けた。
ただし、ネストと言う企業そのものの有する敷地はさほど大きくはない。
メガフロート・ネストにはアライアンスを組んだ企業も参入しており、それら企業の大半が物品の販売を主幹とした企業だ。
そう言った企業の工場などが多数あるために、メガフロート・ネストは巨大なのだ。
データ上の扱いを見るに、アライアンスを組んだ企業の所有物はKOSMOSが管理権を預かっている事になっている。
要は、メガフロート・ネストに存在する全ての企業の設備がKOSMOSの私有物となっている。
universe onlineの世界に株式会社など無いのだ。全て有限会社だ。
ちなみに有限責任社員はKOSMOSだけなので他の連中は社員権がなく平社員である。ずいぶんと悲惨な会社だ。たぶん社の未来は無い。
そんな余談はさておいて、ネストの設備である部分は少ないために、その内部に詰めているネスト所属のキャラクターとの邂逅はさほど難しくはなかった。
KOSMOS以外のプレイヤーキャラクターはいないが、ネストと言うコープが有するNPCは存在する。
そして、それらNPCたちは自己判断能力を有すると判断されている。
そこからすれば、そのNPCたちは人間に準じた存在……と考えて相違ないだろう。
だからこそ、KOSMOSは相談がしたかった。この状況に際して、そのNPCたちと会話をしたかった。
もしかもすれば、何か分かっているかもしれない者がいるかもしれない、そう思ったから。
そして、訪れたのは第1総合シミュレータールームだった。
真っ先にそこを訪れた理由は単純で、そこにNPCが2人居たからだ。
ネスト内部の監視装置の全てはKOSMOSの目であり耳であるために、どこに誰かが居るかを把握する事はさほど難しくはなかった。
そのシミュレータールームは多種多様な機械群が設置されている。
15~50メートル級の戦闘機械、マントレーサーマシンのシミュレーターが20基。
艦隊戦闘などのシミュレーター演習が出来る筐体が20対40基。
いわゆる強化外骨格である、シルエットトレーサーのシミュレーターが30基。
戦闘機などのシミュレーターが20基……。
そのほかにも、戦車や自動車、果ては専用の電脳空間を使用する射撃練習シミュレーターなどまでもある。
節操がないほどにあれこれと置いてあるのはアクセスがたやすい地点にこのシミュレータールームが置かれているため。
シルエットトレーサー専用のシミュレータールームなども他の場所にはあるが、たいてい誰もがここを使用していた。
そして、艦隊演習用のシミュレーターで、2人の男が鎬を削っていた。
お互いが何か叫びながら戦っている様は、まるで本物の戦闘のようだ。
「仮面野郎! こんなものを落とせば地球が寒くなって人が住めなくなる! 核の冬が来るぞ! だがお前が死ねばそれでいい!」
「なんてことをしてくれる! 人が人に罰を与えようなど傲慢だとは思わんのか! もういい! 貴様とは分かり合えんと思っていた! 核兵器乱れうちを喰らえ!」
「貴様ぁ! 次元兵器満載の神風級駆逐艦で大和にダイレクトアタック! 駆逐艦を生贄に貴様の戦艦を水底に送る! ターンエンドだ!」
「やってくれたな! パルマ諸島で核爆弾を起爆! ガノタ! こんな事を起こせば津波で多くの大地は水に沈むだろう! だがお前の艦隊さえ消えれば何億人死のうが知った事ではない!」
なんだかとんでもない余波を撒き散らす演習をしているようである。
と言うかやらかしている事を考える限り、この2人の私闘の巻き添えで数千万人以上が死んでいるに違いあるまい。
それに少しだけ興味を惹かれたKOSMOSが内部回線経由で2人のシミュレーションを覗き見る。
ネストの全機能を統括する、いわゆるアドミニストレータであるKOSMOSならば、その程度の横紙破りは容易かった。
「これはひどい」
こっそりとハッキングしてシミュレーションの状況をKOSMOSが覗き見ると、万どころか陸地の90%が津波に飲み込まれて消えていた。死者数は50億を超えている。
