上
ヴァニラは夫になったイルと一緒にクリス村の散歩をしていた。
最近子育てに忙しい村長たちはおとなしく、これ以上にないぐらい村は平和だ。
「閉鎖的空間で自給自足の生活リズムをおくり、秩序をもって争いごともない、本当まるでここは模範のような楽園ですね」
というイルにヴァニラは何とも言えなかった。
彼はまだ行事に参加したことがないのだった・・クリスたちの気まぐれは耳にしてはいれど、その被害の大きさはおそらくまだ知らないだろう。
今村が平和なのは二人がおとなしいからに等しない
「お二人ほどの最高神はいませんね」
「えっ。えぇ、そうですね」
散歩を同じくしていたのだろう、ウィルマと出会った。
「この村はいいな。神々のくだらぬ相談事を聞かなくていい」
「神の相談に対し的確にお答えできるのはウィルマさまだけですから」
「いやいや、彼らはただしゃべりたいだけだ。王様の耳はロバの耳。誰かに漏れてはいけないが言いたい。ただそれだけ、それならそうと穴にでもほざけばいいものを」
「貴方の場合、それが役職でもありますから、放棄は許されませんよ」
「固い女だ、ヴァニラ。神々の幹部の座にふさわしい」
「皮肉ですか」
あられがヴァニラの周りにまとわりつく。ウィルマは肌に感じる冷たさを払うように撫で、ニヒルな笑みを浮かべた。
「最近相談がないなヴァニラ」
「相談?」
ヴァニラの顔がボッと赤くなった。
「いつでも相談に乗ってやるぞはっはっは」
「く」
去っていくウィルマの背を見ながら悔しそうにするヴァニラ、イルはそんな彼女を見つめ
「なにか悩みでも?」
と、言った。
「い、いいえ!何も!えぇ、なにもないデス」
旦那様に対してどうしたらいいのかとか聞いていただなんて、恥ずかしくて言えないとヴァニラは必至になった。
「あら」
と、イルの後ろのほうで見える公園でベンチに座っている見知らぬ人。
「誰でしょう」
二人はそのベンチに座り、すやすや眠っている人に近づいた。
「……どことなくクリスさんに似ているようで似ていませんね」
「んあ」
起きた。目が合う、手を握る。
「いい女だ。今夜どう?暇?」
「あぁ、すみません手が滑りました」
イルは持っていた本の角で寝ていた男の頭を刺した。
「いってぇええ!!」
「下級天使が身の程を知りなさい」
「なんだよーお前だって彼女に比べたら下級じゃないか」
「君ほどさして離れていません」
攻撃的なイルにときめくヴァニラ。
「ちょっと!グリフ!!」
ずんずんという効果音がつきそうなほどの大きな早歩きでルミがやってきた。
「勝手に動き回るなっていったでしょ!!」
「なんだよ、俺がいないとさみしいのか?仕方のないやつだ」
「仕方ないのはあんたのほうだバカ!」
「ふぅやれやれ、今夜たっぷり可愛がってやるから機嫌なおせって、な?」
ばちこーんと勢いのあるウィンクをかまし、ルミの水技によってぶっ飛ばされていた。
はたからみてもわかる。こいつバカだ。
「ルミ、このバカはなんなんですか?かすかにクリスさんの気配を感じますが・・えぇわずかですが」
「クリスの膨大すぎる魔力から零れ落ちたかけらの新しい存在よ」
「それは本来回収されるべきものでは?」
「ルミのやつ、俺に惚れたらしくてな」
「お前は黙ってろ!」
二回目のぶっ飛び。
「なるほど、よくクリスさんは認めましたね。嫌いそうなものですが」
軽い男ほど嫌う、それが自分の一部からできたものなら尚のようにも思うが
「嫌いすぎて別個として考えてるんじゃない?」
「まぁ、俺もクリスの魔力から生まれたってだけで、怠けてたわけじゃないしな」
グリスは濡れた服を絞りながら言った。
「下級でも騎士天使の称号はあるぞ」
努力は怠らないらしい、少し感心していると
「称号あるほうが下級でもモテるだろ?」
ルミに肉体言語でぶっ飛ばされていた。
「それで、彼は此処に住むのですか?」
「ん・・その許可はもらいに行く予定」
「オレは嫌だっていったんだけどな」
クリスと一緒で縛られるのは嫌いらしい。それに自分を吸収してしまうかもしれない天敵がいたらそりゃあいやだろう。しかしルミは住まわせる気まんまんだ。
「ルミ、強引ですね珍しく。なにかあるのですか?」
「う」
ルミは顔を紅くさせもじもじしはじめた。
「じ、じつは・・そのできちゃって」
「そんなの出会ってすくできちゃった関係じゃないか」
グリフを氷漬けで黙らせるヴァニラ。
「できちゃった?」
「そう。できちゃった」
ヴァニラは氷漬けになったグリフをみた。
「苦労しますね。とりあえず、おめでとう」
「・・ありがと」