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歴史物が好きな人はココの章をとばしてください。
「クリス遊びに行こうぜ」
「どこに?」
「人界」
「はいはい」
クリスは先ほど摘んだばかりの花束を魔法で凝縮するとそこから垂れ落ちる汁をビンの中に閉じ込めて蓋をした。
「さ、行きましょうか?」
「おう」
クリス村を出て人界へと降り立つ
「あら?時代ずれたわ」
「江戸か戦国か?」
頭にちょんまげつけた男が堂々たる風格で歩いていた。
「じゃあ私達も」
町娘の格好に変わると歩き出す。
「お団子でも食ってくか?」
「じゃあ私みたらし、リンのおごりで」
「まじか!」
お茶屋に入るとガッッシャーン!と机がひっくり返った。
「ちゃぶ台じゃないわよ」
「分かってるだろ、ンな事しかもそのネタ後世だし」
悲鳴が上がる、ぼさぼさヘアーのきったなーい侍が刀を振り回していた。
「下級侍だと馬鹿にしやがって!お前だって下級じゃねーか!あぁ!?」
「貴様と同じにするな!我が家紋はお前のところのように色あせておらぬ故にな!!」
「なんだときっさっまぁああああああ」
悲鳴が上がり、人々は逃げ惑う
「ん?」
クリスは逃げていく人々を見ていたから気がつかなかった。・・剣の刃が自身に向かっていることを
「お嬢ちゃんあぶねぇ!」
「きゃあああああああ」
・・ドス
「おげ・・え・・ぇう」
ドサ・・腹に一瞬でもぐりこまれ内蔵を打撃された侍は反吐を吐いて倒れた。
「だ、誰だオヌシ」
リンはにっこりと微笑むともう一人の侍の顔を平手で二回叩いた。そして二人の侍の首根っこを掴むと投げ飛ばした。
「おぉぉ」
歓声が上がる
「おっちゃーん、みたらしとお茶、ニ個づつ!」
「へ?へ、へぇ」
「リン」
クリスはリンの耳を掴むと引っ張った。
「いただだ!?何?」
「ずらかるわよ」
「なんで?」
クリスは目を流した。その先の遠くには白い馬に乗ったお奉行様がいた。
「ね」
「なぁる」
二人はお偉いさんに背を向けた。
「「ずらかろう」」
すたこらさっさー
上手く逃げ切れた二人は再び町を歩いていた。・・と、後方からけたたましい音が聞こえてきた。
「うわぁああああああああ!!」
見れば後方から暴れ馬が駆けてきた。
リンは目を光らせ、手を上げる。
「ヒヒーン!!」
馬が止まった。
「ん?リンちゃん馬に子どもが乗ってるわよ」
「あ?お前どこのチビ?」
「っ」
子どもが目を開けた。芯の強い子どもの目だった。
リンはにやっと笑った。
「いい目だ、オメー名は?」
「無礼者!オヌシが先に名乗れ」
「リンだよ」
「オヌシ、忍者か?」
「お前が次は名乗れ」
質問に答えないリンに対し、子どもは一瞬憤慨したような顔をしたが、素直なので頷いた。
「俺の名は吉法師!尾張国の武将の織田信秀が息子」
「リン、この子」
「あぁ」
リンはにやーと笑顔を作った。
「お前俺のこと忍っつったな?俺がなってやるよ、オメー専用の忍者にな」
クリスは溜息をついた。絶対このお遊び長いわ・・。それにこの子も・・
・・・
・・
・
リンは本当に忍者として動き回る、織田のために・・。
クリスは暇なので万千代と呼ばれる少年の育成を携わった。
「いーい万ちゃん、事を急いでは必ず失敗する、一番賢いのはしかと周りを確認し、情報を集め、判断することが大事よ?」
「わかりました・・あ!」
目をキラキラとさせたので、何だろうと顔を上げれば、そこにホトトギスが一匹いた。
「可愛いねー」
「なかぬかなぁ?」
「そうねー鳴かないかしら」
しかし一向に鳴く気配が無い。クリスはお茶を飲みながら待っているが、子どもである万千代はそわそわとしだした。
「まだかのぅ」
「そうねぇ、でもね万ちゃん『鳴かぬなら、鳴くまで待とうホトトギス』・・よ」
「?」
「無理に鳴かせても風流じゃないわ、ゆっくり待ちましょう」
シュン!
≪ぎゃ!≫
鳥が射殺されて落ちた。
「・・リーン」
「俺じゃねーよ、討ったのはね」
「・・」
吉法師はにやりと笑った。
「万千代!ウぬが鳴かぬホトトギスを待つというのなら、俺は射殺すまでじゃ」
「題して『鳴かぬなら殺してしまおうホトトギス』だな」
「吹き込んだのリンでしょ」
「まぁなー」
リンと少年はアーッハッハッハと大笑いを浮かべた。
(まぁ、リンはいいけど、あの子)
クリスは吉法師を見た。
(少し、リンに懐きすぎね・・いずれ・・身を滅ぼすかもしれないというのに)
所詮親友と呼べるものになったとしても、リンは悪魔。
裏切ることは、造作ないこと・・。
・・。
(別にいいけどね)
世は因果応報に回る、その殺生を行えば行うほど、お前に戻る。
悪魔はその報いを受けるものを見るのがダイスキ、だからこそ、人を誑かす・・。
天使はその様をみて、溜息をついた。
昼間の街の活気はどこへやら、今は闇夜に照らされた月が己の存在を炯炯と主張する。闇夜の影を練り歩く女性を、誰かが射抜くような眼差しで見ていた。
「ヤツだな」
「あぁ」
二人の怪しげな影が闇の中を飛び交う。二人の狙う獲物は髪の長い美しい鴇色の着物を着た女性だった。二人は同時に目配せをすると剣を持って襲い掛かった。
「死ね!」
女性が振り向く。
「何!?」
その顔は、笑っていた。
ビュン!避けられ空を切る、急いで立ち回り一太刀を食らわそうとしたが、そこに彼女の姿は無かった。
「な」
「ねぇ~?」
二人組みは動けないことに気がついた。気がつけば体中に糸のようなものでグルグル巻きになっていた。
「暗殺ってのはさ、素早く迅速に話さず気配を気取られず殺るもんだよ」
いつの間にか彼女は屋根の上に移動していた。
「おのれ、織田の女狐め」
「おんやおんやぁ~面白いあだ名ついたねぇーでも覚えといてくれねぇか?」
月夜に炯炯と光る瞳が敵に圧倒的な圧力をかけた。
「織田の女狐じゃなく、天下の女忍者・・リンってな」
「おのれぇー!!」
「リンちゃん昨日の夜わざわざ遊びにいったでしょう」
「だってー今朝から見張ってくれるんだもん、挨拶しなきゃ駄目だろう?・・てかさ」
リンはうんざりした顔でクリスを見た。
「お前なんでこんな世界でも書物に明け暮れてんの?」
「どんな世界でも知識は欲しい」
リンは真似できないなと心底思った。
「ところでリン」
クリスは書物を元の場所に戻すと、胡坐を組んだ。
「もう飽きたんでしょう?どうするのよ、織田の大将信長は」
「しんねー」
あれから数年も立ち、二人のワッパは立派な大殿になった。信長にいたっては天下を狙い着々と勢力をあげていっていた。
安定したものに興味は無い、これがリンの性格だった。
「帰ろうぜ」
クリスは溜息をつきつつ頷いた。
本当、・・わがままね
そして、数年が後、彼は明智光秀に討たれたのであった。