下
「てなわけで頼んで一週間たったが」
リンは牛の身体を洗いながらマリーを見た。
「なんで出戻ってんだ?」
しかも前にもまして露出度の高い服になっているし、化粧も濃くなっていた。そして態度が格段に悪くなっていた。
「リン様」
バードが空からゆっくり降りてくると、手紙をリンに渡した。
「アク様からです」
「どれ」
手紙を見る。
「・・・・・・・」
「アクからの?なんて?」
お花の水やりを終えたクリスが顔をのぞかせ、手紙に覗き込んだ。
「・・・・・・・やるわね」
『リンへ、無理だ。つーかクスリがキレた。魔界の侍女をうんざりさせるなんてある意味才能だとおもうわよ。結論、無理。そもそもあたしゃ本当の祖母じゃないしな、無理。無理無理』
「・・・・五回の無理コールね」
「しゃーねぇなぁ、次はどうすっぺかな」
リンは頭をかいた。
「お手上げだ」
「はや」
リンはやれやれと次の牛の身体を洗う。
「マリーにやる気ないからな・・何をやらせても無駄だろうよ」
「そうね」
こればっかりは仕方ない。
「・・・・称号がなんでもいいんだけどな」
ごしごし、ブラシをせわしなく動かしていたが、リンはふと思い立ったようにとまった。
「無能の称号は?」
「『怠惰の神』が兼用よ」
「・・・・そっか」
ため息。
牛を洗い終えるとリンはマリーのところに行った。
「マリー」
「あら?何」
「お前なぁ、このままだったら俺はお前を追放しなきゃいけない」
「なんでよ!」
親の七光りで生きてきたマリーにとっては死活問題なので、食いつくように飛びついてきた。
「称号はお前がおもっている以上に重要なんだよ。称号もないやつが俺の身内なんて知られたら、俺じゃなくてお前が狙われるんだよ」
「だったら守ればいいじゃない」
「そこは自分で守れよ」
「いやよ、だって私弱いんだもん」
そこは自覚していたらしい。
「はぁ」
リンはマリーの頭をつかんだ。
「いいか?俺も善処する」
どんなしょぼい称号でも、称号は称号だ
「称号が入れば、今ままでどうりクリス村にいられる。でもな、もし手に入らなければ」
「っ」
「俺はお前を殺さなきゃいけない」
「ひっ」
マリーは顔を真っ青にさせて床に倒れこんだ。リンはその様子を無表情に見つめながら部屋を出た。「本気?」
部屋をでると、カルミアがいた。片手にはワイン。少しよっているのか頬が赤い
「あぁ」
「やったね」
うれしそうに微笑み歩き出した。
「私嫌いなのマリー。家族でも所詮あれでしょ?私たち、血のつながりなんてないじゃない?」
「カルミア」
「んー? ---っ!」
リンの手で顔をつかまれ、前が見えない。
驚きで落としてしまったワイングラスの割れる音が聞こえた。
「嘘でも本気でも、そういうことをいうな。・・死にたくなきゃな」
「わ、かったわ」
「ならいい」
リンの顔を見る前に、彼女は去っていった。
「・・・・なんなのよ」
「あら、びびったのカルミア」
「クリス」
カルミアは髪の毛を整えながらいつものように冷静を装った。
「なんなのよ」
「リンはね、そういうやつなのよ」
クリスは指を鳴らし割れたグラスを元に戻しカルミアに渡した。
「カルミア、家族で血もつながっていても、それが何の意味になるの?大事なのはひとつ」
「・・・・?」
「絆でしょ?」
クリスの微笑みに、カルミアは何もいえずため息をついた。
「カルミン、やられちゃったとかいうやつ?」
「ラブ」
クリスの去った後にラブは長い時の女神のみ持つことが許されたロットを持って現れていた。
「からかうものじゃないわね」
「そうだね、やぶへびなんとかってね」
「どうせマリーに称号なんて無理でしょう」
「ん~そうだね、普通なら無理だね」
ラブのほうをカルミアはにらんだ。
「未来みてきたのね?」
「見たといえば見たし、見てないといえば嘘になるかな」
「なにそれ」
「時の調整中は断片的にいろいろ見えちゃうものなの」
そういってラブは舌を出して逃げた。
『カルミアも、まだあんまりつついちゃだめだよ』
「さて、どうしようか」
「リン・・?」
名雪が珍しく悩んでいるリンに声をかけた。
「あぁ、名雪・・顔見せてくれ」
「いや」
「即答か・・実はな」
ことのあらましを説明すると、名雪は頷いて指を立てた。
「だったら」
「え」
お菓子を食べていた空は口からクッキーを落とした。
「マリーが称号を手に入れた・・?」
「えぇ」
クリスは紅茶を入れながら空の前に座った。
「うひひ、何の称号か知ってる?」
「あ?ラブは知ってるのか」
「うん」
クリスは鼻で笑った。
「お、ちょうどいいところにマリー」
「げ」
いやそうな顔でマリーは走って逃げた。
「なんだよ」
「マリーの称号はね」
「・・・・・?」
『リンの娘』