上
「くっくくく、はははは!!ようやく反吐が出る牢屋から脱走したぜ」
邪悪に笑い、目を細める男が一人。
「奴の弱点は分かった、殺してやる。首を洗って待ってるんだな!!はーっはっははは!!」
クリス村にて、リンは中庭の木にもたれながら赤ん坊をあやしつつぼーっと空を眺めていた。
「目に映るものがすべて、たとえそれが夢であっても、感情は確かに現実か」
「なに感傷に浸ってんの?」
「おうアメリアス」
「珍しいね」
「俺だってセンチメンタルになるときだってあるさ」
「へー、ただ単に子守りにつかれただけでしょ」
「へっへへへ」
乾いた笑いを浮かべる。
アメリアスはリンの隣に座るとほらっと手を出した。
「少し見ててあげるから、寝たら?」
「おう悪いな」
「疲れるほど見なくても、バードに頼めばいいじゃない」
「里帰りだ」
「結構頻繁ね。クララは?」
「クララは子どもが苦手だ」
リンは子をアメリアスに預け、背を伸ばす。
そのさいパキパキと骨が鳴る。
「じゃ、任せたな~」
そういうときのリンの行動は速い。
すでにその場を去ってどこかの次元へと飛んで行った。
「よしよし」
すぴすぴ眠り始めた二人の妹たちを、静かに眺め、空を見上げる。
あぁ、やばい……もう飽きた。
基本あきやすいリン一家。
アメリアスは魔法で本をだし、読書することにした。
ところが
「はーはっはっはははは!!げほごほ!!」
楽しそうに笑いながら出てきて、勝手にむせながら涙目になっている変な男をアメリアスは冷ややかな目で黙って見つめる。
「はーぁ・・。俺様にびびって声もでないか!」
「何?」
「おっと命乞いなんて無駄なことをするなよ!お前らこの村のやつらは全員皆殺しって決めているからなぁ!!」
「そう」
アメリアスは本に目を向ける。
「興味なさそうに本を読むな!!」
「煩いなぁ、妹たちが起きちゃう」
アメリアスは妹たちを抱き上げ、歩き出す。
「オレ様を無視すんじゃねぇ!!俺様は魔王となる男プリンスだぞ!!」
「あぁ、そうなんですか。ソレハソレハスゴイデスネー」
顔を真っ赤にして怒り出したプリンス突き飛ばし楽しそうにやってきたのはラゴウさんだった。その後ろにはヴァニラさん
「リン、リーン!!きいてぇな!!ヴァニラってなぁ!」
「おだまり、それ以上一言でも口をきいたら始末しますよ!!」
「あれ?リンは?」
「寝てる」
「おや、アメリアスさんは偉いですね」
倒れていた謎のプリンスは起き上がった。
「俺様を無視するんじゃねー」
「誰やねんお前うるさいねん」
ラゴウの黒い落雷を受け、煙をあげて倒れた。
「魔王のプリンスとかいってるわりには、弱い。ラゴウさんに敗けてる」
「自称やろ。てか敗けてるて、わいかて強いで?」
「え?あ、あぁ、そうですね」
「なんやねん?!」
アメリアスの頭の中では12神の中で一番ラゴウが弱いと思っている。
「くそお、本調子だったら貴様らなぞ」
「そりゃ、ここは重力倍やし、神以上は魔力を半分以上セーブされるようクリスが調整しとるもん」
「なんだと、なるほど・・なら好都合だ!」
自称魔王は魔方陣を発動した。
「転覆弱肉強食魔法発動!!」
「え?な?なん?なんやて?」
魔方陣がクリス村を包む。
「なつかしい魔方陣ですね。昔巫女になる前、クリスさんがいじめられている精霊に対してその魔法を発動し、いじめっこをふるぼっこさせていました」
「ほんまにあいつ天使かいな」
「愛を持って罰を、と言っていましたが」
「つまり、弱者が強者に、強者が弱者になるってこと?」
アメリアスのコメントに頷く。つまり、次期魔王候補自称プリンスは自分が弱いということが分かっていたのか、なら挑戦しなければいいのに
「ふははは!死ね!!」
「ちょっと、リン!私の部屋勝手に消滅させたでしょう!!!」
マリーが男をぶっ飛ばす。
「な、なぜだ!」
「そりゃお前」
「あ」
リンがパジャマ姿で出てきた。
「汚かったからだろ」
「俺様を無視するなぁああああ!!!」
魔法を放つ、実際なら放てないだろう大きな攻撃をリンはこともなげに片手で消し去った。
「な、なぜだ」
「私の前の部屋返してよ!!」
「掃除しろよ?」
「いいから」
「だから無視するなぁ!!」
殴りにかかった男に対し、リンは周り蹴りでぶっ飛ばした。
木々に当たり血反吐を吐いて倒れこむ謎の男。
リンは赤ちゃんを抱っこし、首をかしげた。
「お前なつかしいな、誰だっけ?まぁいいや」
「ぐ、ふ」
「その魔法よ、弱けりゃ強いんなら、弱く無りゃいいんだ」
「あ」
それぐらい造作もないこと。
「畜生」
くそったれーとかいいながら逃げて行った男を見送りながら、アメリアスはつぶやいた。
「何しに来たの?」
首をかしげた。