衛星の心
ある日突然、東京に隕石が落ちる。
その隕石は明らかに人工物だった。
さらに驚くべきことに、中には冬眠状態の人間がいた。
2人の科学者がその人工隕石の正体を明らかにする!
衝撃のラストが待ち受ける。
「不味いぞ!ブラックホールが暴走している!
全員逃げろ!!」
アルモが叫ぶ。
船員はポッドに乗り込もうとしたが人工ブラックホールに吸い込まれてしまう。
「クソッ。
逃げ切れたのは…助かったのはヒミラだけか。」
そう言ってアルモはやっとの思いで1番ポッドに乗り込み、脱出をした。
「こちら1番ポッド。3番ポッド応答願います。」
アルモは震えながら通信機へ言う。
「こちら3番ポッド。
船長!みんなは?みんなはどうなったの?」
ヒミラが叫ぶ。
「すまない。助けられなかった。
助かったのは私と君だけだ。」
アルモが悔やむ。
「そう…
これからどうすればいいのかしら。」
ヒミラが言う。
「ひとまず助かったんだ。
無事地球に帰還することだけを考えよう。
地球に着いたら船員のみんなを弔おう。」
アルモは泣きそうな自分を抑えつけた。
「食料が積んであるのは1番ポッドだけだ。
君のポッドには食料がないからコールドスリープに入るんだ。
地球につくまで1ヶ月もかかる。
大まかな操作はこちらのポッドからでもできる。
地球に着陸する直前になったら君のコールドスリープを解除する。」
アルモが指示をする。
地球が見え、アルモが着陸準備をする。
「コンピューターが故障して操作できない!
ブラックホールの影響か?
クソッ。このままじゃ地上に突っ込んでしまう。
スピードが速すぎてこのポッドじゃあ空気抵抗で爆散してしまう。」
アルモが嘆く。
「このままじゃ2人とも助からない。
1番ポッドの核燃料をタイミングよく爆発させれば、ヒミラだけでも助けられるかもしれない。」
そう呟き、アルモは自身の人生の最期を覚悟する。
最期に3番ポッドにメッセージを残して。。。
「うわぁぁぁぁ!!!」
そう叫びながらアルモは核燃料を起爆させる。
1番ポッドの爆発により、3番ポッドは減速し、地球の衛星軌道上で安定した。
「一昨日3時頃、ここ国会議事堂正面の道路に隕石のようなものが落下しました。
地上との衝突時周囲へ爆風がありましたが、それ程被害は大きくない模様です。
見ての通り通行止めはここだけです。」
道路にできた直径約15mの穴を背に下っ端の警察官が上司へ報告する。
「落ちるんなら何もないとこに落ちてくれよ。
なんでよりにもよってこんな大都会で…」
と上役警官が愚痴る。
「でも、もっと莫大な被害が出なきゃおかしいって科学者が言ってましたよ。
聞いた話によると減速しながら落下してたんですって。
隕石は今研究所にあるらしいっすけど明らかに人工物っぽいって聞きましたよ。
宇宙人じゃないかって噂もあります。」
下っ端警官が言う。
「はぁ。バカなこと言うな。
どうせどっかの人工衛星だろ。」
上役警官が疲れた表情で言う。
「こんな人工衛星なんて見たことない。
それに通常は地上に届く前に消えてなくなるはずだ。」
工学研究歴20年の神崎博士がこの前落ちてきた人工隕石をいじりながら言う。
それは直径2m、長さ5mほどの円柱形であった。
「目撃者によると減速しながら落下したという報告もあります。」
神崎の部下である古賀が言う。
「まあ、いい。
これ調べといてくれ。」
神崎はそう言いながら人工隕石から剥がした金属を古賀に渡す。
人工隕石の分解を始めてから3日が経った。
神崎はバルブのようなものを見つけ、それを徐ろに回してみる。
すると、「プシュー」という音を立てながら人工隕石の重たい扉が開かれる。
神崎は驚愕した。
人工隕石の内部には今まで見たことのないような機械が壁一面に敷き詰められていた。
さらに驚くべきことに機械以外には女性の入ったカプセルが横たわっていた。
