誰がために強くなる
クリス村の二番目に広いリンの家の前で、とある少女は木の下で座り込んでいた。
少女の名はミント。むすっとした顔で何も言わずただ下を向いていた。
小学六年生ぐらいの身長でツナギを着て真剣な顔をしているが、子どもには物騒なチャカを手の中で弄っている。……いわゆるクールキャラな少女。
その年齢のあまりかわらぬ妹をはらはら心配そうに見ているのは姉にあたるミンミンである。
「あのねミント、私いまからお母さんのお手伝いいってくるからね」
「……勝手に行け」
銃弾をしまい、標準確認もする。
そっけない妹に悲しそうな顔を見せながらもミンミンは小さな声で笑みを浮かべながら「うん、いってくるね」とだけ言った。
「……ふん」
ミントはほかのだれよりも早く≪武器の神≫の名を手に入れた。
赤子のころにリンにチャレンジする輩が多く命を狙われまくったのが原因で、自分の身は自分で守るとこんな刺刺しい性格になってしまったのだけれど、ミンミンはそんなミントが心配でならないらしい。
「独りでいて、大丈夫かな、狙われてないかな」
「大丈夫だ」
リンの財産の一つヤギの乳を搾りながら心配そうに言うミンミンの頭をリンはなでた。
「最近チャレンジャー少ないし、クリス村に入ってくる奴はぶっちゃけバカだけだから」
「そのバカにやられちゃったら!」
「心配性だなお前。ハハハ」
「笑い事じゃないの」
ミンミンは立ち上がった。
「やっぱり、一緒にお手伝いに連れてきたらよかったんだわ!!」
走り出そうとしたミンミンの首根っこをつかむリン。
苦しそうな声を上げた。
「お前もミントも、心配なら強くなればいい。自分が強くなれないなら守ってもらえばいい」
「だ、だぁから」
「お前に少し早いが召喚術を教えてやろう」
「サモン・・?」
術を発動すればどこでもいつでも魔物を呼び出し使役することができる。
レベルが上位であれば最強だし、そこいらの雑魚にはまず負けはしない。
「契約が必要になるがな」
一気に契約するか、一回ごとに契約するかはお前次第だとリンは紋をミンミンに見せた。
彼女は頷いた。
「お前は妹思いだな」
リンはミンミンの頭をなでた。
「家族だから、お母さんが大変な時は私が守ってあげる」
「そうか、……へへっそっか」
「うん!」
にこにこ笑うミンミンを生ぬるい笑みでリンは見つめた。
守ってあげる。か
「人を守るってのは難しんだぜ。自分の身はもちろん他者に気を配らなくちゃいけないからな」
「それでも、私は大好きな人たち守りたいから」
「ミンミン、そりゃー偽善ってやつだな」
「ぎぜん?」
「あぁ、思い上がるなよ。純粋な気持ちは心の中だけにしておけ、それを行動におこしてもいいことはないからな」
ヤギの頭をなで、搾り終わったヤギを横に流しながら次のヤギを目の前に連れてくる。
「想いだけで実力の伴ってない奴はバカだ、大馬鹿だからな」
「だから、今から強くなります」
みんみんは拳を握ってリンを見上げた。
「私の思いが、ただのぎぜんにならないように」
「はは、ま、頑張れ」
リンはミンミンに親指を立てた。
「……お母さんは守りたい人いなかったの?クリスとか」
「居たさ……。守れなかったが。クリスは少し違うな」
「違う?」
「おい、次のヤギ」
「あ、うん」
ヤギの目は悪魔の目。恐ろしいと人は言う。
「人の目は恐ろしいな」
「え?」
「人の本質を見抜く力がある。心が読めるわけでも、魔力があるわけでもないのに。見た目じゃ分からないことを、本質で見抜く。俺は正直怖いな」
「?」
ミンミンとまっすぐ目を合わせた。
「俺の心をよまれること、頭の中を覗かれること。すべてが理解され白昼にさらされることが……怖い」
「理解されたくないの?」
「どうだろうな」
リンは立ち上がった。背伸びをしながらソラを見上げる。
「俺も大概ひどいやつってことだ」
「???」
まったくわからないという顔をしたミンミンの表情を汲み取りつつも、リンは説明せず笑って流した。
何かを守りたいという思いは実力を伴っていなければタダの悲劇だ。
わかっているつもりでも、守りたいと思うのは性なのか?