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「これよりアバロン王国極秘会議を開催する。本件の内容は極秘事項であり、この場に居合わせるどのような立場のものも本件の内容を外部に漏らすことは厳罰をもって処分することとする。くれぐれもこの場を出たあとの口には注意するように。また現時点において現在王城に滞在するいかなる立場のものにも、本日王城でみたものを外部に漏らさぬよう箝口令を布いているが、本件の内容は内密にするには難しいものとし対処は迅速が要求される。みなの忌憚ない意見を求める。よいな」


「アバロン王国国王の名に誓いまして」


「国王の名に誓いまして」



 アバロン王国王城にいくつか存在する会議室の中でも一部のものしか入り口の存在すら知らぬ秘密会議室の円卓には、物々しい人物達が揃っていた。王をはじめとし、大臣副大臣、宮殿魔術師や将軍に主要貴族それに御殿医と御子の護衛を勤め上げた騎士団副団長と、神殿より神官長がみな複雑な表情をして円卓を囲む。


 騎士団長はこの場に参加せず御子の側についていた。腹心である副団長は団長より経緯を聞いて誰よりも複雑な面持ちをしていた。



「さて、何から話せばよいのか」



 疲れた表情の王が円卓を囲むひとりひとりの顔を見ながら重い口を開いた。



「みな、謁見の間の出来事は既に知っておるな。御子の中に邪神が封じられている。問題は複雑だ」



 王は己が確認するように今まで起きた事を手短に話した。御子が凱旋してからこの場に集まるまでのことを。



「御子様はいまどうしているのですか」



 王の話が終わると神官長が身を乗り出して王を強い目で見た。この極秘会議においては発言の自由が許されており、ざわざわとする会議室で声を張る神官長の顔には焦りがみえる。



「我等すべてを等しく救いあげた御子様にまさか無情な仕打ちは……!」


「落ち着かれよ神官長。御子殿は現在森からもっとも近い王城の一室にて手当てを受けている。軟禁状態なのは否定しないが」


「なんてことを……」



 神官長は非難を隠さず王を見たが、王は無表情を貫き会議を進める。話し合わねばならない事が山のようにあるのだ。



「当面の御子の処遇についてだ。御子殿は協力的とは言えないが、余はけして彼女を見放すようなことはしたくない。しかし彼女の立場は複雑すぎる」


「邪神が身の内にあるからですな」


「それもある」



 宮殿魔術師の言葉に王は頷いた。



「謁見の間にて御子殿が要求した褒美がおそらくは御子にとって、ひいてはこの世界において一番平和的な解決だった」


「邪神を封じたまま元の世界に帰還するとおっしゃりましたな」


「お優しい方……」


「御子殿の功績に対していささか足りない褒美にも思えるが、我等はそれすら叶えることができぬ。神官長と宮殿魔術師はよくわかるな?」



 溜め息を隠さぬ王の問いに神官長と宮殿魔術師は頷きまずは神官長が答えた。



「皆さんがご存知の通り御子様を召喚せし天空神様は世界の理に触れ次元の彼方へと幽閉されております。本来、世界の境界を歪め異物となるものを入れるのは禁じられているとか。また天空神様いわく御子様の世界に断りをいれる事ができなかったと。故に天空神様は次元の彼方へその身を沈め永い贖罪についたと巫女より告げがくだっております」


「境界をねじ曲げる程の力は人類の魔力をすべて集めても現在の魔術では不可能ですな。人は所詮、神の御業には届きませぬ」



 神官長の言葉を引き継いだ宮殿魔術師は長いひげを撫でながら溜め息を吐いた。王は「そう言えば貴殿には清廉の間の件で無駄足を踏ませたな」と労えば、宮殿魔術師は好々爺ぜんとした表情で「御子様が御無事で何よりですよ。大した労力は用いておりませぬ」と返した。



「そもそも此度の件は大臣の不手際ではないのか」



 黙り目を閉じていた将軍が円卓に座る大臣を睨み付ける。彼は謁見の間の後始末に走り回った人物であり、執務室から一連の件は話のみを伝え聞いていた。



「返す言葉もありませんな」



 大臣は時間が経ちいくらか落ち着きを取り戻したのか、普段の内心を読ませぬ表情で将軍を見返す。



「何故御子様をあのような」


「大変御乱心されていたようですから、おのがおのを傷つけなされぬように医局へ指示を出した件について私は釈明も弁解もいたしませんよ。確かに不手際でした」


「貴様ぬけぬけとっ」


「よさぬか。身内でもめている場合ではない。余にも配慮が足りなんだ」


「しかし王よ!」


「混乱の最中だったと言うのは言い訳にすぎぬが、大臣の選択自体は間違ってはいなかった。御子を死なせる訳にはいかないのだ」



 将軍は王の言葉に強く唇を噛んで押し黙った。王はそれを眺め眉間を寄せながらよくない状況だと考える。軍部はかなり御子寄りであり、宮殿魔術師もどちらかと言えば御子寄り、神殿は言わずもがな。王が退く事ですべてが収まるならば王座など要らぬと王は言うだろうが、そう簡単な話ではない。



