来なすった
風がそよそよと通り過ぎていき、ルミとルカは壊してしまった村の修理に勤しんでいる。
その様子を腕を組みながら見張るヴァニラは、己の家の屋根の上に立ってどこかを見ているリンを不思議に思いながら草むしりをしているクリスに声をかけた。
「リンさんはああして何を見ていらしてるんですか?魔法でも使えばあそこ登らないでも見えますでしょう?」
「そうね」
手を払い、軍手をのける。クグリが持ってきたおしぼりで手を拭きながらクリスはルミとルカに暇を与えた。
「リンは魔法を使わないでも遠くが見えるから、きっと魔法では見えない何かを見てる……というより、探してるんじゃない?」
「何か、とは?」
「聞いてみたら?」
空に鉄龍が隕石のように落ちてきて、その下にちょうどいたのか狙われているのか針龍とぶつかり、金属の音が村中に響き渡る。
その音に子どもたちはおやつの時間だーっと家に帰って行く。
「……」
「リン」
クリスが声をかけると、リンはクリスのほうへ片手をあげた。
「どうやらお目覚めのようだぜ」
と、言うや否やクリス村は突如厚い紫雲に覆われた。
まるで月も太陽も、どんな光も拒絶するように結界のをじわりじわりと侵食していく。
「これは!」
闇色の雲の隙間から金色の雷鳴が轟き、なんだか分からぬ危機感を察した村人は台風の時と同じ準備を綿綿と始める。その様子をラッカは呆れたように見つめた。
「嫌な順応の仕方ね」
「でもさ、いったいなんだっての?」
リーファはリンを見上げた。
「あんたがやったの?」
「俺がそんなことして何のメリットあるわけ?」
リンは屋根から降りてきた。
「おやつ抜きにされるじゃねーか」
「残念ねリン。こんなときだからおやつ抜き」
「んな!?」
「緊張感のない人たちですね!!」
まったくと言いながらヴァニラは二人の頭を殴った。
と、空を裂き、割れた空間から二人の女が降臨する。
その容姿はまるで精巧に作られた人形のように淡麗で、何の感情のともらない瞳を宿し、こちらを品定めするような目でじとりと見つめてきた。
「……へぇ」
エレストは興味深いものを見つけた子どものような声を出した。
「おいクリス」
「何?」
「アレは古き者というより、封じられし者というものか?」
「さぁ?私は知らないわ。アク!クスリ!いるんでしょ。でてこい」
テレポートで現れた母達は苦い顔をしている。
あれがなんなのか、知っているようだ。
「……否」
名もわからぬ神がつぶやく。
「否、我らが国。我らが世を再び、我が手に」
「応、我らがモノ、返上戴く」
二人が手をこちらに向けた。
「――――っ」
「「散れ」」
二人の手から閃光が迸り、クリス村を包んだ。
「!!!」
壮大な爆発音と、空間の破壊される音だけが響き渡った。