内緒の悪魔
愛情を受けたら、受けた分だけ人を愛し、心に余裕のある人間が生まれるが
虐待を受け、愛をもらえず、ただ悲しみを溜めた人間は、ただ愛を渇望し、愛を嫌い、愛に殺意を抱く。
その子がどんなふうに育つかどうかは、受けた愛情次第だろう。
「なんだ、うれしそうだな」
リンは紫色の髪が風になびくのを、目に入らないように手で払いながら、同じように風になびく髪を抑えている女に声をかけた。
女は後ろを振り返り、笑顔を見せた。
「嬉しいんじゃなくて、機嫌がいいんだ」
オレンジ色の髪の女。男の姿であるオレよりも短い。
「へぇ、どうでもいいや」
「もう少し、僕に興味もってくれてもいいんじゃないかなぁ」
拗ねたように横にはえていた草を握りしめ引っこ抜く。
「お前、草だって生きてんだから抜いてやるなよ」
なんつって。俺が言えたぎりじゃねーけど。
そいつは素直に俺の言うことを聞いて草から手を離した。
いつもは森で山菜を取っていたのに今日は丘のところで空を眺めていた。別に探さなかったからいいけど。
「リン」
抱きついてくる。
いつもだ。
「ん?」
「今日はカレーだよ」
「やだ。別のにしろ」
わがままを言ったのに、うれしそうに頬を染め、満面の笑みを浮かべる女。
「でも、ボク今日はカレーの気分だったんだけどな」
「知るか。オレ昨日カレーだったもん」
えーっといいながらあの顔は献立を考えている顔だ。
俺が拾った女。
異次元を渡り歩いていたら、心の折れた悲しみの匂いがした。なんとなく引き寄せらるようにそこへ行けば、この女がいた。
血まみれで、ボロボロで、裏切られた人間の闇の叫びがあった。
人間臭くてちょうどいいな。手を貸したのは気まぐれだった。
「わるくない」
食べるのも、気まぐれ。
「いっつもそうだね、おいしくないの?」
「食材に感謝だな」
「僕の料理の腕に関しては無視!?」
「質素」
「がーん」
落ち込んでいるけど、どうでもいいや。
「リン」
「あ?」
「いつまで今日は此処にいる?」
「帰るわ」
「早っ!」
立ち上がると、悲しそうな顔を見せた。
嫌いだなその顔。
「ふぐ」
顔をつかむ。
「また来るよ。気が向いたらな」
お前は俺のおもちゃ。
みんなに内緒のおもちゃ。
また壊れるなよ?
「遊んでやるから」
みんな忘れてるけど、俺は、悪魔なんだぜ。