気配
青々としたソラが広がる。白い雲一つもないまさに快晴だ。
クリスは白いパラソルの下に座り、紅茶を優雅に飲んでいる。
「今年もきれいにバラ園ができたわ」
青い花、白い花、黒い花、赤い花、黄色い花、鮮やかな花々が咲き誇っている。
白いワンピースに身を包んだクリスはカップを皿の上に音を立てずゆっくり置き、立ち上がった。
「……何?今の気配……」
一瞬感じた、殺気に似た視線を感じた。一体なんだろう。
クリスはクグリの名前を呼ぶ。
「天界から何か来てない?」
「いえ、来ておりませんが」
結い上げていた綺麗な金髪の髪を降ろし、白い純白の翼を背にクリスは飛び立った。
クリスの居た後には白い羽が数枚散り、淡い光となって消える。
「ん」
タンクトップの姿で闇の神殿で汗を流していたリン。
急に感じた寒気を追い払うため殺気を放つ。
闇の神殿にいた魔物たちが逃げていく気配はすれども、殺気らしきものを放ってきた原因はすっと消えてしまい確認することもできなかった。
「・・・・・?」
リンは首にかけていたタオルで顔をふき、歩き出した。
「最近、なんだろう違和感感じるな」
神殿を出ると、クリスがいた。
「そうね、まるで誰かが品定めするよう」
クリスは目を細めた。
「殺気と判断してもいいかしら」
「あぁ、間違いないだろ。久しぶりだな」
腕を組む。
「俺たちと同じくらいの強さを持つ敵は」
「そうね、でも私たちが調べたのに分からないということは、私たち以上かもしれないわ」
「上の連中は気づいてたか?」
「いいえ。でもおそらくムマとスリープは気が付いているでしょうね。夢の気配が遠いから」
「逃げる専門かよ」
夢の世界では最強の二人が面倒事を避けるのはいつものことだ。
しかし、解せないことがある。
「まるでふっとわいたような気配だったな」
「えぇ、そうなの。まぁいいわ」
クリスは白い翼を広げた。
「今は見物してるみたいだから無視してもいいでしょ。いずれ向こうから来るでしょうし」
「なるほどな。で?」
リンは闇の神殿の前にある黒い巨大な鳥居の上にいるクリスの横に跳んだ。
「それを言いに光の女神であるお前が闇の神殿に来たのか?」
「うん」
「まじか」
クリスはリンの顔を見てにっこりした。
「先走っちゃだめよ?私たちはまわりから最強最強って言われてるけど、上には上がいるの。たとえ努力してもそれでも補えないほどの壁が、あったりするのよ」
リンの首にあったタオルを引っ張りリンの汗のたまった鼻頭をつまむように拭いた。
「言ってる意味ワカルでしょ?」
「・・・・・釘刺しに来ただけじゃねーか」
タオルから手を離すとほほ笑むクリスはそのまま消えた。
その様子を見送りながらリンは頭を掻いた。
「最強じゃないってね」
確かに人の評価などあてにはならない。
今は確かに最強と呼ばれ見合っていても、いずれは衰退するだけだ。
神でも、同じだろう。むしろ神だからか
「俺たちは人によって生まれ人によって滅びるのか」
神が人をつくったのか
人が神をつくったのか
おそらく、どちらも違うのだろうな
リンは自嘲しながら紫の光を纏い、闇の神殿から離れた。