イケメン妖怪ハンターリックの冒険(最終章前編)
リックは古今無双のスケベです。
今日は愛妻の遊魔の目を盗んで、お姉ちゃんがたくさんいるお店に来ています。
(こんなところを待ち合わせの場に選んだりして、何を考えてるにゃん)
リックは遊魔がつけて来ていないかと警戒しながら来たのです。
「いらっしゃいませ。あら、お兄さん、いい男ね。私といい事しない?」
最低限しか肌を隠していない過激な衣裳の女性が言いました。どうやら、猫又のようです。
「今日はそういう事をしに来たんじゃないにゃん。ガックに呼ばれてきたにゃん」
リックが待ち合わせの相手の名を告げると、女性はビクッとしてリックを睨みました。
「あんた、あの人とどういうつながり?」
その目の鋭さにリックは後悔しました。
(ガックは名の知れた妖怪ハンターにゃん。怨みも相当買っているにゃん)
リックは惚けようと思い、
「つながりはないにゃん。僕はガックの幼馴染にゃんよ」
嘘ではないのですが、そう言って切り抜けようとしました。すると女性は腕組みして、
「何だ、そうなの。あの男、店のつけを踏み倒して、三年も雲隠れしてたのよ」
「そうにゃんですか」
リックは思わずあるお師匠様の口癖を真似て応じました。
(ガック、相変わらずにゃん)
苦笑いするリックです。女性はリックを奥のボックス席に通しました。
「お飲み物は?」
「バーボン。それから、高級またたびのお浸しが欲しいにゃん」
リックが注文すると、女性は席を離れました。
「待たせたな、リック」
そこへガックが現れました。リックより長身で、きりっとした顔の涼やかなイケメンです。
「久しぶりにゃん、ガック」
子供の頃よくやったグータッチをして、リックは言いました。ガックはリックの向かいに座り、
「お前が急に天竺とかいうところに行っちまって以来だから、十年近く経つかな」
実は想像以上に長旅だったあのお話(御徒町樹里の西遊記)です。
「それより、この店に来て大丈夫なのかにゃん? つけを踏み倒したって聞いたにゃん」
リックが心配して小声で尋ねました。するとガックは、
「平気だよ。三年逃げ切ったから、チャラさ」
唖然とするリックです。そこへ先程の女性がトレイに載せた酒とつまみを持って戻って来ました。
「あ、あんたは!」
女性がガックを指差します。
「よお、久しぶりだな」
ガックは立ち上がり、トレイをテーブルに置くと、いきなり描写を憚る事を始めました。
(この店は、そういう店じゃないにゃん、ガック……)
古今無双のスケベのはずのリックも、ガックの所業には赤面しました。
「ああん、文句を言ってやろうと思ったのにィ……」
女性はすでにガックにメロメロで、腰が砕けてしまっています。
「俺にもバーボンと高級またたびのお浸しをくれ」
ガックが女性に軽くキスをして告げると、
「私の奢りにさせてね、ガック」
トロンとした目で応じ、立ち去りました。リックは顔を引きつらせていましたが、
「それで、何の用にゃん? 仕事かにゃん?」
ガックは急に真顔になり、
「元締めが殺されたのは知っているな?」
「知ってるにゃん。仇を討ったのは僕にゃん」
リックも真顔で応じました。
「そうだったな。で、グフの更に背後にいる奴の正体がわかった」
ガックが言うと、リックはギクッとしました。
「まさか、あいつかにゃん?」
探るような目で言うと、ガックは大きく頷き、
「そうだ。あいつさ。幼馴染でありながら、俺達を裏切った奴」
リックはバーボンが入ったグラスを強く握り締めました。
「ポックにゃんね」
リックは怒りでグラスを砕いてしまいました。
「そのグラス、高いぞ」
ガックに言われ、蒼ざめるリックです。