中
ある日のことであった。
普段はめっきり人など来ない山に珍しくある徳の高い旅人が訪れた。老夫婦は彼を快く歓迎した。
「おいしい食事をいただくことになりまして、ありがとうございます」
「いやいや、まったく何も無いところですがどうぞ。おぉ、紹介しておきましょう。我が子らです」
おじいさんは二人を紹介した。旅人はクリスをみて微笑んだ。
「あぁ、なんて良い子なんでしょう。おじいさんこの子はきっと二人に幸福をもたらすでしょう」
クリスは人見知りをする子ではあったが、外面は良かったのでとりあえず旅人に微笑んだ。
そして、旅人はリンをみて眉を顰めた。
「おじいさん、この子は不吉です。この子からよからぬものを感じます」
「なんて事を言うんだ!」
おじいさんは怒鳴り上げたが、旅人は睨むようにリンをみた。
「おじいさん、この子は……」
カァ、カァ
「リーンちゃんめーっけ」
森の中で、めそめそ泣いているリンをクリスはやっと見つけた。
「もう、やっぱり泣いてる。なーにが『子牛みてくる』よ、おじいさんも心配してたよ?あの旅人ももう行っちゃったし」
「……ぐす、ずず……ひく……だって、だってリンが泣いたらクリス『ウザッ』って言うから」
「ウザ!!その根暗根性!!ちょーうざい!」
「!!!(ガーン)……うぅぅ、うぅあああああああああああん」
リンの泣き声は山を木霊した。
「あぁ、もう泣くな!!」
クリスはリンの両頬を叩いた。リンはポッカーンと口を開いたまま目をぱちくりさせた。
「リンちゃん好きよ」
「ぅえ?」
「誰がなんていおうと、リンちゃんが何者であろうと。好きよ」
「うぅぅ、クリス―――!!」
二人は手を繋いで帰っていった。
「ま、私の意志に反しなかったらだけどね」
「なんか言った?」
「なーんにも?さ、帰りましょう」
がさ
「……………」
にやり
「おはようクリス」
「おはようリン」
二人は今日も元気良く朝の運動を始めた。
「二人ともおいで」
「はーい」
老夫婦に呼ばれ二人は素直に駆け寄った。おばあちゃんの腕にはかごがあった。
「今日は二人だけでピクニック行ってきなぁ」
「え?」
「いつもいい子に働いてるご褒美じゃよ、じいちゃんらが仕事しよるから気にせんでええ」
「……」
クリスは黙り込んだ、おばあちゃんはそんなクリスの手のひらの上にかごを置いた。
「あぁ、ついでに山の山菜も沢山採ってきてくれんかの」
「いいけど……」
クリスの頭をおばあちゃんはそっと優しく撫でた。
「ばあちゃんらのぶんも、楽しんでおいで」
「……はーい、いこ!リンちゃん」
「うん」
老夫婦は優しく微笑んだ。
それが、二人の見た愛しい人の最期であった。
「……う、うわぁあああああああああああああ!!!!」
どさっ
リンの怒号の叫びと、クリスの絶望の脱力。
二人の目の前で老夫婦は見るも無残な姿で殺害されていた。それだけでなく家も、小屋も、野菜畑も、すべて何もかもが破壊されていた。
「くぅん」
「!ポチ」
老犬がよろよろとリンに近づいた。
「くぅん」
ぺろ、一舐めすると静かに倒れて、二度と動かなくなった。
「ポチ!……うぐ!?」
「リン」
犬を抱いていたリンの身体が浮き、壁にぶつかった。クリスは憎しみの目をもって醜い大人を睨んだ。
「おい、こんな所にチビが居たぜ。殺るか?」
「いや、待てよ。このチビ綺麗な顔してるな」
山賊の一人がクリスの顔を持ち上げた。
「まさかこんな辺鄙な山に人が住んでるなんてな、泣き声が聞こえたんでまさかと思ったが」
「うぅぅ」
「泣き虫はコイツみたいだな」
リンの頭を男は踏みつけた。
「うう、リンのせいで……おばあちゃん達、殺されたの?」
「そうそう、はーはははははは!!」
「ちがう!リンちゃんのせいじゃない。悪いのはこの蛆虫どもだよ」
ぐい、
「きゃ!」
クリスの金色の髪を男は乱暴に持ち上げた。
「こいつ、女衒に売ったら高そうだな。……連れて行け」
「人を売る気!?」
暴れるクリスを二人かがりで押さえつける。
「クリス!」
「こいつは?」
山賊たちはリンをみてあざ笑った。
「紫の髪の女かぁ、いらねぇな。いらねえ」
「!!」
リンの首に刃が突きつけられる。
「死ねよ」
「!」
「りぃぃーん!!!!」