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久遠 14 ♯ルート:Sf


IFストーリーです。


シファルルートになります。


シファル=Sifarと書くらしいので、ルート:Sfという表記にしました。


抱えられるもの、抱えられないこと1及び、カルナークの閑話以降の話です。


※聖女は、誰が為に在る? 8(24話目)の話に触れる内容になります(ひながイジメに遭う話)





~シファル視点~



奥歯を噛みしめる。


ギリギリッと自分の中から、歯が軋む音がするほどに。


遠巻きに見守っているひなの姿が、にじんで揺らいで見える。


ひなから話を聞いていたし、シューヤからも詳しい話は聞いていた。聞いていたからこそ、その背景を知っているがゆえに、胸が痛い。


もう帰りなよって、現段階で俺を知らないひなを誘うようにしてあの場所から連れ出してしまいたくなる。


ひなが待っている“友達”と思っている奴らは、用事が出来たってさって嘘を吐いて。


「……堪えて、シファル。魔力、多少残ってるんだから、感情に左右されたら同じことを繰り返すだけだよ」


シューヤは、時に残酷な言葉で俺の足を留める。


カルに嫉妬して、焦れて、無茶をしたことでかなりな魔力を失っていた俺。ひなと出会ったばかりの時の俺はそうだった。


その後、ナーヴやカルの協力もあってかなりな量まで戻せたけれど、元はといえば俺の心の問題が引き起こしたことだったわけで。


「…わかってる。…わかってるけど……でも、シューヤ………ひなが、寂しそうだ」


時間が経つごとにどこか不安げな表情になっていくひなは、足が痛いんだろうに同じ場所から決して離れない。


よく見れば、その時間をかなり過ぎた頃からひなの様子を俺たち以外にも見ている存在がある。


「あいつらなんだろ? ひなを苦しめたのは」


即死させていいなら、一瞬で土魔法で埋めてやりたい。二度と明るい場所で過ごせないように。ひなと同じ空気も吸えないように。


「ふ。…シファルは、物騒だなぁ」


俺の頭の中が見えたんだろうシューヤがそう笑うけれど、その視線の先は俺じゃなくてあいつらで。


その目はちっとも笑ってなんかなく、俺よりも速く、その命を刈り取られたことすら気づかせずに消してしまえそうな、そんな……。


俺がシューヤの頭の中を完全に把握することは出来ない。情報の共有をする時に開けてくれるか、念話の時に多少見るかどうかって程度。俺からは常に流れっぱなしみたいなもんだ。


だから怖くなった。もしも、今。シューヤの頭の中が全部見えていたら、どんな光景が見えていたのか…と。


「なぁんもしないよ? ……今はね」


ひなからひな自身に起きた話は聞いているけれど、ひなをこんな風に待たせたやつらのその後の話は聞いたことがない。


ひな自身は忘れたいことでもあるし、学校とかいうあいつらと嫌でも顔を合わせる場所には行かなくなったとも聞いていたから、情報を得ることもなかったんだろう。


でも、ふと思った。こんなシューヤを目の当たりにしてみて、シューヤが何もしないでいたはずがないとわかるだけに。


(たった今、目の前で聞いたもんな。今は何もしないって)


存在を消すのか別な意味で消すのか。シューヤなら、どうとでも出来るから、その先が気になるといえば気にはなる。


でも、きっと……後でひなが相手のことを気にかけた時に、悲しまない結末を選んでいる気はしているんだ。


「…あ。ひなが動いた」


シューヤのその声に、ひなの姿を目で追う。


するとひなと入れ替わるように、さっきまでひながいた場所にあいつらが集まって話し始めた。


そして、大したしないうちにひながさっきまでの場所に戻りかけて、奴らの会話を聞いてしまう。


ショックを受けながらも、あいつらを避けて移動してから、自分の兄貴への土産を買っている姿が見える。


「…ひな」


お祭りという場所では泣かないようにしているのか、顔色は酷く悪いのに、土産を買う時に相手に笑みを浮かべながら支払いをしている。


「シューヤ! ひなを追いかけなきゃ!」


すこし小高い河川敷とかいう場所で見守っていた俺が、駆け下りようとしたのに。


「ストップー!」


なんて言いながら、シューヤが俺の腕を思いきり後ろへと引っ張った。


ガクッと体が大きく揺れて、転びそうになる。


「追跡できるって言ってるだろ? それにまだタイミング的に早い。ひなが行く予定の場所まで、かなりゆっくり歩くから時間がかかるんだ。しかもここから離れた場所なんだ」


焦れったい気持ちのままに、今すぐ飛び出したくなる。


「っっっ…!!」


肩を抱いてこの腕の中に収めて、何も言わずに抱きしめてあげたい気持ちで胸がいっぱいになる。


「ダメだよ? 今はまだ、シファルはその場所には行かせてあげられない」


俺を止めようと、シューヤが俺の腕を強めにつかむ。


全てを見透かすその言葉に、無言で腕を振り払ってうつむいた。


「……そのままここにいて?」


そんな言葉をかけられたけど、動く気力もない。こぶしを思いきり握って、浮かびかけた涙をこらえる。


(本当に泣きたいのは、ひななんだから)


手のひらに爪が食い込み、チリッと痛みが走った。


こんな俺の姿を見たら、ひななら何も言わずにこのこぶしを解いてしまうんだろう。


「こんなことしたらダメだよ」


って言いながら、俺よりも痛そうな表情を浮かべて。


「お待たせ」


シューヤの声がして、と同時にいい匂いがした。


「はい、これ。とりあえずは、これを持って移動ね」


さっきひなが買っていたものと似ている?