「此度の件を民はまだ知らぬ」



 御子の言葉を信じるならば、邪神を身の内に封じたことを御子は謁見の間に着くまで黙っていたこととなる。



「他国も恐らくは知らぬであろう。王城に間者が入っていなければな」


「いずれにせよ、先んじて手を打たねばなりますまい」


「あまり事が大きくなる前にアバロンで打てる手立ては打ってしまうのが良いと、余は考えている。ひとまずは御子の状況をこちらから民に伝えることだ。穏便に、あくまで御子に有利なようにな」



 王の言葉に大臣のみが片眉を上げた。


 王の脳裏にある最悪の状況とは、御子の現状を知った民が暴徒となり王城に乗り込んでくることでも、御子が死に邪神が復活することでもない。


 彼女が、彼女のままで、世界と敵対し討伐されることであった。



(そのような悲劇をけして彼女にもたらしてはいけない)



 彼女は為したのだ。世界を蝕む邪神の災厄を退け、光をもたらした。その行いには報いなければならない。


 無論施政者として、邪神の復活は必ず避けねばならない事態だ。彼女か世界かを問われれば王は必ず世界を取るだろう。しかしまだ打てる手立てがあるはずなのだ。誰もが笑える未来への道が。


 何故こうなったのかと、過去を悔やむのは簡単だが未来を手繰り寄せるのは容易な事ではない。細い糸のようなそれを掴み取らねばならないのだ。


 ようやっと終わった邪神の時代。この平和を継続させるならば、それをもたらした御子も救われなければその事はこの先の未来に消えぬ影を落とすだろう。



「彼女は邪神を封じるために自らの身を差し出したと、あくまで英雄のまま迅速に民に広げるのだ。邪神の影響は色濃い。御子の中に眠る邪神を恐れるものが御子に何かをする可能性は捨てれまい」


「御子殿はあのような状態ですしな。あの御子殿を見た民が恐れるのは容易に想像できます」


「民からはすぐにでも御子への目通りが要求されるだろうが、これでしばし時間を稼げるだろう」


「御子様の方は如何なされるので?」


「彼女の願いが叶わぬ以上、話し合わねばなるまい」



 協力してくれるかはまだわからないがと続けた王の言葉に、大臣はやはり内心がわからぬ表情でこう言った。



「そもそも王よ、御子は邪神にのまれてしまっているのではありませんか」


「大臣殿! 口を慎まれよ!!」


「御子様に限ってそのような!」


「聞けば御子殿の性格は大変穏やかで優しくまさに女神カイナーデ様のようだったとか。今の御子様を見れば、その面影すら見られますまい?」



 大臣の言葉に将軍がまなじりを吊り上げて怒鳴り、それまで借りてきた猫のごとく黙っていた副団長が椅子から立ち上がり大臣を睨み付ける。



「御子様はお優しく、お強い方です!」


「それは邪神封印前の話であろう? 今の御子殿は内に封じた邪神に精神を乗っ取られているのではないか?」


「何を根拠にそのような……!」


「それこそ根拠というのならば御子が本当に内に邪神を封じたのかどうかも我等にはわからぬではないか」


「貴様御子様を愚弄するかっ」


「落ち着け! 将軍も副団長も席に座るのだ。大臣も、めったな発言はするでない」


「はっ、失礼致しました」



 将軍と副団長は唇を今にも噛み切りそうな程に顔を歪め席につく。王はまとまらない腹心達を前に大きく溜め息をついた。



「本人不在のまま我等がいくらその推測を重ねた所で意味はない。ひとまずは御子不在でも決められる今後の我が国の方針を決めねばならぬのだ」



 会議室には重い重い空気が満ちていた。


本作をお読み頂きまして誠にありがとうございます。お気に入り登録や感想大変励みになっております。

よろしければ今後も本作をどうぞよろしくお願い致します。

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