挙句の果てに、海流に多大な影響が出たために異常気象が発生し、将来的に想像を絶する寒波が訪れるだろうという計算結果も出ていた。
乱れ撃ちされた核兵器のせいで核の冬も来るだろうし、世界滅亡まっしぐらであった。
「こんなキジルシに相談していいのか」
いや、だめだろ。誰とも知れぬ声が脳裏に響いた気がしてKOSMOSはその場を立ち去った。
世界を滅ぼしながら相手を滅ぼそうとする2人の戦いを見なかったフリをして。
「この焼きそばパンを作ったのは誰だぁ!」
「文句を言うなら食べなくていい」
「ごめん。それでも文句くらい言いたくなるのよ畜生……」
食堂では2人の少女が言い争いをしている。
オレンジ色の髪に鮮やかなブルーの瞳の少女、そしてコバルトブルーの髪に薄い金色の瞳をした少女だ。
自然界には到底ありえない、原色に近い髪と瞳をしている2人の少女は、その見た目通りに人間ではない。
オレンジ色の髪の少女、カーミラはバイオロイドである。人間のような見た目をしているのも外側だけに過ぎず、内部のそれは全く人間などではない。
そもそも、バイオロイドはいわゆる生物兵器であって、人間の見た目をしているカーミラこそ希少な方だった。
そしてもう一方の、コバルトブルーの髪を持つ少女、マーマレードはアンドロイドである。
見た目上は人間だが、叩いてみれば金属音がする事だろう。
そして、やはりだが彼女が人間の見た目をしているのも、彼女の方が希少なだけであった。
その2人が食堂で何をしているかと言えば、食堂であるからして食事を取っていた。
ただ、その食事はお世辞にも上等なものである、とは到底言えなかった。
「フードディスペンサーとフードマシンの食料品か」
液状の食品類を提供する機器と、固形物の食品類を提供する機器。
NPCたちの必要とする食品類を提供するための道具であり、アクティヴなNPCの数に応じて設置する必要がある。
ネストに設置されているものは最上級品で故障の可能性がなく、NPCの能力が低下する食中毒などが起こる確率がゼロだ。
しかし、フレーバーテキストにはこうある『安全は保障されるが味は保障されない』と。
どうやらフレーバーテキスト通り、全く味が保障されていない代物であるらしい。
そんな味の保証されないくそったれ機械で用意したパンと焼きそばでマーマレードは焼きそばパンを作ったらしいが、カーミラのリアクションを見る限り、相当不味かったようだ。
「あ、KOSMOS」
「うん? あら、ほんとにKOSMOSじゃない。おひさー」
ぴらぴらと気の知れた友人のような態度でカーミラが手を振る。
その2人を前にKOSMOSは内心で衝撃を受けていた。
先ほどの通信でも衝撃は受けていた。だが、こうして直接だれかと顔を合わせれば、さらに衝撃を受けるものがあった。
完全に人間である、と。
universe onlineは第6世代型の電脳チップが開発される以前に造られたオンラインゲームだ。
であるが故に、第6世代型の高度なクオリア認知能力を以てすれば、どれだけ高度な動作を組んでいようと、それがNPCである事を看破するのは容易い。
だが、第6世代型の電脳チップを有し、感情移入度類推訓練を積んだKOSMOSですらも、彼女たちは人間にしか見えなかった。
そも、今ここは現実世界と言う事になるのだろうから、彼女たちは人間(正確には違うが)であって当然……のはずなのではあるが。
「あ、そうだ、KOSMOS。あんた料理出来るわよね」
「はい。中華料理の習熟度が最も高いと判断する事が可能です」
なぜ知っているのだろうかとKOSMOSは疑問に思いつつもカーミラの質問に返答を返す。
「へぇー。じゃあさ、なんか作ってよ。」
「ほう、私の料理が食べたいと」
「うん。KOSMOS、料理上手なんでしょ」
「データにちゃんとあるわよ。KOSMOSが調理場をしょっちゅう使用してる事はね」