「お好み焼きってやつね」


「…お好み焼き」


ひなと一緒似た時にこれに近いものを作ってくれたような、失敗してよくわからないものが出来たような。


「いい匂いがする」


そういいながら、袋をぶら下げながら並んで歩き出した。


歩きながら、この後の流れを簡単に説明される。


公園って場所でひなとシューヤは話をして、その後はシューヤの家=髪を切る店に向かうという。


あのあたりの地形はそこそこ覚えたので、もしもそこに戻れと言われたら何とかなる気はしている。


「…なんだけどね、シファル。俺とひなが俺んちに行ってる間、今から行く公園の方で待機。その間、それ食べてていいから。ただし、ひなと俺が話している間は、ひなから視認できないように阻害の魔法をかけるからさ。近くで話を聞くつもりなら、無言を貫くこと。それと、動かないこと。邪魔にならない場所にいること。それが出来ないんなら、公園から出た場所にいてよ。まあ、俺がひなに近づく時点でシファルに阻害の魔法はかけちゃうけど」


これからの話をされて、その状況を想像してみる。


正直、その時のひなのそばにいたい。何も出来なくても。その時のひなを救うのが、シューヤなんだとしても。


「……公園の外にいるよ、俺は」


それでも、俺はその流れの中にいない方がいいと思った。今の俺は、すこし離れた場所で見守るだけの存在。


再会するまで、近からず遠からずかかわる人間の一人でいる。


その気持ちを作っていくための、今日。


シューヤが俺をそばに置き、あえてひなのこの状況の中にいさせたのは俺のためだったんだな。


「ん。……じゃ、俺たちが公園を出て、100数えたあたりに阻害は解除になるようにしておくね。その後にお好み焼きを食べな?」


互いに無言で歩き続ける。俺はお好み焼きが入った袋を手に、ひなとシューヤの二人を見守る気持ちを整えていった。


っていっても、グラグラと揺れているけどな。公園に入らないと決めたのに、気にはなるし心配だから。


「…さ。着くよ、公園に。で…っと、ハイ。もう阻害かけたから、静かにね」


小声でそう告げながら、シューヤは公園の方へと足を速めて近づいていった。


俺はというと、公園という場所の入り口にある低めの囲いのような場所に腰かけて、公園の方に背を向ける格好になった。


二人の声がかすかに聞こえる。二人の会話とは違う場所から、公園のまわりにある家から楽しげな声が聞こえる。


この温度差はなんだろうな。


胸の中がギュッと痛む。


うつむく俺の横を、話が終わったらしい二人が通り過ぎていなくなる。


シューヤはこっちへ視線をよこしてから、微笑んで。そうして、またひなの方へ顔を向けて笑って。


ひなは、目の下がほんのり赤くなっていた気がする。泣いたんだよな? と思えるような顔だったのに、シューヤの横でシューヤにつられたみたいに笑ってて。


やがて二つの背中が見えなくなったあたりに、薄い膜が消えたようなパチンという音がした。


「阻害、解除になったか」


手のひらを何度も握っては開いてを繰り返し、息を長く長く吐き出した。


お好み焼きを手に、さっきまで二人が腰かけていたものの上に真似をして腰かける。


「さっきひながコッチにいたから、俺は…ここ」


ひなと並んで腰かけるような位置に、腰を下ろす。


「う…わ、なんだ…これ。グラグラする」


とっさに顔の両側にぶら下がっている鎖状のものに掴まる。


「お……おぉ……なんだこれ。不安定なイス?」


何とも言えない緊張感があるイスに腰かけたまま、お好み焼きを取り出して食べてみる。


箸の使い方は、シューヤに鍛えられていくらか使えるようにはなった。


「デカいままかじりつけばいいのか?」


けれど、箸で小さく分けるなんてワザは教えてもらっていないもんで、可能な方法で食べるしかない。


「あー……んぐ、んむ…っ! ん! んぐ…むぐ……なんかいろいろ入ってるな。野菜に…なんか麺? 玉子も入ってるか…」


かじりつきながら、すこしずつ消化していく。


ひなとの話が終わったら、シューヤが迎えに来るか何か知らせがあるだろう。


「さすがにほったらかしってことはないよな?」


なんて自分で言いながら、まさかな? とシューヤの性格を思い出してみて固まった。


「まさか……このまま放置なんてこと…」


まだ慣れていない場所。地理も把握しきっていない。正直なことを言えば、ここはどこだ? って感じだからな。


「勘弁してくれよ…シューヤ」


まだ確定していない未来を、何とか回避したい。どうせ聞こえてるんだろう? と思って、迎えを望む俺。


それでも結構な時間、ほったらかしにされた。


