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久遠 15 ♯ルート:Sf




IFストーリーです。


シファルルートになります。


シファル=Sifarと書くらしいので、ルート:Sfという表記にしました。


抱えられるもの、抱えられないこと1及び、カルナークの閑話以降の話です。




~シファル視点~



異空間という言い方をされたが、時間の動きがどの程度違うのか見当がつかない。


俺がいる異空間は、ケガをした時に引っ張られた時のような感じで、シューヤの部屋の一角で俺が浮いている状態で。


俺がその中でシューヤに教わりながらこっちのやり方でいろんなことを学んでいく。


ただの計算ですら、やり方次第でこんなにも手間がかからずに答えが出せるんだなと驚きを隠せない。


こっちのことわざってやつの言い方でいえば、目からウロコだ。


文字や数字をしっかり把握した後は、一気にひながいずれ高校という学ぶ場所に入るために必要だろう勉強へと近づいていく。


元々勉強は好きだし、他国の言葉や独特の言い回しに、マナーの違い、国の特産物や王族についての小ネタに、兵力。いろんな情報を得て、それでナーヴといろいろ話すのは好きだった。直接的に政治にかかわることがないとわかっていたとしても、だ。


もちろん魔法についてだって、国によっていろんな決まりがあるのも面白かった。


だからっていうんじゃないけど、どんな学びだって面白さをひとつでもいいから見つけてみれば、そこから一気に吸収できることが多かった。


俺は、だけどね。俺は。


カルに負けたくないと思った時期は、特に必死になってやってた。魔力を減らしてからは、違う学びへと向かっていった。


知らないことを知るのは、無駄じゃない。自分の武器になり、血肉へと変わってくれる。


こんな感覚が、どこか懐かしい。


ひなと出会うずっと前と、魔力を戻して以降に聖女を召喚しないでいい方法を…とナーヴやカルと試行錯誤しながら日々研究していた頃。


知識を得ることをどれだけ自分が渇望していたのかを思い知った時期だ。そして、自分たちが出した答えが間違いじゃなかったと確信した瞬間だって、そうだ。


表向き見えない武器を着々と自ら手にして研ぎ澄ましていく、その時間が宝にもなる。


そんな感じで得ていくモノが、愛してやまない存在の背中を支えられるかもしれない。


現時点ではなんのつながりもない、俺とひな。


ひなの兄貴からもそれとなく打診めいたものはあったが、シューヤに教わりながら配信をしていったところで、ひな自身が興味を持たなければ意味を持たなくなる。


万人向けの場所での配信をしつつも、本音はたった一人への配信だ。


配信をしていてコメントってのがついたりもするけど、シューヤは基本的に見なくていいし内容は気にしなくてもいいという。


どういうことをするといいのか悪いのかの判断が、まだ自信がない俺。


貴族とのやりとりや、教会のアホな連中とのやりとりの方がまだわかりやすかったかもしれない。


自分の生活に馴染んでいたものでもあるからというのもあっただろうけど…。


「……っと、今日の配信は終了。…おつかれ、シファル」


「んー…。今日ってこのままここに泊まってもいい日だったっけ」


「いーよぉー。この後、誰か来るとか特に連絡入ってないみたいだし。久々にどこか出かける? 飯食いに行く?」


「あー…。なら、回転すしっての食いたい。前に行った時、面白かったし美味かった!」


「まさかの生魚にハマるとはね」


「うるさいよ、シューヤ」


こっちの時間にして一時間から二時間ほどの時間を異空間で勉強をし、それ以外の時間を配信とここでの生活に慣れるための時間に費やす。


それを繰り返していくと、ここでの暮らしにそれなりに馴染んでいく。


「配信の方での収益も上がってるし、ちょっとだけお高い方の回転すしに連れて行ってやろうか」


「やった!」


喜怒哀楽の表現、言葉遣い、服装などなどなどなど。挙げればきりがないくらいに、過去の自分がどこかに行ったのかってくらい馴染んでしまっている俺がいる。


あっちで天寿を全うしてひなよりも先にこっちに来て、実年齢はかなり高齢だけれど、ここでの年齢に合ってしまうのか思考回路や趣味嗜好も年相応のそれに近くなっていく。


気持ちも若くなった影響か、楽しいことに流されそうになる瞬間も多々あって。そのたびに、冷えた目でシューヤに無言の圧力をかけられて目がさめる。


そうして過ごしていく中で、ひなへの気持ちが月に一回くらい揺らぐ時があって。


目に見えない結果を追いながら、いつか出会うひなのためにと今は触れることも叶わない関係でも飲み込んで。


それがどうしてもツラくて重たくなって、苦しくなってしまう。あの頃のひなに会いたくなるし、早くひなと再会したいと急いてしまいそうにもなった。


