下1
家の横の広大な農場での仕事を終え、優雅に紅茶を飲むクリス。
「クリス・・」
ヒカリがおずおずと建物の影から顔を見せた。
「ん、どうしたの?」
コップを置きながら訊ねれば、ヒカリは頬を染めながら聞いた。
「お膝の上に、すわっていい?」
「いいよ、おいで!」
ヒカリは嬉しそうにクリスの膝の上に座った。クリスは嬉しそうなヒカリの頭を撫でながら、疑問を口にした。
「どうして、私がオリジナルってわかったの?」
赤ちゃん達のお世話や、家の掃除、お菓子つくりをしているクリスは、クリスのコピーであり、ここでのんびりしていたクリスがオリジナルだった。
「分かるよ、だってお母さんだもん」
ヒカリは、春の木漏れ日のような暖かく輝かしい微笑を見せた。
「・・・ヒカリは、そのうち春の女神の称号を手に入れるかもしれないわね」
「?」
クリスはヒカリの頭を撫でた。
「ヒカリ」
「なぁに?」
「アナタは賢いから、先に教えておくわね」
クリスはヒカリに耳打ちした。
「神は神であるが、神は神を越えれず、人より優れている人、それが神」
ヒカリはクリスの顔を不思議そうに見たが、クリスは微笑んで紅茶を飲んだ。意味は自ずと分かるだろう。そういう顔で
「天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らずという言葉を残した人間が居たわね。大きな挫折や苦しみ、罪を認め、受け入れた本当の人間らしい言葉だわ」
風がそよそよと吹き、花びらが散った。
「果てしなく時間は流れるな、誰か特定なわけでなく。永久に」
「リン」
木の上からリンの長い紫色の髪の毛が垂れる。
「俺さ、たまに思うんだ」
「何を」
「お前さ、なぁーに考えてんのかなって」
葉っぱで作った草の妖精を手のひらから放ちながらリンは消えた。
クリスは鼻で笑った。
「何を考えてるかって?おかしなこと聞くね」
クリスは指を鳴らして葉っぱの妖精を花の妖精に変えた。
「考えない『我』なんて有り得ないわ」
ヒカリは温かい日差しに眠気に襲われたらしく、目をこすってクリスにもたれた。
「よしよし」
優しくその頭をなで、クリスは子守唄を静かに歌った。
「天界ほど、曖昧なものはないのよ、リン」