第7話 初めての贈り物。
譲渡先で一通り説明を終える。
いくつか質問に答え、食事のレシピを渡す。
「仔犬はみんなかわいいんですが、いつか大きくなります。大事に育てて下さるとうれしいです。ただ、どうしても飼えない、ということがあれば必ずご連絡ください。うちで引き取りにまいります。」
最後に必ず、そういう。
どの子も幸せとは限らない。
散歩もブラシもしてもらえずに、半径1メートルくらいの世界で一生を終える子もいないわけではないから。
今日のお宅は、小さなお子さんがいて、その子の遊び相手になるようだ。
犬は裏切らない。最後の最後まで、その子が大きくなって犬のことに興味が無くなっても、声さえかけられなくなっても、何年離れていても、その子を愛し続ける。
両親に見守られて、仔犬を大事そうに抱きしめた男の子が、
「名前がいるね。カイ、カイでどうかしら?」
そう言って仔犬を見つめて笑う。
「いい名前ですね。初めての贈り物です。」
*****
「フェーベ侯爵家にプードルがいただろう?」
帰りの馬車で父が思い出したように話し出す。
「お前と届けに行ったときに、ユーリはもっとびくびくしてたな。どうしていいかわからない、って感じだったな。ふふっ。」
「え?」
「奥方があの子を産んでから、体調が悪くて寝たり起きたりだったから、愛犬クラブに息子のために犬が欲しいって言ってきてな。俺はシェパードを勧めたんだけど、顔が怖くていやだと言いやがった。で、クラブ員からプードルの仔犬を預かってきて、一緒に届けに行っただろう。覚えていないか?」
「・・・いえ。」
「そうか。ふふっ。お前はまだ5歳ぐらいだったかな。さすがに覚えていないか。犬の飼い方を一生懸命あの子に説明していた。で、俺がお茶に呼ばれている間中、子犬とあの子とお前とで一緒に転げまわって遊んで…」
・・・いえ。さすがにさっぱり覚えていませんが。
「奥方が喜んでな。母親が病弱だったせいか、外に出たがらない笑わない子供だったから。」
「・・・じゃあ、お母様は?」
え?弟妹がいたし。ユーリの実のお母様亡くなった?じゃあ…後妻の方??
「ああ。犬が来てから外に出たり散歩に行ったりするようになったら、すっかり元気になってしまってな。そのあと、弟妹が生れた。」
ああ。なるほど。
「しかもな…奥方はプードルが一番かわいいとほざいて、愛犬クラブにプードル部門を作りやがった。犬に服なんかいらねえ!って俺は思うが、まあ、お互いに幸せならいいかな。」
「・・・・・」
「その時な、お前はお気に入りの赤いワンピースを着ていた。赤い髪飾りと。」
「・・・・・」
「プードルの仔犬の初めてのプレゼントは、アン。お前の名前を貰ったみたいだぞ?」
「え?」