焦れて急いてしまったって、現段階での関係性もやれることも何一つ変えるわけにはいかないってわかってるだけに報われなくて涙があふれてしまうんだ。


時々シューヤが俺を試すようなことをしてくる。


シューヤの知り合いの、ひなによく似た感じの女の子と会わせる。話をする。手を繋がせる。


わずかな時間だけの楽しみはあるとしても、そういうことをされるたびに『ひなじゃなきゃ嫌だ』が発動するってことは、なんだかんだ言いながらも一途なんだよな。俺。


階段を一緒に降りて、スニーカーを履いて玄関を…と思ったタイミングでシューヤにメールが届く。


「…ん。靴履いたら、ちょっとだけ待ってて」


「んー」


解けていた靴ひもを縛り直しながら、玄関を出てすぐの場所でスマホを弄っているシューヤの様子を伺う。


この状態の時は、たいてい返信もその場でするから、待っててと言われること多数。


靴先を地面にトントンと左右とも順番にやってから、玄関を出る。


まだかなーとシューヤに背中を向けながら待っていると、いきなり背後から抱きつかれた。


「うわっっ!!」


俺よりも身長も体格もいいシューヤ。この世界でいうところの、細マッチョっていうのに該当するよう。


のしっと思いきり体重をかけながら抱きついてきたシューヤに、「なになになんなの」と早口でまくし立てた。


すると抱きついた格好のままで、俺の目の前に自分のスマホの画面を見せてきた。


「えー…なに、いった…ぃ」


言葉尻は、小さくすぼんで。


「……やった!」


「…だろ? これを喜ばずして、何を喜ぶって話だよ。…よし。今日はお高い回転すし確定! 二人でささやかだけど、祝杯あげよ。シファルはこっちでまだ成人じゃないから、お酒はダメだけど」


「シューヤだって永遠に未成年やってんだから、飲めるようになるのはまだ先だろ? シュワッとしたやつでもいいじゃん」


「そうだけどさぁ」


「俺だって元はとっくに成人しきって、ヨボヨボのじーさんだっての。酒が飲めないわけがないけど、人目につく場所で飲んじまうとさすがにヤバいからな」


「わかってるけどさぁ」


「乾杯したいのは俺だって同じだよ。……やっと、こっちに興味持ってくれた。やっと…」


ひなの兄貴から、あれから不登校になったひなが、高校を受験したいと家族に打ち明けて、そのための準備に入ったという。その中には、ひなの兄貴推奨の俺の配信チャンネルも使えるということで、晴れてチャンネル登録&視聴…と相成った。


「それとなくひなが苦手としてる教科とか、いろいろ情報入れとくよ。最新情報としてね」


「…ん!」


その時期に入ったということは、気づけばあっという間にひなの受験シーズンに入り、卒業、そして春休みを経て高校入学…となる。


聖女召喚の必要がなきゃ、もう…召喚されることはない。


一応それを回避するために過ごしてきたわけだけど、こっちに俺が来て、もしかしたらあっちの設定が変わったりしたら? 俺たちがやり遂げたことがなかったことになっている世界線にひなが連れて行かれたら?


もしも…を想定しないわけにはいかない。


何があっても即時即対応が可能なように、いろんなトラブルを予想してかなきゃ。


俺が教会の連中にあそこまでされて、危うく何かしらの樹木になりかけた時を思い出せば、気が引き締まる。


あの時、最悪を回避できたのはシューヤが想定していたモノの一つにほぼ該当していたから。それと、シューヤの能力の高さと柔軟性のおかげで対処出来たとこが多い。


けれど、やっぱさ。シューヤっていう神様みたいなバカバカしいほどの才能と能力に丸投げするんじゃなくて、心と体にかかる負担はある程度分けるべきだと思うわけで。


シューヤだけが苦しむのも疲れるのもダメだ。俺にも出来ることがあるならば、いくらだって腕を伸ばそう。どこまで伸ばせるかわからないけどね。


今回、ひなが高校に無事に入学できるっていうのが、ある意味分岐点を確かめるポイントになる。


そして、俺との再会は入学式ってことになった。


だから…絶対に召喚されずにすむ未来へ繋げられることを祈りつつ、やれることをやっていく。粛々と。


その間にもシューヤがアッチの世界の状況を見守ってもいるから、特に何か問題があったようには見受けられないから、どうにかなりそうなのかもしれない。


(最後の瞬間まで、気が抜けないけど)


分岐点までは、絶対に気を抜かないでねと釘をさしてくる時点で、もしかしたら結構ギリギリなんとかなってくれたら…ってレベルなのかもしれない。


もしもそうなんだとしても、俺がやれることは何も変わらないはず。だから…か。余計に何も言ってこないのは。


(どうか、このまま何事もなくひなの卒業式と髪色を変えてくるのと、入学式直前…そして入学式へと、時間が進みますように)


