第5話 この子の身代わりなんですね?
学院のお休みに、ユーリウス様のご領地のフェーベ侯爵領までお誘いいただきました。馬車で3時間ほど。
道の両脇は見事な麦畑が続きます。見渡す限り、ですね。
フェーベ侯爵家の財力は、この穀倉地帯によるものですね。きちんと備蓄もされており、天候不順にもきちんと対処できる仕組みを作っておられます。大したものです。
ちょうどお昼に着くように出かけ、お屋敷で昼食。
ご両親と、ユーリ様の小さな弟妹をご紹介いただきました。
初めてお会いしたはずのユーリ様のご弟妹に、なぜだか大歓迎されました。
食後は、ユーリ様が止めるまで3人で遊びました。
「アンは僕の婚約者なんだからね。返して。」
「えーーーお兄様ばかりずるいです!!」
という会話をほほえましく聞いておりました。そして…
「アンに紹介したい子がいるんだ。」
(・・・・・)
帰り道は…あまり記憶がありませんでした。
*****
「どうしたの?アン。灯りもつけないで。」
ノックして部屋に入ってきたのは、母。
もぐりこんだ布団から、出る気力もない。
「長旅で疲れた?晩御飯はどうする?」
「・・・・・」
「アン?」
「・・・・・」
「どうしたの?」
「・・・お母様…この婚約、解消していただけませんか?」
「え?」
「私、明日、領地へ帰ります。」
*****
ユーリは今朝もご機嫌の様だ。
すれ違った生徒が、男女問わず、頬を染めて振り返って見る。
「おはよう。ご機嫌だね?ユーリ。」
「ああ。お義兄さん。おはようございます。」
にっこり笑われると、本題が吹っ飛んでいきそう。気を引き締める。それに…お義兄さん、って…。
「きのう…アンはお前の領地に遊びに行ったんだろう?」
「うん。父にも弟妹にも紹介できた。」
「で?」
「で?って?」
「そのあと、何かあった?」
「僕が小さい時から一緒にいる子を紹介したよ?」
「・・・女の子?」
「うん。かわいいよ。アンにそっくりなんだ。あ、アンがそっくり、というべきかな?うふふっ。」
「その子の名前も?・・・アン?」
「ああ、そうなんだ。うちのアンも赤が似合うんだ。」
「・・・・・」
思わずぶっ飛ばしそうになったが、なにせ校内なので我慢する。こめかみがぴくぴくする。
「そうか。うちのアンはお前との婚約を解消したいらしい。今朝早く領地に帰った。婚約の解消については父から書面が届くだろうから。じゃあな。」
「え?」
「もう俺にも話しかけるな。いいな?」
「え??ちょっと待って!!」
「そっちのアンと婚約でも結婚でもすりゃあいいだろう。そいつに似ているからって、うちの妹をからかうようなことしやがって!!」
「え?だって…うちのアンは…」
「犬だよ?」
「・・・・・え?」