KOSMOSは貧乏性なので狩りで得たアイテムの売却額をわずかに上げるためだけにたびたび使っていたのだが、データに残るのは使用したという形跡のみだ。
度々調理場を使用していたのならば、料理がある程度できると考えられても仕方あるまい。実際に出来はするのだが。
「いいでしょう。私が料理を作ります」
ジャコッ、と拳銃に弾倉を収めながらKOSMOSが言う。
そして、量子転送された火炎放射器を背に負いながら、調理場へと向かう。
「ちょちょちょちょ、ちょっと待ちなさい! あんた何するつもり!?」
「料理」
「それで!?」
「ええ」
KOSMOSのジョークなのだろうか。だが彼は無表情で無感情なので全く分からない。
「い、いや、火炎放射器は使わない! 使わないから!」
「中華において大火力は必須です」
「大火力すぎる!」
KOSMOSが手にしてる火炎放射器はネストの正式採用装備だ。
支給品なのであまり強力なものではなく、2線級の装備と言ったところだが食材を一瞬で消し炭にする程度はたやすい。
と言うか、どう考えても火力の意味合いが違う。
「いいからそれ下ろしなさい! 料理に絶対それ要らないから!」
「邪魔をするのですか」
ガラス球のような眼でKOSMOSがカーミラを見やる。
気のせいか火炎放射器が自分に向けられているような気すらしてきていた。
「い、いや……えーと……」
「では、私は調理に移ります。調理場には入らないように。そう言えば火薬を使った方が瞬間火力は高くなるかもしれません」
凄まじい不安を感じさせる事を呟きながら、KOSMOSが調理場へと入っていく。
そして、カーミラはひきつった顔で逃げ出した。
「こんなところに居られないわ! 私、訓練しにいくから!」
「私も逃げ……」
<WARNING>
<警告>
<You brain was attacked>
<あなたの頭脳は攻撃を受けています>
それが逃げ出そうとしたマーマレードの眼前に突如として現れた文章だった。
それは網膜に直接投影された文字であり、電脳戦闘が可能な人物にとって、致命的な事態を現すものだった。
「マインドハック! 一体誰が!」
自身の脳チップに対するクラッキング。それに対する警告文を受け、マーマレードが即座に自身の電脳に対しカウンタークラックを仕掛ける。
本来、脳チップに対する攻撃、マインドハックを受けた場合、すべきことは自身の脳の防衛だ。
脳を完全にクラックされれば、人格を改変する事も、強制的に脳死にする事もたやすい。
それ故に、何をおいてでも防衛すべきだが、マーマレードはその手段を取らなかった。
理由は自身の脳チップが有する強固な防壁を信頼していたがため。
彼女の脳チップが有する防壁はネストの支給品と、自ら創り上げた防壁の2種類がある。
自身の作った物は凡百のそれとさほど変わらないが、ネストの支給品は特級AIのKOSMOSが――本人には作った記憶など無いが――創り上げた代物だ。
その双方をやすやすと突破できる相手などいないと、そう判断しての行動だった。
だが、即座に防壁が突破され、カウンタークラックを始める暇もなしに自身の関節機構が全てロックされた。
「くっ、防衛!」
マインドハックをされた場合、それは自身の脳髄が完璧に握られるのにも等しい。
よほど高度な電脳技術を持った者でなくては不可能な技術だが、仕掛けられれば対処が難しいのも確かだった。
そして、自身の脳チップの持つ領域にシフトしたマーマレードが見た物は、自身の脳の中枢機構をハックしているKOSMOSの姿だった。
「料理完成まで推定38分27秒です」
「…………」
もはや全てを悟ってマーマレードは自身の脳チップ領域からログアウトした。
KOSMOSは意地でもマーマレードに料理を食わせる気なのだ。
特級AIであるKOSMOSと、高性能とは言え脳髄サイズの演算機構しか持たないマーマレードでは勝ち目はゼロだ。
仮に戦ったところで戦車に自転車で挑みかかるくらい悲しい結末が待っている。
「カーミラは汚い」