シューヤにしては珍しく、年相応に見えそうな感じで嬉しそうにしている。いつもは食わない1個乗せのすし頼んでるなんかくらいだから、相当嬉しいんだ。


「ぶり、めちゃうまー。つぶ貝すきー」


好きなものを頼む回数も増えてるし。


他の誰よりも嬉しそうにしている様に、シューヤがどれだけの時間…この状況を待っていたんだろうなと考えた。


きっと聞いてもテキトーにはぐらかされそうな気がする。


「貝って、ほんと美味いんだな。こっち来て食ってみて、一番の衝撃は貝が安全に食えてめちゃくちゃ美味いってのがな。アッチじゃ、貝を食うってのがかなり難しかった記憶しかない」


とか俺が言えば、シューヤが何度もうなずいて「アレは食えたもんじゃない」と呆れたような顔をした。


アッチの世界あるあるの話をたまにして、ひなの話で盛り上がって、これからの話をして、そうして帰路について。


空を見上げれば、月はアッチの世界よりもかなり小さい。けれど、優しい色合いは同じじゃないかと思う。


ひなはよく空を眺めていたっけな。


月を見て、星を見て、星座の話を時々聞かせてくれて。


今はまだアッチのひなは空を眺める元気があるのかな。もう、コッチに来る準備の段階なのかな。


(待ち遠しいな、ひなと再会するその日が)


本当にひなの中に俺の記憶が戻るのか、今はまだ不確かだ。


入学式当日に、俺からは話しかけないことになってる。その辺もシューヤがひながコッチに来る時に記憶を戻すキッカケの魔法を仕掛けるものに、ちょっとした出会いを含むって言ってたな。


どんな再会の仕方を俺たちに用意してくれるのか、楽しみなような…シューヤのことだからまともじゃないような。


ほんのすこしの不安を混ぜ込んで、俺はその日までにひながうつむきかけた顔を上げて歩ける日々が戻るのを祈っている。


どうか…ひなが笑顔でいられますように、と。


――――そうこうしていくうちに、あっという間に時は過ぎていき。


シューヤが魔法で時間の進み方を変えたんじゃないかと感じるほど、気づけばもう…4月に突入。


「無事にシファルも入学、だね? さすがにシファルって名前はどうかと思ったから、違う名前にしたけどね。あれやこれや、いろいろごまかして(笑)」


シューヤがいう、いろいろごまかしたっていうのは、魔法で記憶操作をしたとかその手のことが多い。暗喩ってやつだ。


「そら、どうも」


受験自体は俺もひな同様に受けた。


別の教室だったから、受験日に見かけることはなかった。合格発表はネットで発表だったけど、ひなの兄貴経由で合格していることを知った。


(あの時は、ひなが兄貴とシューヤとでお祝いをしに行くってきいて、ややしばらくヤキモキしたっけ)


その時点で知り合いだったなら、その祝いの席に俺だって一緒に行きたかった。


準備は整った。


あとは、その日を待つのみ……だ。


「シファル。ちょっと出かけるよー。おいでー」


インターホンじゃなく、ドアをどんどん叩くのはシューヤだ。あの日のインターホン以降、ドアを叩くようになったんだよな。


準備をして、外に出た。


「シファルに、ちょっといい道を教えついでに、風情があることでもしようかなって思ってね」


こっちこっちと少し先を行くシューヤの背を追い、早足で追いかけると。


「…お、おぉ……」


河川敷にあがっていったその先で、淡いピンクの並木道。


「っていってもね、本当はまだ咲いてない。シファルの目にだけ幻覚が見えてるから」


「って、なんだよ。驚いて損した」


シューヤのいたずらかと思って、ちょっと文句を垂れてやる。


「あはは。でもね、そうだな…、4月末か5月頭には同じ景色が見られるよ? その頃には、ひなと再会した後だから…一緒にここを歩くのもいいんじゃなーい?」


文句を言った俺に返ってきたのは、“これから”の話。


「…………そう、だな」


今はまだ幻覚でしかない、淡いピンクの並木道。そこをひなと並んで歩けたなら。


「去年もこの花、見たはずだけど…名前覚えてる?」


薬草の名前はよく覚えてるのに、この手は記憶に薄くなりがちで。アッチの世界でも時々ひなが教えてくれたっけ。


「なんだっけ…ほら、さ…とか、う…とか」


曖昧に返す俺に、いつも通りの呆れた顔つきでちゃんと教えてくれる。


「あー…もう、混じってる。桜と梅を一緒にしない。あれは、桜。ちなみにだけどね、ピンクのは観賞用で、白い桜が咲いていたら後で実が生る方だよ」


「桜…桜……」


花の名前を言いながら、その幻影をもう一度目に焼きつける。


「はやく…咲けばいいな。ひなと…あの道を歩きたい」


目の前に遠くまで続いて見える、女の子が好きそうな淡い色合いの道を眺めながら。


「ひなに……会いたい」


目を細めて並木道を眺めれば、ひながそこに立ってて、こっちを振り向いているような…そんな気がした。



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