第6話 そっくりなんだ。
おかしいと思ったわ。
いきなり、黒髪の王子様みたいな人に運命の人だとか言われて…。
どなたかとそっくりらしいというのはわかったけど…。
そっくりなのが…犬?
そりゃあ、かわいかったわよ。大きなプードル。茶色のもこもこの。
耳飾りと首輪は、私が貰った髪飾りとチョーカーにそっくりで、赤いお洋服まで着ていたし。
はいはい。どうせ私の髪はもこもこですよ。プードル並みですよ。
椅子に座ったら、どっちがどっちかわからないくらい似ていますよ。
名前まで一緒だし。
だったら…犬と結婚したらよかろう。
一晩寝たら、夢から覚めたようにすっきりしたわ。
やっぱり、お父様に言って、愛犬クラブで働こう。
夕方には自領に着いた。
放してあるシェパードのマルコが走ってくる。
「ただいま。」
わしゃわしゃと抱きしめて撫でる。
そうね。人には向き不向きがあるんだわ。私は恋愛体質じゃないのよ。
いろいろと目をつぶって、見目麗しい旦那様を手に入れるなんて向いてない。
ちょっと、ほんのちょっとだけ、不器用な大型犬ぽかったから歩み寄っちゃったんだけど、気のせいだった。と、言うか、ユーリの頭の中が勘違いだらけなんじゃない?
・・・そういえば、餌付けしたがったり、ブラシしたがったりしてたな。
気が付かなかった…って、気が付くか!!!!弟妹も、なつくはずよね。家の飼い犬にそっくりなんだもの。
はあああああああ
やってらんないわ。
私だって、好きでこんなくりくりの髪型してるわけじゃないのになあ…。
かわいいって言ってたのになあ…。あ、プードルのアンちゃんに似てたからか。
はあああああああ
さ、仕切り直ししよう。
犬小屋からほかの犬たちも放って、夕方のお散歩に出かける。
ぶらぶらと歩いたり、一緒に走ったり…。
帰ってから、使用人と一緒に、犬たちに晩御飯をあげる。
「待て。」
のコマンドで、みんなよだれを垂らしながらもじっと我慢する。
「よし。」
だよね。お腹すいたよネ。
さて、私もご飯食べて寝よう。
明日からは通常営業だ。
翌日に帰ってきた父と、明日譲渡する仔犬について打ち合わせする。
貰われていく先の環境も確認したい。寝床の準備や、散歩する場所や。
仔犬時代に栄養が不足すると、骨格が弱くなってしまうので、ご飯のレシピも用意した。ブラシの仕方や、基本のしつけ。仔犬時代は大事。
人間に触られるのが嫌になってはいけないし、甘やかしすぎて言うことを聞かなくなってしまうと飼い主も飼い犬も不幸だし。
基本的にシェパードは穏やかで優しい。甘えん坊だし。
ただ、見知らぬ人や犬にはすごく警戒する。番犬として優秀な由縁だ。
いつも思う。
貰われていった先で、幸せに一生を終えれますように、と。