お空の上のパパ
※ しいなここみ様主催『500文字小説企画』参加作品です。
良く晴れた休日の昼下がり。
僕は駅前広場の片隅で、缶コーヒーを手に一息ついていた。
僕の前を、様々な人たちが通り過ぎる。
そんな中、若い母親に手を引かれた4・5歳くらいの少女が、空を見上げてふと足を止めた。
雲ひとつない青空に、ひとすじの飛行機雲がゆっくりと伸びていく。
「どうしたの、みいちゃん」
母親が訝しげに尋ねるが、その子は何も答えず、ただぼうっと空を見上げたままだ。
やがて、その口からこんな言葉が発せられたのだ。
「ねえ、ママ。パパはあそこにいるのかな。今もお空の上から、みいちゃんのこと見てくれてるのかな」
──えっ? それってまさかそういうことなのか?
そのよく通る声に、周辺の人たちが一斉に振り返る。皆、同じことを想像したに違いない。
少女の父親に何か不幸があって、そしてまだ幼い彼女はそれをよく理解出来ていないのだろう。周囲に何とも言えない重い空気が流れた──。
それに気づいたのか、母親が慌てて少女に語りかける。
「今日のパパは新幹線で出張なの! あの飛行機には乗ってないのよ!」
母親が恥ずかしそうに少女の手を引き、そそくさとその場を立ち去っていった。
──良かった。パパは空の上に行ったんじゃなかったんだね。