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大理席の証人  作者: 端丸
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19 代理人と帽子

 砂と風ばかりの一本道、周りに誰もいないことをいいことに、同行物が喋りだす。

「どうしてこんな仕事してるんだ?」

「働かないと生きていけないからだよ」

 面白味のない返答に彼が鼻を鳴らす。あるのかは知らないが。

「お前のしている〈代理人〉ってのは理不尽な仕事だ」

 どうにも新しい持ち主の生業に言いたいことがあるらしい。しかし一介の帽子にまで知られているのは少し意外だ。

「お前がやったことにならないんだぞ。それって……どうなんだ?」

「じゃあさ、君には代理を立ててでもやりたいことはないの?」

 依頼さえ届けば、代理人には何でも押し付けることができる。代わりに仕事をさせてもいい。三日三晩の徹夜作業の疲労を全て肩代わりさせることもできる。何でもない代わりに何にでもなれる、それが〈代理人〉だ。

「特にないな。帽子の仕事は被られることだ。それは俺を買ったお前にしかできないことだぞ」

 大げさだ。それこそ俺でなくてもいい。帽子が喋ることを許容できる人なら。それか被る人を雇えばいい。帽子が自分を買い、人を雇うことができるなら。

 帽子が何か続けようとしたところで、ざり、と地面を踏む音がする。待ち人は来ませり。

「お待たせしました! おっと、あの帽子買ったんですか? 似合ってますね」

 どこから現れたのか、気付けば隣でニコニコしている。心臓に悪いことこの上ないビジネスパートナー、イザだ。

「…………」

 イザが現れると帽子は途端に押し黙る。この喋る帽子は誰にも被られずに埃を被っていた。これまで余程喜ばしくない反応を見てきたのだろう。持ち主以外と喋るつもりはないらしい。しかしイザはよく見ているから、君が喋ることなんかバレているだろうに。

「こんにちは、イザ。新しい手紙を運んできたの?」

「そ。だってぼくに代わりはいないものね。改めて、お客様のために端から端まで! マラッカ郵便です!」

「うん。じゃあ次の依頼をお願い」

 お決まりの挨拶に、今のところ絶えることのない封書。書面で指定された次の目的地は聞いたことがある場所だ。

「このまま向かうよ。またね、イザ」

「はいー。じゃ、また仕事が終わった頃に!」

 走り去ったイザが見えなくなるとすぐに、

「今度の行き先に楽しみでもあるのか?」

なんて喋りだす。一人になった瞬間の静寂を吹き飛ばすみたいに、放っておいてくれもしないで。そんな帽子がけっこう好きだ。

「セイボリーパイが美味しいお店があるらしいよ」

「ほー。俺に食事の臭いをつけるんじゃないぞ」

「はいはい」

 目的地までの道を頭に浮かべ、荷物を背負いなおす。道のりは長い。

2023/12/17 タイトルを変更しました。

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