回らないお寿司
本作はカクヨムの「1分で読める創作小説2025」に投稿した作品です。
ひとときほっこりしていただけたら嬉しいです。
貧しくないけど、裕福ではない我が家では、週末に家族みんなで、よく回転寿司に行っていた。
いわゆる「正統派の寿司」ではないけど、僕も妻も小学2年生の息子も、みんな回転寿司が大好きで、みんなで楽しんでいた。
そんなある日、僕たち家族が回転寿司を楽しんでいることを知った元寿司職人の義父は、とても嘆いて、孫に1度くらいはきちんとした「本物の寿司」を食べさせた方が良いと忠告をしてきた。
僕は、みんなが美味しく食べられればよいように思ったけど、妻が間に挟まれて対応に困らないように、義父が納得する高級寿司店に息子を連れて行く約束をした。
すると、義父は大張り切りで、昔馴染みの仲間の中から、これは!という名店を選び抜き、予約を取ってくれた。
当日、義父母、僕ら夫婦、それから息子が店を訪れたが、息子は初めての高級寿司店に、かなり緊張した面持ちだった。
頑固一徹を絵に描いたような店の大将が最初にヒラメを握り、醤油につけて食べようとする息子を手で制し
「坊ちゃん、まずは「塩」でお試しください。」
と自信満々に言った。
そのとおり、息子がヒラメを塩でいただくと、大将は、ずいっと顔を寄せ
「どうです、坊ちゃん?」
と、これまた、自信満々に尋ねた。
極度に緊張した息子は気まずい顔で言いにくそうに
「し、塩の味がします。」
と答え、静かな店内は、さらに静寂さを増した。




