上
クリス家でたった一人の体育系、『空』
魔法が使えないわけでも、弱いわけでもないが、長い詠唱魔法はじれったくて面倒だし、魔力を練るのはなんだか数秒だけど、時間かかるからイヤだ。
そういった理由で相手を攻撃するなら、魔法より拳と考えていた。
「ふー」
今日の分の修行メニューをこなし、息を吐く。
「空、お疲れ様」
「ヒカリ」
長女であるヒカリは微笑みながら空に飲み物とタオルを渡す。
「ありがとう」
空は素直にお礼をいい、飲み物を飲み干す。
クリス家一の性格のよさをもつヒカリはよくみんなの世話をしている。基本、リンもクリスも『自分のことは自分でしろ』という精神なのだが、ヒカリのおかげで、たいぶ修行に集中できる空は彼女に頭が上がらなかった。
「そういえば、ヒカリってさ、最近クリス村をでて天界にいってるってマジか?」
「えぇ、そうよ」
「何しに行ってるんだ?」
「ただの散歩よ」
木の陰で休みながら他愛も無い会話をする。
「空は、そんなに強くなろうと頑張ってるけど、強くなってどうするの」
「んー?別に、意味は無いけどさ」
空は自分の拳を見た。
「どこまでいけるか、試したいんだ」
「えっらいことねぇー」
「マリー」
アクそっくりのきわどい服を着たマリーが買ったばかりの宝石の腕輪を見てうっとりしながら空を見て、鼻でわらった。
「神といえば、髪の長さ色の濃さでその強さがわかるというけど、あんたって男みたいな短い髪の毛にしてさ、弱いんじゃないの」
「黙れよマリー、お前だって髪の毛長さ最大で腰までしかねぇだろうがよ」
通常の人はある程度魔力持つ人は髪の毛の長さを調整できる。
でもマリーはできない。弱いから
「女は色気よ」
いきなり話をかえたマリー
「あんたみたいな男勝りな女は一生結婚できないわね」
「うるせえな、俺にいちいちつっかかってくるな」
「そうじゃないと、誰も相手にしてくれないのよ、きっと」
「ちょっとヒカリ!アンタ最近私に対してシビアじゃないの!?」
「気のせいよ」
微笑みながら親指を下に突き出すヒカリ。
マリーは地団駄ふみながら悔しがった。
(器ちっちぇぇなぁ、あいつ)
空気を切るような音が聞こえたと思ったら、マリーの頭に何かが直撃した。
「あ、鉄龍」
「今日は針龍クリスが使用するって話で、いなかったわね」
「マリー、運ねぇな」
血をどくどくながすマリーを見ながら二人は納得する。
「さ、俺修行はじめるかな」
「頑張ってね」
空はマリーをあえて踏んで進んで行った。
「お?」
クリス村はずれの森の中に入ると、黒い翼の生えた獣やヤギのようにとがった角を生やした骸骨、ホーリーベルを武器として携えた天使がリンを囲んでいた。
「お前の『力の神』の称号を頂く」
「ん?」
リンは頬を染めながらとろんとした瞳でそいつらを見た。
「んふふふ」
手には泉水桃この桃を水に入れるとそれが酒に変わるという、レアアイテム。それを使ってリンは一人宴会をしていたらしい。
大量に空になった弁当箱と、空になった泉水。
リンは横になると寝始めた。
(なんつう豪快な)
無視された敵は怒り狂った。
「死ね!」
空はリンの前に立ち、敵の攻撃を跳ね返した。
「おい、リンよぉ!こいつら本気みたいだぞ!!」
「んっふっふ」
「駄目だこりゃ」
「邪魔するなら貴様から殺す」
魔法弾を連発で打たれたが、空は拳ですべて跳ね返した。
「ち、仕方ねぇな」
空はわくわくと笑いながら構えた。
「俺が相手だ」