音と覚
聴覚や音感覚をつかさどる『音』の女神アイリーン。彼女は12神の女神の中で最も心穏やかな人であるが、自分の耳に耳障りなものが入ると音を発狂させる、悪い癖があった。故に彼女は悪魔属性であった・・。
アイリーンの住む『麗響殿』には最近意外な客が住んでいた。それは・・
悟り、心理、人の心をつかさどる『覚』の女神ウィルマ。
人の心を熟知しその人の性格すらも見通すことのできる彼女は、いろんな神々の相談役として有名、故に天使属性であるが、あんまりにもいろんなことで相談されすぎて耳年増になってしまい(神は長生きだからあながち間違ってはいないが)うんざりしたので最近はアイリーンのところでお世話になっていた。
クリスとリンは神殿の一番高い塔の上で座り込んで会話していた。
「ウィルマが『鐘鼓殿』にいないからおかしいと思ったのよね」
「まさかアイリーンとこにいたなんてな・・都合いいんだか悪いんだか・・」
「そうねー」
ううむとふたりは同時に唸った。アイリーンにウィルマ・・ともに何かに執着の持つことのない女神であった。なので交渉するのは難しい・・お願いする前に話を聞いてもらえないのでは手の打ち様もないし
さてどうしようか
「どうするよ」
「そうねぇ、・・・・。そうね」
クリスは可愛らしく首をかしげた後にぱっと笑った。
「拉致る!」
「・・まーできるならそれでも良いけど」
リンはいい加減突っ込むことを止めた。
「じゃあクリス村に帰って召喚しましょう」
「そーだな!・・・・なぁクリス?」
リンは真剣な顔でクリスを見た。
「一々俺らが出向かなくても、最初から召喚したら良かったんじゃねぇの?」
12神は同等の力を持つが、クリスとリンはエデンを支配することのできる権力がある。即ち12神より上だからいつでも無条件で召喚できるのだ。
「あのねぇリンちゃん」
クリスは指を鳴らし、クリス村に移動した。
びゅぉぉぉおおおおおおおお!!!
村は突風で巻き上げられ、何人かの村人は吸い出されて行った。
「皆一気に呼んだら皆から責められるでしょう?」
「あ、そっかー」
「「「そっかーじゃなぁーい!!!」」」
叫び声にビックリして振り返ると村人がいた。木やら何やらに必至にしがみついている。
「仲間を呼びにいくは良いけど、ちゃんと穴塞いでから行けよ!!!」
村人がそう叫ぶとクリスは穴をみた。
そういえば簡易処置だけしてきてたっけ?壊れるの思ったよりも早かったようだ。
「・・ふ、ここで消え去ってしまうならそれは天命だったのよ」
「天界でそんな定めはないでしょう」
「ヴァニラ五月蝿い。飛んでいくほうが悪いの!」
クリスは頬を膨らませツーンとそっぽを向いた。
この我侭自分主義女神が!!
「で、クリス・・ボクはなんで呼ばれたのかな」
「ワタクシも、気がついたらここに居たですの」
アイリーンとウィルマは不快ではないらしいが、とにかく不思議で堪らないらしい。
「あんたらこれからクリス村に住むから。さー風穴封印しましょー」
「「えぇ!?」」
流すのと同じのりで凄いことを言い逃げた。
もう突っ込むのも疲れた12神はクリスについていき、広場に着いた。
「さー並んでー」
12時の方角に『光の女神』クリスが立つ
11時の方角に『氷の女神』ヴァニラが立つ
10時の方角に『水の女神』ルミが立ち
9時の方角に『土の女神』ラッカが立ち
8時の方角に『金の女神』エレストが立つ
7時の方角に『覚の女神』ウィルマが立ち
6時の方角に『闇の女神』リンが立つ
5時の方角に『雷の女神』ラゴウが立ち
4時の方角に『風の女神』ルカが立ち
3時の方角に『草の女神』リーファが立ち
2時の方角に『炎の女神』ラオが立ち
1時の方角に『音の女神』アイリーンが立ち
風に飛ばされまいと必至にしがみついている村人達は、不思議な光景を見ることになった。
キラキラキラ・・星の粉でも舞うかのような和らげで美しい光。何処からもなく響く美しい幻想的な交響曲が流れ、音に導かれるように花びらが女神達を飾る。そうして女神は踊りだした。
ふわ・・大地が光を発し空は色々な輝きを見せ、精霊や大気他の神々が喜び見物にやってきた。
「綺麗」
エリンは素直に感想を言った。
壊れて穴が開いた結界が徐々にふさがれていき、新たな結界として強化した。少しして彼女達はころよしと判断したのか全員が同時におじきをしてダンスを止めた。
「どっはぁー疲れたわいなぁ」
最初に声をだしたのはラゴウだった。
「やはりこういうのは正式な服に着替えないとですね」
「まーまーヴァニラ良いじゃないの、成功したんだからさ!」
空に変化が生まれた。
「わ・・雲だ!あ、風も吹いてる」
「ルカやエレストが来たからね、リーファの効果で村のところどころに草木が生えたし・・ラッカのおかげで野菜が育ちやすくなったわ」
クリスは嬉しそうに笑った。
「村長のクセに自分のコトバッかだな」
エースはボロボロの格好でそういうとクリスは首をかしげた。
「あたしの村なんだから当たり前じゃん?」
こ、こいつ!
「あたしの村では宗教は一つだけね!『唯一神のみ信じることを許可する』」
「ほー」
リンはクリスの首根っこを掴んだ。
「して、その唯一神様のお名前は?」
「『クリス』ちゃん」
ペコちゃんのように下をぺろっとだした。
「「「「ふざけんな!!」」」」
「11神もいるのに私達の存在否定ですか貴女!!」
「いーじゃん、どうせヴァニラなんて誰も支持しないってー」
「ふ」
こぉぉぉ、氷の吹雪が吹き荒ぶ。
「ふざけるのもたいがいになさい――――っっ!!!」
「きゃあ―――ぁ(棒読み)」
新しい仲間を見ながら、村人達は先を不安に思うのであった。