中
「人間界にさ」
「うん?」
「人の恋路を邪魔するものは、馬に蹴られて死んじゃうってらしいわ」
「へぇー」
12の女神達はそれぞれ望遠鏡を取り出し、ヴァニラの行動を除いていた。
「私達、邪魔なんてしてないわよ」
ルミは小声でリーファを諭したら、横からアイリーンが頷いた。
「見守ってるのです、ですです」
「見守ってる、ねぇ」
ラッカはなんともいえない表情をしてから、木の上に居るリンとクリスを見上げた。
「本当に、見守るだけのつもり・・?」
「マサカ」
リンは望遠鏡を顔から離して笑った。
「こんな面白いイベント、ただ見てるだけじゃ面白くないだろ?」
「ばれたら殺される、ばれたら殺される」
「ルカは臆病ねー」
クリスはスカートの裾を持ち上げて、木からおりた。
「大丈夫よ、ヴァニラは許容範囲超えたら溶けるから」
「?」
「ふっふっふーそのうち分かるって」
クリスは魔法で姿を見えないように全員にかけた。これでストーカーがしやすくなった。
「じゃあ行くか」
「あぁ、でも皆わかってるとおもうけど」
クリスは人差し指を立てた。
「ヴァニラだって、伊達に高位官じゃないんだから、着かず離れずでいきましょう」
「おう」
「美しい友情だねぇ」
「ウィルマ・・置いていくよー」
一方ヴァニラはヴァニラで警戒していた。
(あの人達が調子乗ってしまったら、こちらの殺気もものともせずキット高みの見物にくるはずです)
そうなったら理性が持つかどうか
(嗚呼、でもあの方の目の前で鬼になどなれない、けれど、あざ笑われるのは趣味ではないですし)
警戒というより、悩んでいた。
せっかくこれからデートだというのに、クリスさんたちのせいで、憂鬱になってしまった。12神の中で結婚できないナンバーワンという汚名まがいの予想を覆すチャンスだというのに・・。
邪魔されては、それが現実のものとなる・・それだけは避けたい!!
「あれ?ヴァニラ難しい顔で天下街にいったぞ?」
「キットこれからデートなのよ・・相手は誰かしら」
「イケメンちゅうのは、確実やな・・ヴァニラ面食いやし」
ラゴウの言葉に頷く。
「ヴァニラと付き合うだけの穏やかな人物ってことだな」
ウィルマの予想に加え、エレストも補足した。
「あの礼節を重んじるヴァニラだから、そこそこの身分で、礼儀正しい、イケメンだろうな」
「あーもう」
リーファは手を組んだ。
「わくわくするー!一体どんなひとなんだろうー!!」
「し、こっち向いたわよ」
ヴァニラは不安を消せないでいた。
(まさか、あの木陰に隠れて・・いいえ、もう少し仲間を信用しましょう、曲がりなりにも最高位の女神、12神の称号をもつ方たちが、ごぞって高みの見物なんて・・してそうで嫌です・・)
溜息をつきながら、約束の場所にいく。
「図書館前?」
「お、誰か座ってるわよ」
ラッカの言葉に皆は身を前に乗り出した。
「あ。あいつ」
「ん?リンしっとんか?」
「あぁ、確か・・名前は・・」
ベンチで読んでいた本を閉じると、彼はゆっくりと立ち上がった。優雅な無駄のない動作・・ありきたりな日常行動の中でも、こうも美しいのはこの方しか居ない・・
「どうかしましたか?ヴァニラさん」
「あ、いいえ、少し・・」
見惚れてました・・だなんていいそうにならないで私!!!!
「少し・・?」
「いえ!なんでもございませんわ」
「そうですか、では、今日は予定していた通り、森の奥にある鍾乳洞を見に行きましょう」
「はい」
二人並んで歩けば、身長差がはっきりと出る。魔法で身長を伸ばしてもいいけれど、ありのままの私を見てほしい・・あぁ、この考えをクリスさんたちに読まれた暁には、舌を噛んで死ぬしかないですね
「だって」
覚の女神のウィルマは神の心すら読み取れる。
さっきの心の声を一言一句漏らさずに伝えたので、案の定女神たちは笑いで悶絶していた。
「チビなの気にしてたんだぁー!あっはっはっは!」
「ヒーヒー!!っていうか、心の声超ピュアなんですけど!?」
「腹ぁよじれてまうわー!!げらげら!」
クリスはリンのほうを見た。
「あれ、イル・ヴァージンね」
「確か、あいつ世界の理の書に興味を持っていたな」
「私達は強制管理しているあの本に・・?」
二人は並んで歩く、恋人を見た。
「・・・・まさか、本狙いってことはないわよね」
「ウィルマ心の声は読めるか?男のほう」
「うむ」
ウィルマはイルを見据えた。第三の目が開く。
「・・・・見えん」
神を越えた!?
「ますます怪しいわね」
「・・・・あぁ」
(何だアイツ・・やけに無心だな、不自然なぐらい平常心・・おぉ)
ウィルマは手を打った。
「もしかしたらアイツ」
「ウィルマー置いていきますよー?」
アイリーンの声を聞いて急いで追いかけていった。
ちょっと待ってよー