下
リンはふよふよ浮かぶ雲を実体化させそのうえで寝転んで転寝していた。
人間は勝手だ。薄汚い心を持っている。弱いし、傲慢だ。なんて言っている神たちだが、その神だって人間と大して変わらない。違うのは力と寿命だけだ。
「リン、なにしてんの」
クリスはリンの上に乗っかった。
「ぐふ」
「重くないんだから『ぐふ』ってゆーなバカ」
「そういう問題じゃねーよバカはお前だバカ」
「バカにバカって言われたくないしこのバカ」
「確かにバカっちゃバカだけど今はお前もバカだバカ」
「ふーん、っで?」
「話かえやがった!!」
クリスは雲の上にお茶会セットを用意した。温かい煙の上がる紅茶のにおいをかぎながらリンに微笑んだ。
お茶を勧めてもむすっとした顔で断った。
苦笑いをしながらクリスは紅茶を啜る。
「いつまでたっても子供だなぁ」
「んだこら」
「やんのかこら」
ケーキにナイフを刺しながらクリスは言い返す。
「わかってるわよ、私たち・・人間だったものね。私たちだけじゃないわね」
「・・・・」
「魂は輪廻する。人間から神へ神が人間へ、閻魔の言うとおり魂だけで見れば区切るものなんてない」
人間だから、愚か。というわけではない。
そも人間を生んだのは神なのだから神の罪でもある。
「お前は、まだ・・」
「ん?」
リンは首を横に振った。
「覚えてるか?」
「何を?主語を入れろ主語を」
「少しは待てよ。あれだよ。じいちゃんとばっちゃんと・・四人で下の村まで行った時の話」
「・・覚えてる。リン行ったのあれきりじゃない」
紫の髪の異端なこと。
忌み嫌われ化け物扱い、村人の白い目にこそこそという陰口。
「俺さ、あの時思ったんだ」
「なんて?」
「みんな紫の髪の毛になっちゃえばいいのにって」
一人違うから忌み嫌われるならみんなおんなじようになってしまって、仲間外れを作らないようにしてほしいって。
違うのは個性なんだと、そう思ってた。
「村人もあの時の旅人も、俺のこと悪魔ってののしったな」
「悪魔じゃない」
「聞けよだから」
クリスはケーキを口に入れてOKと指でサインを送った。
「えーっと、なんだっけな・・忘れたじゃん」
「ごめそ。悪魔って言ってたけどそれが?」
「あぁ、そうそう。天界にあがって実際悪魔だったわけだけどさ」
「天界でも悪魔って罵られてたわね、今でいう下級天使に」
「そ。悪魔ってさどんな種族からも嫌われてるじゃん?でもさ、必要悪のために存在してるじゃん」
「善良なだけの都合のいい世界なんて、生きてるとは言わないからね」
クリスはリンを見つめた。
「リン?」
「悪魔になりたくて、なってるわけじゃねぇって、昔は思ってた」
みんなが嫌うものに、なりたくて。みんなと違うものになりたくて。みんなと異なるものになりたくて。って、そう思って生まれてきたわけでも、生きているわけでもない。
ただ、こうだっただけだって、思ってた。
「でも、違ったんだ」
リンは立ち上がってクリスのサラサラの髪の毛を一房持ち上げ、いつくしむような瞳を向けた。
「望んだってこと?」
「望んでねぇよ?」
口からケーキを吐いた。
「キタネエ!」
「話の順序おかしいのよバカ、超バカ。飽きた帰る」
クリスはお茶会セットを片づけてレポートで消えた
せめて一言残せよ。
「俺は、こうなりたかったんだ」
お前はわからなくていい。
まだ、誰にも