「本気でこのままここにいるしかないのか? あー…、ベッドで眠りたい。ここじゃない場所に行きたい」


遠い目をしながら、願いを順に呟く。


近くに水が出るところを見つけて、渇いた喉を潤す。


「…ぷは!」


勢いつけて飲んで、顔をあげてから口元をこぶしで拭った時だ。


(おまたせー。今からシファルの頭に方向指示が聞こえるようにするよ? 言われるがままに移動開始してぇー)


打ち合わせもない内容に、やれやれと思いながらも、帰れそうだとホッとする。


右だの左だの、本当に頭の中に方向を支持する声が聞こえ続ける。


歩いていくその途中から、どこか見慣れた道に入った気がして、首をかしげた。


おぼろげな記憶と案内を頼りに歩いていけば、次に警戒しながら左に曲がれという声がした。


(警戒しながら?)


謎の注意に、言われたようにそっと曲がる先の道を警戒した。


(…あ)


警戒して覗きこんだその先に見えたのは、ひながシューヤに送られて着いたんだろうひなの自宅で。


ひなの兄貴がシューヤを睨みつけながら、ひなから離そうとしているのが見て取れる。


ひなは今は兄貴の腕の中にいて、シューヤはひなに向けて「ひな、またね」と手を振っている。


そんなシューヤを追い払うようにしている自分の兄貴を腕の中から見上げ、それからシューヤの方へ顔を向け、ひながぎこちなくも微笑んで小さく手を振っていた。


シューヤがその場を去り、ひなが自分の兄貴の腕の中から解放された姿を見て目を瞠る。


(…髪、短く)


シューヤと一緒の時間で起きたことを思い出した。


(そういえば、髪を切ってもらったって)


出かける前の髪の長さを見ていただけに、その長さを切ったことへの驚きが隠せない。


貴族の令嬢は、基本的に髪の毛は長いことが多い。短いのは、男性だ。男性でもジークみたいに伸ばしているのもいたけど。


(かなり思い切った長さまで切っていたんだな)


髪を切った経緯と、その時の気持ち。それと、シューヤへの感謝を語っていたひなを思い出す。かなり昔の話だ。


「…似合ってるよ、ひな」


だからこそ、思う。


相手に言われたからじゃなく、自分で切ってもらうことを決めたひな。切るための勇気をシューヤに分けてもらったとも話していたひなを思えば、切った時の自分の姿は想像したくなかったのかもしれない。


それでも、あんな風に切ってみて、可愛く変身していた。


この後、人との関わりが減っていき、次の学校に入るまでにいろいろとひなの中でたくさん葛藤したと聞いている。


学ぶべき場所で学べなくなり、自分の兄貴を含めていろんな人に助けてもらった話も聞いている。


ひなとひなの兄貴が家の中に入っていったのを見て、ふぅ…と息を吐く。


これからが本当の意味で大変で、ひな自身との闘いの始まり…か。


「…あ」


そこで気づく。


「だから……俺?」


配信者について、シューヤから説明を受けた。そして、どうして勉強系の配信者なのかも。


後者の方はイマイチ納得いかない説明だったけど、この状況を見て、昔ひなから聞いた話を思い出していけば納得だ。


「俺……ひなを支えられる?」


直接じゃないけれど、ひなが頼れる場所を増やしてあげられるのかもしれない? その一端になれる?


「――――正解にたどり着くの、おっそ」


角を曲がらずに、結局は二人の姿を見送って、その後は考え事をして。


そうしている間に、シューヤが俺の近くまで来ていたなんて。


「あとは歩きながら話そうか、シファル」


そう言いながら先を歩き出したシューヤは、どこか満足そうに笑っていた。


「…あぁ。話してくれ、シューヤ」


ひなとの再会の前に、ひなを救う。支える。ひなの一部に…なりたい。


「じゃあ、まずは…この世界の勉強をしてもらわなきゃなんだけど、異空間にしばらく入っててもらおっかな」


意気込んだ俺の心を、シューヤの謎の発言がポキンと容易くへし折った気がする。


「え……? は? 異空間? 勉強?」


戸惑う俺に、シューヤは続けて告げる。


「時間の流れが違う場所で、ひなを支えるための勉強をするだけだよ。…ひなのためだもんね? 逃げたりなんかしないよね? シファル」


笑ってるけど笑ってないシューヤが「…出てきた」と思わずもらしてしまう圧をかけながらそこにいて、俺は黙ってうなずくほかなく。


「うん、シファルはイイコだねぇ」


ひなには優しい兄貴のような存在のシューヤは、俺にとってどんな存在だと表現していいのか迷っていた。




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