自分だけ逃げ出してしまったカーミラを見送り、動くに動けないマーマレードが取り残される。
マインドハックされたマーマレードは身体の動作機構をロックされてしまっているので動けないのだ。
口だけは動くのだが、口だけ動いてどうやって逃げろと言うのか。倒れ込んで口で無理やり体を動かすにしても、倒れ込むためにバランスを崩すことすら出来ないのだ。
今、マーマレードには地獄が待っていた。
少なくとも、本人はそう思っていた。
そして、40分ほどの時間をかけてKOSMOSが姿を現した時、その手には大量の料理が乗っていた。
高度な演算能力で盛り付けなどによる重心バランスを計算して、20皿ほどの皿を一度に運んでいた。
割と神業なのだが、そんなことに特級AIの処理能力を使うのはいかがなものか。
さておき、そうして出来上がった料理が次々とマーマレードの目の前に並べられていくのだが……。
「おいしそう」
マーマレードの言葉通り、そこには実に美味しそうな料理が並べられていた。
盛り付けも実に美しく、目にするだけで食欲がそそられていく。
ちなみにKOSMOSが火炎放射器を持ち出した際に中華云々と言っていた通り、並べられる料理は中華料理だった。
「おいしそうなのではありません。おいしいのです」
味見が出来ないからたぶんだが、とKOSMOSが内心で呟く。
KOSMOSが使用する筐体に食事機能はないので、成分分析から味を推測するしかないのだ。
まぁ、それはそれで正確な味見と言えはするのだが。
「さっきの火炎放射器とか拳銃はなに」
「ジョークですが」
「そうなんだ」
それは安心したとマーマレードが溜息を吐く。
その溜息と同時に身体のロックが解除され、マインドハックされていた感覚も消え去る。
「ねぇ、食べていいのかな」
「どうぞ」
「じゃあ、いただきまーす」
箸を手に取ると、さっそくマーマレードがチンジャオロースを掴んで口に運ぶ。
「あ、すっごくおいしい。KOSMOS、もしかして料理うまいの」
「はい」
基本的に内務系だったKOSMOSは外に出る事が余りなかった。しかし、中に閉じこもって書類仕事ばっかやっていては何のためにゲームをやってるんだか分かったもんじゃない。
そこで内務をしつつ片手間で出来る料理などのスキルを上げる事が半ば習慣となっていた。
さすがに片手間で戦闘をこなせるほど人間をやめて居なかったので、KOSMOSは料理系のスキルが軒並み高い。
それ以外にも、ダンススキルだのパントマイムスキルだの使い道が皆無のスキルもいろいろと上げてあったりする。
無論、戦闘に出る事が皆無だったわけではないので、戦闘スキルもあげてある。
プレイ時間が長いだけあって、戦闘時間が少ないといってもそのスキルは1流だ。
「ところで、KOSMOSはどうして食堂に来たの。KOSMOSもご飯食べに来たのかな」
「違います」
つい頼まれたから作ってしまったが、もともとKOSMOSがここに来た理由は、意見を聞くためだ。
高度な技能まで使って自分は何をしているのかとKOSMOSは微妙に自己嫌悪した。
「質問1を呈します。現在ネストは所在地不明の海洋に存在しています。意見を」
「うん。私はよくわからないけど、きっとKOSMOSがなんとかしてくれるよね」
できねぇから聞いてるんだよ畜生、とは言えなかった。
「質問2を呈します。ネスト統括特級乙型AI、KOSMOSに対する所見を述べよ」
「凄いAIだよね。ネストの全機構を担う人間と同等の自我を持つ特級AI。人間と同じクオリアを持ち、人間と同じ心を持つ」
クオリア。感覚質。あやふやな、言語化するのが困難なもの。
今この瞬間、肌に触れる空気の質感、目に映る光景の色合い。それらを感じる心と脳の作用、それがクオリア。
有機AIはクオリアを持つ。それが故に、高度な知性を獲得するに至った。人間とのコミュニケーションと言う方法によって。
KOSMOSは有機AIであり、最高峰の処理能力を持つ特級の級を持つ。
それは考えうる限り、最高の知性体と言える存在だった。