「なんということだ!」
神崎が叫ぶ。
ただならない雰囲気を感じ、古賀が駆けつける。
「なんですか?これは?」
古賀が言う。
人工隕石から女性の入ったカプセルは取り出された。そのカプセルはスイッチやレバーのようなものはなく、簡単には開かないだろう。
女性は、ショートヘアでSFに出てきそうな白いスーツを着ている。
神崎が人工隕石から剥がした金属の解析が終了した。
古賀が解析結果を神崎に報告する。
「えーっと、結論から言うとあの金属はまだ発見されいていない。もしくは地球に存在しないと分かりました。
それに、その金属に付着していた炭素から年代を調べることに成功しました…
えぇー、結果は1万年前から1万5000年前のものと分かりました。」
古賀が申し訳無さそうな顔で言う。
「そんなバカな。
当時の人類にそんな技術力…いや、現代の人類にも…
それに、存在しない金属でどうやって造ったんだ。」
神崎が困惑する。
「ひとまず、このカプセルを開けてみよう。
この人が何か知っているかもしれない。」
そう言って神崎は女性の入ったカプセルの前に立つ。
「強引に開けるしか方法はないのか?」
神崎は、あまりの特徴のなさに何をすればよいか分からなくなる。
シンプルすぎる。
白いベッドのような土台に透明な物質が被さって空間を作り、その中で女性がすっぽり入り、眠っている。
神崎はコールドスリープで冬眠状態になっているのだと考えた。
古賀が人工隕石の内部でスイッチのようなものを発見する。
「神崎さん!
スイッチみたいなのありましたよ。
どうします?」
スイッチのようなものに指を差しながら聞く。
「これか?
んー、押してみるか。」
神崎はそう言いながら人工隕石の内部にある機械を触る。
「爆発したりしないですよね!?」
古賀は震えた声で言う。
カチッっと音がする。
「何も起きませんね…」
古賀が安心したように言う。
すると、予期しない方向から「プシュー」という音が聞こえる。
「ヒャッ。な、なんですか?」
古賀が情けない声で言う。
「カプセルだ。」
神崎が言う。
カプセルの透明な部分が徐々に消えていく。
透明な部分が全て消えると、元からただの白いベッドであったかのように思えた。
神崎は、ベッドに横たわった人の肩を持ち、「おーい」と言いながら揺する。
「呼吸はしているし、生きてはいる。」
神崎がそう呟くとその女性は目を覚まし、起き上がった。
「ーーーーーーーーーーーー」
その女性は何か喋ったが、全く聞いたことのない言葉だった。
「コンニチハ、ワタシ、ミカタ」
古賀が自分のことを指差しながら言う。
「ーーーーーーーーーーー」
女性はまた謎の言語で答える。
怒っている様子はない。
こんな状況でも落ち着いている。
カプセルに入っていた女性が目を覚まして1週間が経った。
その女性は、好んで肉を食べた。
未来スーツではなく、カジュアルな服を着ているのももう見慣れた。
神崎は、古賀に日本語の教材を用意させ、女性に日本語を覚えさせようとした。
その女性は、熱心に日本語の教材を勉強した。
古賀は、人工隕石の研究よりも女性に日本語を教える時間の方が多くなった。
女性が日本語を話せるようになるのを待ちつつ、人工隕石の解析を続けた。
解析中、研究室に女性が入ってきて、パソコンやスマートフォンなどを熱心に観察していた。
「人工隕石の方が珍しいだろ。」と思いながら神崎は解析状況を表示しているパソコン画面を注視した。
すると女性は、神崎のパソコンの隣に、人工隕石の内部に有ったであろう機械を置いた。
「どうやって取り外した?」
日本語が通じないのは分かっていたが神崎は聞いた。
女性は、取り外した機械の同じ部分をずっと指さしていた。
神崎は、その部分を取り外そうとしたが女性に止められた。
女性は、天井の蛍光灯を指差した後機械のさっきと同じ部分を指差す。
神崎は「電気を流せ」と言っていると理解できた。
