火の国の都と王宮の陰謀
火の精霊イグナスの試練を乗り越えた昭人とアリスは、転移門をくぐり抜け、一瞬で火の国の都「フレアリオン」へとたどり着いた。
目の前に広がるのは、赤いレンガ造りの建物が立ち並ぶ活気ある街並み。大通りには屋台がずらりと並び、香ばしい肉の焼ける匂いが漂っている。
「すごい……これが火の国の都……!」
昭人は思わず息を呑んだ。異世界の都市を目の当たりにするのは初めてだった。
「私にとっては故郷だけど、こうして戻るのは久しぶりね。」
アリスは複雑な表情を浮かべた。
「とにかく王宮へ向かおう。契約の証があれば、アリスが正統な王族として認められるはずだ。」
二人は王宮へと向かい、正門の前に立った。巨大な門の前には、武装した衛兵たちが警戒を強めている。
「止まれ! 王宮への立ち入りは許可された者のみだ!」
「私はアリス・フレアリオン。火の国の王族よ!」
「なに……? 王族……?」
衛兵たちは顔を見合わせた。
「アリス様は、数年前に行方不明になられたはず……まさか……」
「証拠ならあるわ。」
アリスは手の甲を見せる。そこには、火の精霊イグナスとの契約の証である赤い紋章が浮かび上がっていた。
「こ、これは……精霊との契約の証!」
衛兵たちは驚き、すぐに門を開けた。
「お戻りなさいませ、アリス様! すぐに王へお知らせいたします!」
王宮へ案内された二人は、火の国の王「レオハルト三世」の前に立った。
「アリス……本当にお前なのか?」
王は目を細め、玉座から立ち上がった。
「ええ、お父様。私は戻りました。」
「しかし、お前は……」
王が何かを言いかけたその時、側近の一人が前に出た。
「王よ、この者は本当にアリス様なのでしょうか? 何者かが偽っている可能性もあります。」
それは宰相「グラディウス」だった。鋭い目つきの男で、火の国の政務を取り仕切っている。
「私が偽物だと? なら、この契約の証はどう説明するの?」
アリスは手の紋章を見せるが、グラディウスは冷静だった。
「契約の証を持つからといって、それが王族の血を引く証拠にはなりません。誰かが精霊を欺いて得た可能性もあるのでは?」
「なっ……!」
アリスが反論しようとしたその時、王が口を開いた。
「……アリスよ。お前が本物ならば、火の国の試練を受けるべきだ。」
「試練……?」
「そうだ。本来、王族が即位するには、火の国に伝わる試練を乗り越えねばならん。お前がそれに挑むことで、真の王族かどうか証明できる。」
「……分かりました。私はその試練を受けます。」
アリスは迷いなく答えた。
「ふむ。では、三日後に火炎神殿で試練を行う。」
王が告げると、グラディウスは不敵な笑みを浮かべた。
(これはきな臭いな……)
昭人は直感的にそう感じた。
試練までの三日間、昭人とアリスは王宮に滞在することになった。昭人は厨房を覗きに行くことにした。
「おう、あんた見慣れない顔だな。」
「俺は昭人。アリスと一緒に来た旅の料理人だ。」
「料理人? ほう、それは面白い!」
厨房の料理長「ガルス」は快活な笑みを浮かべた。
「王宮の料理ってのは、国の文化そのものだ。ここでは火の国の誇りをかけて料理を作ってるんだぜ!」
「なるほど……だったら、一つ試させてくれよ。」
昭人は厨房を借り、火の国の食材を使って料理を作ることにした。
「お、何を作るんだ?」
「スパイス煮込みのローストチキンだ。」
昭人は火の国特有の香辛料を調合し、じっくりと肉を焼き上げた。厨房には香ばしい香りが広がり、料理人たちが集まってくる。
「こ、これは……!」
ガルスが一口食べると、目を見開いた。
「美味い! いや、これはまさに火の国の味の極みだ……!」
「そりゃあよかった。」
昭人は満足そうに笑った。
「お前さん、ただの料理人じゃないな……」
ガルスは昭人を見つめる。
(王宮の料理人たちとも交流できた……これで、何かあった時に協力を頼めるかもしれない。)
昭人はそう考えながら、三日後に迫る試練に思いを馳せるのだった。
――火の試練の幕が、今開く。