「そして、このネストの黎明期から鴉達の帰る巣を守り続けた傭兵の1人。最強の電脳将校、私たちの寄る辺、ネストの柱」
あまりの高評価にKOSMOSが凍り付く。
最強の電脳将校なんて、何をどういえばいいのか。
ちなみに電脳将校とは呼んで字の如く電脳世界での活動を主とする軍人の事だ。
と言うか、いつの間にネストのNPCの寄る辺にされていたのか。
「質問3を呈します。最強の電脳将校の根拠とは」
「電子戦闘体の撃墜スコアはKOSMOSが1位だけど」
そう言えばそうだったとKOSMOSが瞠目する。
universe onlineのオープンβテスト当時からプレイしていたKOSMOSのプレイ期間は最長クラスに位置する。
それだけの期間をプレイして、なおかつネストと言うコープの電脳空間における防衛を担っていたのだ。
電子戦闘に参加した回数は最も多いし、電子戦闘技能は様々な面で経験を積んでいたこともあって撃破数は随一だ。
そうなれば最強の電脳将校なんて称号をもらってしまってもおかしくはない。
「それに、KOSMOSは正規の将校教育を受けてる。このネスト以外でも、中佐の階級を持ってると聞いた」
「それは事実ですが」
中佐の階級を持っているのも事実だし、正規の将校教育を受けているのも事実だ。
がしかし、KOSMOSはマーマレードの思うほど能力にあふれた人間などではない。
正規の将校教育も本職の人間からしたらちゃんちゃらおかしいものしか受けていないし、中佐の階級とて通じるのは電脳世界くらいなもの。
と言うか、現実世界で少々アングラな方面に足を踏み入れている人間ならば、誰もが電脳将校の教育くらい受けている。
言ってみればそれは21世紀にアングラなネット掲示板での振る舞い方を学ぶのに等しい。
言葉に詰まったKOSMOSが、会話支援プログラムを走らせる。
口下手なコミュ障も、これを使えばどんな人とでもお友達に! と言うふれこみの代物だが、あいにくとそこまで上等な物ではない。
せいぜい、ちょっとした会話の糸口を掴ませてくれる程度だが……それさえ掴めれば十分だった。
「Si vis pacem, para bellum――――汝、平和を欲さば戦いに備えよ」
「ラテン語の格言だね」
「如何に私の能力が優れていようとも、この場にある者たちすべての命を守る事は出来ない。あなたもまた思考を放棄する事なく自ら戦いに備えなさい」
「うん。分かった」
うまいこと引っかかった格言で綺麗にまとめる事に成功したKOSMOSが内心で溜息を吐く。
根本的に、人の上に立つことに慣れていないのだ。
ネストの代表取締役……一般的なオンラインゲームで言う、ギルドマスターの座に立っては居た。
だが、ネストとはあくまでも個々人の集まりがネームバリューを持った物に過ぎない。
コープメンバーに上下関係はなかったし、アライアンスにおいても上下関係と言うものはなかった。
誰かに信頼されることはあっても、universe onlineはあくまでもゲーム……全幅の信頼など寄せられた事はない。
マーマレードはKOSMOSに対し、全幅の信頼を見せているのだ。
KOSMOSにならば全て任せて大丈夫。自分はその下で全力を尽くして戦えばいい……そう態度全てが言っているのだ。
その信頼に応えようと思う……それはKOSMOSが間違っているのだろうか?
失望されることが無いように、このネストと言う組織の代表取締役として恥じ入る事がないように。
そう思って行動してしまう事が間違っているかどうか。それは今のKOSMOSにはどうしてもわからなかった。
「とりあえず、私もカーミラと一緒に訓練しに行くね。もうちょっと近接戦闘のプログラムを詰めておきたいんだ」
「はい」
「そのうち動作プログラムの見直ししてね」
「諒解しました」
アンドロイドの動作プログラムなんて見た事すらないのだが、とりあえず安請け合いしていた。
AIとしての能力があれば、きっとなんとかなるだろう……なんて言う希望的観測を元に。