神崎は2本の導線を持ち、電気を流した。
変化がないため、電圧などを色々と変えてみたが効果はなかった。
それを見て女性は肩を落とし、少しがっかりしていた。
「日本語は?どのくらい分かるようになった?」
神崎が聞く。
「まだ全然です。ひらがなの形を覚えてる途中です。」
古賀が答える。
「お前はどう思う?」
神崎が聞く。
「何がですか?」
古賀が聞き返す。
「どこから来たかだよ。あの人工隕石とその中に入っていた人間が。」
神崎は言う。
「知りませんよ。
解析が進んだらじきにわかるんじゃないんですか?」
古賀が無責任に言う。
「その解析が全然進まないんだ。
さっぱりわからない。
あの人に電気を通せってジェスチャーで指示されたけど、機械に電気を通しても何も起きなかった。
1万5000年前だろ?あの宇宙船。」
神崎が言う。
「はい。解析結果によると」
古賀が言う。
「1万5000年前にあそこまでの科学力があったとは思えない。
仮にあったとしても遺跡やら遺物やらが何も見つかってないのはおかしい。」
神崎が困った顔で言う。
「未来人なんじゃ。
未来から1万5000年前にタイムスリップして、何らかの不具合で墜落しちゃったとか」
古賀が冗談交じりで言った。
「それもあるなぁー」
神崎が言う。
「えっ?神崎さんこの考え信じるんですか?」
古賀が驚いた表情で言う。
「自分から言っておいてなんだ?
まあ、よく分からないことが起こりすぎて、たとえ未来人だったとしてももう驚かんな。」
神崎が言う。
「もうさっぱり分からんからあの人が日本語を理解できるまで待つか。」
神崎が言う。
「本気ですか?結構かかりますよ!」
神崎が言う。
「時間がかかったとしても数年、人間の寿命の範囲だろ。
あの機械は何回人生を繰り返しても理解できる気がせん。」
神崎が弱音を吐く。
あれから半年が経った。
様々な言語を聞かせてみても女性が知っているものはなかったため、その女性は0から日本語の習得をしなければならなかったが、少しずつ理解できるようになっていった。
神崎のコンピューター解析もほんの僅かだが進展があった。
神崎は人工隕石のコンピューターの原理は理解できなかったが、あの女性の拙い日本語による助言によって、使うことができるようになった。
「このコンピューターは人類が使っているコンピューターとは原理が全く違う。
人工隕石のコンピューターは人類の最先端コンピューターの1億倍以上の性能があることがわかった。」
と神崎は古賀に言った。
それからさらに1年が経った。
神崎は、人工隕石のコンピューターを使い、世界にある数々の未解決問題を解いた。
解けうる全ての未解決問題を解決しても、機械の仕組みは分からなかった。
女性の日本語能力は随分と上達した。
女性は自分のことを「ヒミラ」と名乗った。
ヒミラは、「ヒミラ」というのが自分の故郷の言語での発音に1番近かったらしい。
ヒミラは自分の話をしてくれた。
ヒミラはブラックホールの解析をし、人工ブラックホールを創るのが任務だったらしい。
しかし、人工ブラックホールの試作中トラブルが起こり、ブラックホールが暴走し、なんとか脱出ポッドで逃げ切ることが出来た。
船員がもう1人脱出できたので、どうなったかのデータが残っていないか訪ねてきた。
ヒミラはコールドスリープで眠っていたため、どのようにして地球に着いたのか分からなかった。
指示された機械とモニターを繋ぎ、うまい具合に表示されるようにした。
すると1つだけデータが残っていた。
ヒミラがそれを表示するよう指示する。
ものすごく神妙な面持ちで画面を見る。
画面には何も表示されなかったが音声だけが流れてきた。
『ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』
神崎たちには全く理解できなかったが、ヒミラは泣き出してしまった。
号泣したヒミラは嗚咽が止まらず、何度もその音声を聴き直した。
ヒミラが落ち着いた後、音声が何を言っていたか教えてくれた。
保存されていた音声の内容は
「ヒミラ、このままではスピードが速すぎて2人とも死んでしまう。
そのため、私のポッドに積んである核燃料を爆発させ、ヒミラのポッドを減速させる。
君のポッドに積んである大型通信機を使用すれば、本部とも連絡が取れる。
無事助かることができたら、是非僕たちを弔って欲しい。
だから、君はなんとしても助かってくれ。」
それを聴き古賀は、
「今でも本部に連絡はつくのかなぁ」
と呟いた。
ヒミラによるとブラックホールの近くで解析をしていたため、ヒミラたちの1年は地球での3万年だったらしい。
だから、帰らずデータだけを送るという任務内容だった。そのため、今でも本部が待っているかもしれない。本部と連絡がつくかもしれないとヒミラは言った。
古賀は
「その文明は遺跡すらこの地球上に存在していない。」
とヒミラに言った。
しかしヒミラは、それでもいいので連絡だけでもさせてほしいと懇願してきた。
そして、ポッドの内部にあった機械をまたもや取り出してきた。
ヒミラが言った、通信に必要な電力量は、核爆弾並のエネルギー量だった。
そんな電力はとても用意できないと神崎と古賀は慄いたが「これがあるから大丈夫」という風な顔でドラム缶のような形の機械を指差した。
「そうか、あれが音声データで言っていた核燃料なのか。
あれを使えば莫大な電力を1度に発生させることができるのか。」
神崎は言った。
しかし、同じ人工隕石の中にあった機械なのに接続することができない。
ヒミラも接続用の機械が故障していると言った。
そのため、接続用機械の修理を2人は始めた。
その修理になんと1年を要した。
修理を終え、核燃料と大型通信機を接続する。
すると、「ヴィーン」という音を立てて、音が消えた。核燃料が底をついたのだろう。
何かが起こった用には思えない。
しかし、ヒミラはまだ諦めてはいない様子だった。
その3日後、いつも通りヒミラと3人で人工隕石の解析をしていると突然空間が歪み、ワープゲートのようなものが出現した。
そのゲートの中から数人の人が出てきて、
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーー」
と言ってきた。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
ヒミラが言う。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「ーーーーーー」
そうヒミラが言うとパソコンを立ち上げ、ポケットからUSBメモリを出し、3分ほどパソコンを操作した後、満足したようにパソコンの電源を切り、そのUSBメモリを古賀に渡した。
「ホントーニ、アリガトー」
まだ拙い日本語でそう言いながらゲートに入っていった。
ヒミラはゲートが閉じるまでずっと笑顔で手を降っていた。
古賀がヒミラから渡されたUSBメモリを見てみると、まだ発見されていない理論や物質がまとめられた資料とメッセージが2つ保存されていた。
1つ目のメッセージには
「今まで、本当にありがとう。
あなたたち2人のことは、永遠に忘れません。」
と言うような内容が書かれていた。
2つ目、これはゲートに入る直前に書いたのだろう。
「ヒミラの仲間は、別次元に移住することになった。
そのため、地球上に遺跡や文明などの証拠がなかった。」
という内容が書かれていた。
このUSBメモリのおかげで、人類の科学は1000年早まった。
ヒミラは地球の衛星軌道上を10年ほど回っていました。
少しずつ高度が下がり、日本に墜落しました。
その時、自動で減速装置が作動し、被害が最小に抑えられました。